最後の慶早戦「この時間が続いてほしい」と願った 元プロ野球巨人・高橋由伸さん3完
輝かしい舞台で躍動するプロアスリートの中には、大学での4years.で花開いた人たちがいます。そんな経験を持つ現役プロや、元プロの方々が大学時代を中心に振り返る連載「プロが語る4years.」。第5弾はプロ野球・読売ジャイアンツ(巨人)の中心選手として18年間プレーし、ベストナイン2度、ゴールデングラブ賞を7度獲得した高橋由伸さん(44)です。3シーズンに渡って監督も務め、現在は球団特別顧問。野球解説者としても活動されています。3回の連載の最終回は慶應野球部で過ごした4年間への思いについてです。
いろんな人が集まった慶應野球部
大学4年生の秋、同期の仲間や後輩たちと戦う最後のシーズンは2位に終わった。リーグ戦最終週の慶早戦を迎えたとき、チームメイトたちは「このまま引き分け、引き分けで、ずっと慶早戦を戦い続けたい」と話していたという。
「本当に『ずっとこの時間が続けばいいなぁ』というのはありました。それぐらい、居心地がいいというか、楽しかったですね。卒業後に野球を続ける人もいたし、この4年間だけ野球を頑張ってやろうっていう人もいたし。推薦で入ってくる人がいたり、一般受験で浪人して入ってくる人もいたり。本当にいろんな人が集まった野球部で、将来目指すところもそれぞれ違って。なかなかない環境だったと思います。そんな中で過ごした4年間というのは、本当にいい時間でした」
いろんな世界の話を聞かせてくれる仲間たち
高橋さんは1997年秋のドラフト1位で巨人に入団し、18年に渡って中心選手として活躍した。2015年のシーズンを最後に現役引退。16~18年の3シーズンは監督を務めた。今年からは読売巨人軍特別顧問として新たな活動をスタートさせ、野球評論家、解説者としてメディアにも登場している。
プロ野球の世界で輝かしい実績を残してきた間も、慶應の野球部時代の仲間たちは高橋さんにさまざまな刺激をくれたという。
「プロに行ってからも彼らの話をいろいろ聞かせてもらってたんです。野球以外の話ですね。サラリーマンになって仕事がどうだとか。20代のときはこうだったけど、30代ぐらいになるとちょっとずつ偉くなり始めて、とかね。いまとなってはみんな、それこそ課長、部長ぐらいになるのかな。40歳を過ぎて順調に出世していくヤツもいれば、独立して起業するヤツもいたり。野球とは違った世界の話も聞かせてくれる、そういった仲間がいてよかったと常々思いますね」
社会人野球やプロ野球の世界へ進んだ仲間の活躍も刺激になった。同期でエースの林卓史(前・慶應義塾大野球部助監督)は日本生命、センターの根岸弘は三菱自動車水島、ショートの後藤健雄はプリンスホテルへそれぞれ進み、会社の看板を背負ってプレーした。2学年上のキャッチャーだった高木大成(元西武)、3学年下のピッチャーだった山本省吾(現・ソフトバンクスカウト)、外野を守った佐藤友亮(現・西武コーチ)らは、長くプロ野球の第一線で奮闘した。
学生を大人扱いしてくれた後藤監督
選手たちを大人として扱ってくれた後藤寿彦監督(当時=現・JR西日本野球部総監督)の存在も大きかったという。いまでも年に1度は恩師を囲んで野球部のOBたちが集まる会合が開かれている。
「後藤さんは、任せるところは僕らに任せてくれました。21歳とか22歳って大人のような子どものようなトシなんですけど、後藤さんは僕らの話を聞いてくれましたし、いろんなところで大人として扱ってくれました。昔でいう監督と教え子っていうのより、もうちょっと距離が近い感じがしますね。失礼ながら、いまでは友だちみたいな感覚で話せますし(笑)。本当にいい関係だと思います」
今年は母校の試合観戦にも足を運んでいるという。「春は神宮にも3、4試合見に行きましたね。この夏は社会人野球の都市対抗も、仲間が出てたので見に行きました。高校野球も見に行きますよ。(母校の)桐蔭学園、夏はちょっと、見に行く前に負けちゃったんですけど、春の大会は1試合見に行きました。片桐(健一)監督は高校の二つ上の先輩なんで。時間があるときはできるだけ見に行きたいと思ってます。見に行くとやっぱり、昔を思い出して、なんかいいですよね」
大学の4年間は準備のための時間
いまの大学生たちにどんな4年間を過ごしてほしいと思いますか? と尋ねると、高橋さんはしばらく考えてから、こう返した。
「大学での4年間って、一番何でもできる時間だと思うんですよね。高校生じゃなかなかできないこともあるんですけど、大学生になると、ちょっと大人として扱われますよね。自分自身でそれなりに責任を負って、いろんなことができる年齢でもあるし。そのあと、社会に出ていくにあたって、人生の中の大きな決断を迫られるときが来ます。そのときのために、いまできるいろんなことをやって、しっかり準備をするのがいいんじゃないかなと思います」
今回の取材で、高橋さんは実に表情豊かに、楽しそうな口調で慶應野球部での4years.を振り返っていた。数々の言葉はもとより、その様子から4年間の充実ぶりがひしひしと伝わってきた。