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特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

立命館大・谷脇弘起 「ゴロが怖い」と投手転向、1大会66三振奪った剛腕の成長曲線

体を大きく使って力強いボールを投げ込む立命館大の谷脇(高校時代以外、すべて撮影・井上翔太)

立命館大学の谷脇弘起(3年、那賀)は高校時代、第101回全国高校野球選手権和歌山大会で決勝まで全6試合に登板し、66三振を奪った。体を大きく使った投球フォームから威力のある速球を投げ込み、スライダーの切れ味も鋭い。立命館大でも昨年秋の大学日本代表候補に選ばれたが、中学時代までは注目されるような選手ではなかった。その成長曲線を追った。

立命館大・桃谷惟吹 「初球打ち」極めた履正社時代、今はチームリーダーの一人として

幼少期から身近だった野球

谷脇は小さい頃から、野球が身近な環境で育った。近くに住む親戚4人が野球をやっていた。「一番上のいとこが高校野球をやっていて、自分が幼稚園か小1のときに見に行ったんです。そこで野球に興味を持ちました」。このときから、遊びといったらキャッチボール。ルールやポジションのことはほとんど知らなかったが、白球に触れる楽しさを覚えた。小学2年から地元の少年野球チームに入り、サードを守っていた。

中学からはヤングリーグの和歌山ビクトリーズへ。中学2年の終わりごろから投手を始めたが、その理由は、適性を見込まれたというよりは、やや後ろ向きなものだった。「中学校から軟球から硬球に変わって、ゴロに全然慣れなくて……。軟球は打球が跳ねるんで普通に捕れるんですけど、硬球は腰を下げないと捕れない。ボールが怖くて腰が落ちず、なかなか試合にも出られませんでした」。その姿をチームの監督が見てくれていて「ピッチャーやるか」と声をかけてくれた。

投手転向の打診は、「花形」のポジションを任されることにうれしさを感じた。ただコントロールにはあまり自信がなかったと振り返る。「四球はそんなに出さなかったんですけど、外角を狙ったのが真ん中に入って打たれるとか、よくありました」。当時からスライダーを勝負球に使っていた。「感覚的に最初に投げたときから曲がっていました。『三振を取りたい』けど、ストレートがそこまで速くなかったんで『じゃあ変化球で』となって。(曲がったのは)三振を取りたいという気持ちからですね(笑)」。中学時代はめぼしい結果を残せなかった。3学年上の姉が通っていて、担任が野球部の監督だった和歌山県立那賀高校に「とにかく勉強して」進学した。

子どもの頃から野球が身近な環境で育った

野手と一緒に振り込み、ヘッスラで帰塁も

高校1年の春、練習試合に登板すると「138キロ出ていた」と相手チームから教えてもらった。谷脇にとっては、初めて球速を計測される機会だった。周囲から「速っ!」と言われたことが少し自信になった。1年夏からベンチ入りを果たし、1回戦で敗れたものの、リリーフで登板した。

高校では、投手としての本格的なトレーニングをしていたわけではなかった。部員は30人弱。週末に1日2試合を行う練習試合が組まれると、1戦目に先発登板した後、2戦目は外野の守備につくことも多かった。「そうなると練習でも外野を守るので、外野からの送球で結構伸びる球を投げるじゃないですか。それで肩が強くなって、球速も上がったんじゃないかなって自分では思っています」。体の使い方も自然と大きくなった。

週末の練習試合で球数を投げる機会が多かったから、平日に投球練習をするのは週に1度ほど。その分、バッティング練習では野手と一緒に振り込み、試合で出塁したらヘッドスライディングで帰塁もしていた。投手としてだけでなく、野球全体を見渡す能力が確実に培われた。「バッターとしての気持ちも少し分かると思いますし、守っている野手の気持ちも分かる。そこは他の私学の投手に比べて経験はあるのかなと思います」

高校では最終的に最速144キロまで球速が上がった。高校3年夏は和歌山大会の決勝まで勝ち上がり、甲子園をかけて智弁和歌山と戦った。前日の準決勝に続いての連投。普段から週末に2試合を投げることはあったから、そこまでスタミナ面を心配していなかったが「公式戦で力みはありました」。相手1番打者の黒川史陽(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)に先頭打者ホームランを許し、1-12で最後の夏を終えた。「負けて涙も出なかったです」

高校3年最後の夏は、1大会で66三振を奪った(撮影・朝日新聞社)

真っすぐの「質」にこだわる

立命館大に進んだのは、和歌山県串本町で行っていたキャンプに参加し「チームの雰囲気がとにかく良かった」と感じたからだった。選手たちの自主性を大事にするチームで、「練習メニューも学生コーチが考えたものを最終的に監督に伝えているイメージなんです。やらされている練習はないです」。谷脇自身も、自分でトレーニングや体の使い方の勉強を始めた。まずは自分で色々と試した上で、必要だと感じたものを採り入れた。

そこで改めて「自分は球速ではなく、真っすぐの質にこだわった方がいい」と気付いた。いまは最速151キロを誇るが、理想は「真っすぐを待たれていても、ファウルで後ろに飛んだり、フライが上がったり、打ち損じになるボール」。昨秋に参加した大学日本代表候補合宿では、155キロの速球を間近で見た。ただ「プロ野球では140キロ前半でも抑える投手がいる。速くても負けてしまっては意味がない」。

球速以上に「真っすぐの質」にこだわる

理想の「質」を求めるため、キャッチボールを大切にしている。「塁間からちょっと下がったぐらい(約30m)をとにかく低い球で、左右どちらにも変化しない、真っすぐスピンがかかったキャッチボールを意識しています」。これをいつも意識すれば自分の状態に気付き、修正も図れる。好不調の波を大きくしないことにもつながっている。

関西学生リーグでは昨秋初めて規定投球回数に到達し、防御率1.78。イニング数を上回る33三振を奪った。2019年の春季リーグ以来、優勝から遠ざかっている名門校の復活に、谷脇の存在は欠かせない。

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