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特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

立命館大・桃谷惟吹 履正社時代に極めた「初球打ち」、原点となった奥川恭伸との対戦

履正社高校時代「初球打ち」を代名詞に打線を引っ張った桃谷(撮影・井上翔太)

代名詞は初球打ち――。大阪・履正社高校時代、2019年夏の第101回全国高校野球選手権大会を制した桃谷惟吹(3年)はその後、立命館大学に進み、新チームからは副将を務めている。初球打ちの原点は、高校3年春の第91回選抜高校野球大会での悔しい経験だ。当時を振り返るとともに、大学最終シーズンにかける思いを聞いた。

レベルの高いピッチャーほど、追い込まれたら厳しい

高校3年夏の甲子園、桃谷は「1番センター」として全6試合を戦い抜いた。1回戦の茨城・霞ケ浦高校戦で右越えに先頭打者ホームランを放つなど、第1打席から結果を残す選手としての印象が強かった。準決勝を終えた時点の5試合は、すべて第1打席に安打を放った。決勝の石川・星稜高校戦は奥川恭伸(現・東京ヤクルトスワローズ)を相手に、全5打席で初球打ち。5打数2安打だった。

「中学の時に指導者から、『チャンスは初球からいかないと』とは言われていたんですけど、そのときはそこまで意識せずに。高校で選抜が終わってから『1球でとらえる』っていうのを意識して練習しましたね」

夏の全国制覇から約5カ月前。春の選抜大会で、履正社は1回戦で星稜と対戦していた。奥川に17三振を奪われ、完封負け。桃谷自身も3打数無安打。2三振を喫した。「初球はストライクを来るボールが来ると思うし、レベルの高いピッチャーになるほど、有利なカウントに追い込まれたら厳しい。当時も早めのカウントでとらえることは意識してました。『追い込まれたら、打てへんな』と思ってましたね」。ただし、このときは結果が伴わなかった。

3年夏の甲子園1回戦で先頭打者本塁打を放った(撮影・朝日新聞社)

練習でマシンの前に立つネットを全球狙う

そこから夏に向けて「振ってたまたま当たった」のではなく「ここに打とう」と狙って打てるように、バッティング練習から意識を変えた。練習時間の一部は、どのコースに球が来ても、バッティングマシンや投手の前に立ってるネットに向かって全球狙った。「どうやったらバットコントロールが良くなるかと考えたときに、それぐらいしないとミート力が上がらないと思ったので」

最初はなかなかできなかったが、少しずつ「どのように当たったら、どう飛んでいく」のかが分かってきた。これは自分で考えた練習法だと言う。重心を落とした姿勢から、ほとんど足を上げずに小さなステップで強振するフォームも「独特な打ち方って言われるんですけど、誰かから言われたのではなく、全部自分で考えています」。

ネットを狙った後は、来たコースに対応して打つことで打球方向は偏らず、1球でとらえる能力がついていくことを実感した。

春の選抜大会で敗れた星稜に、夏は雪辱を果たした(撮影・朝日新聞社)

相手のシートノックを見られなかった大阪桐蔭戦

何事も自分で考えて行動することが定着したのは、桃谷が野球を始めたきっかけから今につながっているのかもしれない。小学3年ごろに一番仲が良かった友人から誘われるまで、父親の影響でサッカーをしていた。「サッカー選手になりたいと思ってました。でもセンスがなかったですね。家族は誰も野球を知らないので、全部自分で考えてやってました」

その後は「気付いたらずっと野球をやってました」。野球だけはやめたいと思ったことがなかった。森友哉(現・オリックス・バファローズ)に憧れ、中学時代には大阪桐蔭高校への進学を志した。しかしかなわず、府内のライバル校に進んだ。

大阪桐蔭と履正社と言えば、桃谷が高校2年夏のときの2018年の北大阪大会準決勝が記憶に新しい。根尾昂(中日ドラゴンズ)や藤原恭大(千葉ロッテマリーンズ)らを擁して春の選抜大会を制した大阪桐蔭に対して、履正社は先発投手に公式戦初先発の浜内太陽主将を送る「奇策」を仕掛けた。

桃谷は当時、浜内が普段守っているライトの2番手だった。試合当日、先発メンバーだけに配られる資料を、桃谷もコーチから渡された。それまで「先発投手・浜内」は可能性レベルで耳にしていたものの、その奇策を確定的に知ることに。「えっ……てなりました。桐蔭のシートノックを見たら緊張してしまうと思って、見られなかったですね。ずっと裏にいました」。試合が始まれば硬さは取れたものの、チームは九回2死までリードしながら逆転負け。大阪桐蔭は北大阪代表となるだけでなく、夏の甲子園も優勝し、春夏連覇を果たした。

野球だけは「やめたい」と思ったことがなかった(撮影・井上翔太)

大学1年から出場、今は経験を伝える立場に

大学は、練習に参加したとき「元気で雰囲気が良く、レベルも高い」と感じた立命館大へ。自分で考えて行動する自らのスタイルにも合っていると感じた。1年春は新型コロナウイルスの影響で関西学生リーグが中止となり、デビュー戦となった1年秋から1番打者を任された。昨秋は大学日本代表候補の合宿にも呼ばれた。

「大学1、2年のときから代表に『選ばれたい』と思っていたので、うれしい気持ちがあったんですけど、行ってみると色々感じました。バッティングは『負けてない』と感じる部分はありましたし、走塁とか守備は『レベルが違うな』と。全国から集まっているので、今の自分の位置が分かったのは良かったです」

投手のレベルの高さも感じた。桃谷自身、大学では全国の舞台に立てていないだけに「対戦機会があんまりないピッチャーと対戦して『レベルが高いなぁ』と」。具体的には中央大学の西舘勇陽(3年、花巻東)や名城大学の松本凌人(3年、神戸国際大付)といった名前が挙がった。

昨秋の大学日本代表候補の合宿に参加し、自分の立ち位置を知った(撮影・井上翔太)

立命館大は2019年春に関西学生リーグを制して以来、優勝から遠ざかっている。新チームの選手たちは全員が優勝を経験していない中、桃谷は高校時代に大舞台を経験し、全国の雰囲気を知っているという数少ない選手だ。「勝ち癖がないと、勝ち方がよく分からないチームになってしまうんです。その中で1戦1戦をしっかり戦っていくことが大事だと高校時代に学んだので、それをみんなに伝えていければと思います」。2020年秋から21年秋にかけては3季連続の2位という悔しい経験も味わった。「『この試合を勝っておけば優勝できたのに』という試合があって、そのときもグラウンドに立っていたので、経験を伝えていきたいです」

野球をやっている以上は、プロの世界もめざしている。しかしそれ以前に、チームリーダーの一人として大きな役割が求められている。

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