野球

神戸大の藤原涼太、近畿学生70季ぶり制覇の右腕は「最強」大阪桐蔭苦しめた技巧派

神戸大学の藤原涼太。身長169cmと小柄だが多彩な変化球を操る(撮影・沢井史)

近畿学生野球の秋季リーグ戦で神戸大学が1986年春以来、70季ぶり(中止となった2020年春を除く)9度目の優勝を果たした。近畿学生では春に和歌山大が優勝し全日本大学野球選手権に出場と国立大旋風が吹いている。神戸大躍進の立役者となったのがエース格の活躍をみせた3年生の藤原涼太(寝屋川)だった。

18年春、根尾昂ら追い詰めた寝屋川のエース

藤原の名前を見て、関西の高校野球ファンはピンと来たかもしれない。寝屋川高のエースだった3年生の春(2018年)、近畿地区高校野球大会大阪府予選の準々決勝で選抜大会優勝の大阪桐蔭高を相手に九回2死まで4-3とリード。味方の失策などもあり最後は根尾昂(中日)にサヨナラ打を浴びたが、最後まで王者を苦しめた府立高校として注目を浴びた。

18年春、春夏連覇する大阪桐蔭高を相手に好投した寝屋川高の藤原(撮影・遠藤隆史)

3歳上の兄、風太さんは東海大仰星高から現役で京都大に合格、当時、投手として活躍しており、“秀才兄弟”と話題になった。涼太は最後の夏、第100回全国高校野球選手権記念北大阪大会準々決勝で履正社に3-6で敗れた後、「国公立大で野球を続けたい」と話していた。その通り、神戸大工学部に現役合格。神戸大では1年秋からリーグ戦のマウンドを踏んだ。169cmと小柄ながら、スライダー、カーブ、シンカー気味に変化するツーシームなど、実に多彩な変化球を持つ。

寝屋川高時代の最後の夏は履正社に敗れた(撮影・井手さゆり)

何より藤原の持ち味はマウンド度胸だ。強打者に対して、とにかく怯(ひる)まない。かと言って球威でグイグイ押すのではなく、緩急をうまく使い、打者との間や感覚を掴(つか)みながらテンポ良く凡打の山を築くのだ。

苦しみながら秋5勝

だが、今季の神戸大の躍動は決して順風満帆ではなかった。8月に野球部も新型コロナウイルス感染拡大の影響が出て、下旬から部活動が禁止になった。全体練習を再開したのは、リーグ戦開幕の2日前だった。藤原自身もリーグ戦開幕前は公園を歩いたりしながら体を動かしてはいたが、当然、練習不足は否めなかった。1節目で対戦予定だった奈良学園大戦が新型コロナウイルスの影響で不戦勝に。2戦目の和歌山大戦が実質の初戦だったが、1戦目に先発した藤原は5回を投げ6安打5失点で降板した。

「和歌山大戦後、さすがに危機感を持ちました。試合の次の日に、自分が1年生の時から投げてきた動画を6時間かけて見直して、イメージトレーニングをしました。そこからキャッチボールから指の感覚を取り戻すようにしました」。4節目の大阪市大戦からようやくらしさを取り戻し、84球で無四球完封。「初球は甘くてもいいと考えるほど球を動かした。リーグ戦は力んでしまい、どうしてもゼロで抑えようとしてしまうので気楽にいこうと思った。味方のバッターを信じて投げました」

決してスタートは良くはなかったが、徐々に調子を上げて秋の勝ち星は5勝。通算10勝の半分をこの秋で手にした。

この秋は尻上がりに調子を上げ5勝を挙げた(撮影・沢井史)

「リーグ戦は楽しいです。負けても次があるし、総力戦で戦ってチーム力を感じるんです。自分のピッチングスタイルとしては、緩い球で相手打者をイラつかせるピッチングが理想です。初見の打者には強い方だと思っています。自分のストレートの球威のなさは、おそらくチームで下から何番目かくらいだと思います。あとは自信のあるツーシームでどれだけ抑えられるかです」

全国大会出場は持ち越し

明治神宮大会出場を目指した関西地区大学野球選手権では、初戦の天理大戦では九回1死を取ったところで5失点(自責点4)で降板。翌日の関西大戦では5点リードを許した四回から3番手でマウンドに立った。6回を3安打1失点と好投したが、1-6で敗れて神宮大会出場はならなかった。

伊藤太造主将(右手前)を中心にまとまった今年の神戸大。全国大会出場は来季以降に持ち越された(撮影・高橋健人)

「当初は1点差くらいで自分が投げる予定でした。1点もやれない気持ちで投げたのですが……昨日は自分の不甲斐ないピッチングのせいで負けてしまったので、今日はできるだけテンポ良く投げて、攻撃に繋(つな)げていこうと思っていました」。その通り、五回以降は強打者が揃(そろ)う打線に対し、うまく芯を外しながらコーナーを丁寧に突いた。大きな目標は持ち越しとなったが、毅然(きぜん)とした表情でこう話した。

「このチームは4年生がいてくれたからリーグ優勝できたチーム。自分たち3年生は、4年生に心からついていこうと思ってきました。それくらい、素晴らしい先輩ばかりでした。昨日の試合では試合中に修正ができなかった点が多かったので、調子が悪くてもいかに早く修正できるかが今後の課題です。体作りも含めて見直すところもあるので、スクワットと走り込みで下半身強化していきたいです」

将来は社会人チームで野球を続けることを熱望している。「球が遅いので声がかかるのかな……と正直不安ですが(笑)。でも、遅い球で抑えられるのはロマンがあると思うんです」

手本にしているのは同じように小柄なロッテの美馬学投手だという。好投手は剛速球だけではない。投げる度にマウンドで藤原からそう教えられているようだ。ラストシーズンとなる来年は、そのロマンあふれるピッチングを、さらに見たい。

in Additionあわせて読みたい