野球

和歌山大が本気で目指す日本一、全日本大学選手権で4年前の8強超える国立旋風を

安田圭吾主将(1)を中心に和歌山大は全日本で前回を上回る活躍を目指す(撮影・全て沢井史)

和歌山大学が4年ぶりに全日本大学野球選手権に戻ってきた。初出場だった2017年は、国立大で8強へ進む健闘をみせて話題となったが、2回目の今回は例年にない事態の中で代表をつかみとった。

今回の第70回記念大会に出場する27校で唯一の国立大。学内にあるグラウンドは、アメフト部と共用で決して広くはなく、両翼は70mほど。練習が始まるのが平日は午後4時を過ぎてからで、全員が揃うのはそれぞれの授業の関係で異なり、各自でアップをしてから全体練習に移る。野球部の寮はなく、それぞれが下宿やアパートで暮らしており、練習がない時期は家庭教師や焼き肉屋などでアルバイトをしている選手が多い。

63人の部員が110人に

17年春のリーグ戦優勝以降、和歌山大への注目度は高まった。当時63人だった部員は、現在は110人と倍近くになり、甲子園常連校出身の選手も増えた。最近のリーグ戦では19年春から3季連続2位と、常に上位に顔を並べるようになった。
主将の安田圭吾(4年、駒大苫小牧)をはじめ、現在の4年生は17年の選手権初出場を見て入学してきた学年だ。安田は1年秋からレギュラーとしてマスクをかぶるようになった。その秋は優勝を果たし、以降の3季連続の2位は首位とわずかの差だった。

第70回記念全日本大学野球選手権に国立大で唯一出場する和歌山大

塾の講師など、教育現場に立ちながら08年から指揮を執ってきた大原弘監督は、そんな安田をはじめとする4年生にこんな期待をかけてきた。
「今年の4年生は安田をはじめ、下級生時からリーグ戦に出ていた選手が多いんです。つまり、当時の上級生は控えとなる選手が多かった。だからこの春はそんな上級生らのために優勝する責任があると言い続けてきました。これまで勝ち切れなかったのはリーグ戦前半で勝ち点を落としていたことが後々に影響したからでした。だからこの春は1戦も落とせない覚悟で戦ってきました」

コロナ禍、異例のトーナメント勝ち抜く

現チームは昨年の11月からスタートしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で12月から2月まで全体練習は休止。ようやく全体でグラウンドに集まれるようになったのは3月に入ってからだった。4月3日には2年ぶりに春季リーグ戦が開幕したが、25日の大阪、京都、兵庫の3府県の緊急事態宣言発令にともない、23日から近畿学生野球リーグ戦は中断。大学からも課外活動が禁じられた。さらに5月11日までだった緊急事態宣言が5月末まで延長になり、先が見えない状況が続く中、全日本大学選手権に出場する代表を決めるため、5月19、20日に代表決定のトーナメント戦が行われることになった。全国大会がかかる大会だったため、大学側から了承を得て臨んだ。

「4月の開幕の時点で、緊急事態宣言が月末に出るのでは……という雰囲気だったし、いつリーグ戦が中断するのか分からなかったので、もしかしたら今の時点の順位が優勝です、と言われるかもしれない。なので、この春は最初から優勝争いに立たないといけないと思いました」(大原監督)

2008年から指揮を執る大原弘監督

ノーサイン野球

和歌山大が掲げる野球はノーサイン野球だ。大原監督は言う。「4年前に神宮に行った当時は初の全国大会がどんな雰囲気か分からなかったので、ノーサインが7割、3割はサインを出していました。その大会で8強まで勝ち進めたので、さらにもうひとつ上にいくには練習からノーサインを徹底して勝ち切りたいと思ったんです」

全員が集合した時は全体でしかできない練習をするため、2カ所バッティングは個人練習で行う。守備練習では試合を二つに分けて、様々な場面を想定した練習をする。一~五回までと六~九回まで。その都度全員がグラウンドで輪になって場面を確認し、細かいプレーの判断力を磨く。プロのスカウトが視察に訪れるような長距離打者がいるわけではなく、攻撃面ではとにかくボールをしっかり見極め、次の打者につなげる。
「ウチの野球は3打数3安打を狙うのではなく、2打数1安打、もしくは1打数無安打でも2四球、1犠打。こんな選手がうちにはたくさんいます。カウント2ボールだと2-2まで振らず、まずボールを見ます。私がつけているスコアブックでは、ウチの打線はこの春のリーグ戦6試合で45安打。四球は31個、死球は14個。つまり四死球は45個でヒットと同じ数なんです。これはウチの戦術のひとつ。個人成績よりもチームの勝利に勝るものはありません」

打撃練習を見守る大原監督

何より大原監督は、選手一人ひとりの人間性を尊重する。頭ごなしに意見を押し付けたり、厳しく叱責(しっせき)したりすることはない。ノーサイン野球の中で、ピンチでマウンドに行った時も、こちらの指示ではなく選手の考えをまず聞き、納得した上で話をする。学生野球とはいえ、大学生はみんな選挙権を持った大人。和歌山大での生活は社会へ出る準備の4年間とし、大学を卒業した年は社会人5年生と指揮官は位置付けている。
「そんな選手らに禁止と命令だけの野球をやらせても魅力を感じないでしょう。ウチは1年生から同じ練習をやって、平等に接します」。

「そんな選手らに禁止と命令だけの野球をやらせても魅力を感じないでしょう。ウチは1年生から同じ練習をやって、平等に接します」
上からではなく、選手と同じ目線でのコミュニケーションを心掛ける。時には世間話などで談笑したり、冗談を言ったりすることもある。主将の安田も、練習会からそんな空気感にひかれ、和歌山大を選んだという。
「選手には和歌山大に来て良かった、と思ってもらえたら」
個々の考え方を育みながら、立派な「社会人5年生」を送り出す。将来を見据えたビジョンの中で、和歌山大ナインは4年前を超える大学野球日本一という大きな目標に立ち向かい、8日に九州産大との初戦を迎える。

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