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特集:2021年 大学球界のドラフト候補たち

共栄大学の小向直樹、大学で急成長の151km右腕は全国の舞台でアピールを狙う

共栄大学の小向直樹。全日本大学選手権で本来の投球をみせられるか(撮影・朝日新聞社)

昨秋の東京新大学野球リーグ1部と関東地区選手権での好投で一躍ドラフト候補として脚光を浴びるようになった共栄大学の小向直樹(4年、桶川)。身長185cmの上背から放つ最速151kmの速球が魅力だ。高校時代は無名だったが大学で大きく成長。高い素質にスカウトたちが熱視線を送る。今春のリーグ戦はコロナ禍による調整不足で本来のピッチングを発揮できなかったが、6月7日から始まる全日本大学野球選手権でアピールを狙う。

昨秋の活躍でドラフト候補に浮上

昨秋のリーグ戦では4勝を挙げ最多勝を獲得。11月の関東地区選手権では初戦から先発、リリーフ、先発と3連投。ドラフト候補として注目されるようになった。最速151kmの速球にスプリット、ツーシームなどを織り交ぜ三振を奪う。

共栄大学は2001年に設立された比較的新しい大学だ。硬式野球部は02年に創部され、03年から東京新大学野球連盟に加盟。16年春、17年春、19年秋、今春とリーグ戦を4度制している。キャンパス、野球部グラウンドは埼玉県春日部市にある。

小向は桶川高時代、2年夏の埼玉大会4回戦進出が最高成績だった。高3の夏は2回戦で敗れている。それでも共栄大の新井崇久監督は埼玉の好投手・小向のピッチングを試合でチェックしていた。新井監督は当時のことをこう語る。

「スカウティングで埼玉の大会は見て回ります。小向も試合で見て、面白いなと思った選手の1人で、そのあと練習会にも参加してくれました。背が高くてすらっとして、負けん気は強いのかなというところは見えましたね。まだ細くて、思い切り投げる、思い切り曲げるというピッチャーだったのですが、投げ方、けん制、フィールディング、いろいろ教えていけば面白いかなと思いました」

桶川高時代から目をかけてくれていた新井崇久監督と(撮影・小川誠志)

大学2年での目覚め

入学当初から「プロを狙える素質」と新井監督は期待を寄せていたが、小向自身にはその実感がなかったという。本気でプロを意識するようになったのはリーグ戦デビューを果たした大学2年の春が終わったころだった。小向はそれまで伊奈町の実家から車を運転して大学に通っていたが、「このままではいけない」との思いから入寮の希望を新井監督に申し出た。寮で野球中心の生活を送り、体作りも進んだ。10kg近く体重が増え、ボールのスピードも急激に伸びた。高校時代、スリークオーターだった腕振りを、高さを生かすため真上から振り下ろすフォームに修正。2年秋のリーグ戦では6試合に登板し、22回3分の2を投げリーグ優勝にも貢献した。リーグ戦後からはトレーニングジムへ通い、初動負荷トレーニングに取り組むようになった。

「もともと肩まわりの柔らかさには自信があったのですが、初動負荷トレーニングを取り入れたことによって、肩まわりをうまく使えるようになりました」と小向は飛躍の理由を話す。大学3年の春はコロナ禍でリーグ戦も全国大会も中止になってしまったが、秋には見事なピッチングでスカウトたちに大きくアピールした。

中3から高1にかけて20cm身長が伸びた

埼玉・伊奈南中時代は軟式野球部でプレーしていたが、体が小さく、目立った成績は残せなかった。身長が伸びたのは中学の部活を引退してからで、中3から高1にかけて20cm近く伸びたという。東京新大学野球連盟の学生委員長を務める共栄大の手塚大貴マネージャー(4年、成立学園)は中学時代、小向と同じ塾に通っていた。「小向は中学生のころ、小さくてかわいいイメージだったのですが、大学でまた一緒になって、すごく大きくなっていたので驚きました」と手塚マネージャーは中学時代のことを教えてくれた。

「中学のころは体も小さかったですし、私学でやれるほどの力はなかったので、自分のレベルに合わせた高校を探して。桶川高は実家から通えるし、野球部も県内の公立高校の中では強い方でしたから」と小向は桶川へ進学した理由を話す。高校3年間で最速は142kmまで伸びた。引退後、大学でも本格的に野球を続けたいと思って大学野球部の練習会情報を検索し、見つけたのが共栄大だった。

「そのとき初めて共栄大のことを知りました。ここなら家からも通えるかなぁ、ぐらいの考えで。リーグ戦でどこの大学と対戦するのかも知らなかったです」と小向は話す。

身長185cmから豪快に投げ下ろす(撮影・朝日新聞社)

小向が高校野球を終えた17年の夏、甲子園では埼玉代表の花咲徳栄が県勢初となる夏の全国制覇を達成した。投手の清水達也(中日)、外野手の西川愛也(西武)が秋のドラフトでプロ入りを果たす。「甲子園もドラフトもテレビで見ていました。4年後、自分も同じところに、みたいな意識はなかったですね。すごいなぁーって、テレビでプロ野球選手を見るのと同じ感覚でした」と小向は4年前を振り返る。だが今は違う。彼らの待つプロ野球の世界へ上位指名で進むことが現実的な目標となった。今秋のドラフトで指名があれば、共栄大からも桶川高からも初のプロ野球選手誕生になる。

コロナ禍で今春は思わぬ苦戦

大学での3年間で順調な成長曲線を描いてきたが、今春は思わぬ苦戦を強いられている。1月の緊急事態宣言発出以降、大学のグラウンド、練習施設は2月7日まで使用を許されなかった。2月8日の練習再開後、リーグ戦開幕へ向け急ピッチで仕上げようとしたが、調整遅れから本来のピッチングができずにいた。4月7日、開幕戦の駿河台大1回戦では、初回に149キロをマークしたものの、4回3分の2を投げ被安打7、3失点、3四球の内容でマウンドを降りた。

春日部市にある共栄大から大きく羽ばたこうとしている(撮影・小川誠志)

チームは流通経済大学とのデッドヒートの末、リーグ優勝を勝ち取った。小向もリーグ戦は計4試合に先発し1勝1敗、防御率2.86、20奪三振という不本意な成績に終わったが、登板を重ねながら徐々に調子を取り戻しつつある。逆境を乗り越えて、全日本大学選手権では本来の力をアピールしたい。初戦は8日、強豪の東北福祉大学と対戦する。

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