野球

特集:2021年 大学球界のドラフト候補たち

関西学院大学のエース・黒原拓未 心身共に充実し好投を続けるプロ注目の左腕

この胸の張りから最速151km/hのストレートを投げ込む(すべて撮影・小中翔太)

毎年のように部員数は200人を超え、投手だけで60人以上と、全国でもトップクラスの大所帯の関西学院大学。黒原拓未(智辯和歌山、4年)はその中において1年春からリーグ戦のマウンドに立ち、防御率3.79でいきなり投手10傑入りを果たした。最終学年となる今年は、プロからの視察も多く訪れるドラフトの注目選手となった。

1年から活躍、万全の状態でプロ入りするために昨年手術

「高校の時は技術不足だったので、関西学生のいろんな選手と対戦して経験を積んでレベルアップして、最終的にプロ目指せたらと思って大学に入りました」という決意を実現させるべく、大学初年度から好スタートを切った。1年秋には「ストレートに自信があるので、力強いボールを見ていただけたらと思います」の言葉通り、球速を150km/hの大台に乗せた。それでもおごることなくリーグ戦後は登板日でもベンチ掃除をするマネージャーを手伝い、週1度の貴重なオフの日でもグラウンドに姿を見せる。誰からも応援される人間性の持ち主だ。

黒原は3年秋に大きな決断を下した。万全の状態でプロに行くため、左肘の手術を決意したのだ。リハビリを経て復帰後には、以前の状態に戻るだけでなく、以前の状態を超えるべく練習に取り組んだ。セットポジション時の左手の手首の角度を変えて、ステップした際に右膝が割れないよう意識すると制球力と変化球の精度が向上した。

右膝が割れないよう意識することで安定感が増した

昨年までの黒原はストレート頼りになることが多く、いくら力強い球を投げ込んでも甘く入ると大事な場面で痛打を浴びることもあったが、変化球でストライクが取れるようになり投球の幅が広がった。「変化球がずっと課題だったので、いつでも投げられる変化球がなかったので、今年に入ってから精度が上がって結果につながってるかな」と自身を分析する。

技術だけでなく心も成長

カウントを整えられるカットボールに加え、決め球としても威力を発揮するチェンジアップに相手打線は手を焼き、開幕戦の立命館大学戦で6回1失点、関西大学との伝統の関関戦は7回無失点。4月21日の立命館大学戦は7つの三振を奪い105球で完封勝利を挙げた。しかも許した安打は内野安打と送りバントが結果的に安打になった2本のみで、三塁を踏ませなかった。

指名打者のない関西学生では投手も打席に立つ。バントも先発投手の重要な仕事だ

ベストピッチとも言えるこの快投劇に、本荘雅章監督は「キャッチボールの時からバランス良かったですし、すごく腕が振れていたので良い雰囲気を感じました。元々真っ直ぐが良くて調子の良い時は良いけど、ダメな時はちょっと、みたいな感じだったんですけど今シーズンはすごく粘り強くなって、そこに今日はコンディションも整ったんで良いピッチングができましたね。入学時は体はそれほど大きくないけど真っ直ぐが強くて、すごく良いピッチャーだけど、メンタル面や調子の波があったという印象でした。今日は心の成長を感じましたね。ボールがもっと良かった時はあったんですけど、心のバランスも含めて1番落ち着いて投げられたと思います」とエースを称えた。

満足せずもっと成長して、プロ入りの夢をつかみたい

黒原は昨年まで近畿大学に在籍した佐藤輝明(阪神)と対戦したこともある。佐藤は関西学生野球連盟新記録となる14本塁打を放ち、プロの世界でもルーキーイヤーから規格外の飛距離で注目を集めている。「自分はけっこう打たれた印象しかないんですけど、プロでやろうと思ったらああいうバッターばっかりだと思うので打たれない技術を身につけて、いいピッチャーになれたらなと思います」

大学ラストイヤーに好投を続ける。ドラフトへ向けてアピールを誓う

佐藤は大学時代に13人の投手からアーチを描いており、その中で唯一、2被弾を喫したのが黒原だった。しかしそれも過去の話だ。"良い球を投げるが勝ち切れない投手"から"安定感抜群の勝てる左腕エース"へと進化を遂げた今の黒原は、半年前よりも確実にレベルアップしている。

ドラフトイヤーとなる大学最終年、心身共に充実するこの春にストレートは自己最速を更新する151km/hを計測した。「自分の夢はプロ野球選手になることなので、大学で4年間過ごしてドラフトにかかるような選手になろうと思ってやってきました。高校3年の時点では自信なかったんですけど、目指せるとこまでは来たかなという感じなので、満足せずもっと成長しようと思います。将来は先発でバンバン投げて、チームの柱になっていけたらなと思います」

立命館大学との3回戦で完封勝利を挙げ笑顔を見せる

黒原の好投によりチームも好調。近年優勝争いの中心だった立命館大学と関西大学から勝ち点を奪い、第3節終了時点で首位をひた走る。2013年秋以来の優勝とドラフト指名、黒原の視線はその2つをしっかりと捉えているはずだ。

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