野球

特集:あの夏があったから2023~甲子園の記憶

國學院大・冨田遼弥 自信つかんだ春、課題を突きつけられた夏 相手はともに優勝候補

鳴門のエースとして甲子園のマウンドに立ち、國學院大に進んだ冨田(撮影・小川誠志)

國學院大學の左腕・冨田遼弥(1年、鳴門)は昨春の第94回選抜高校野球大会1回戦で、優勝した大阪桐蔭を相手に好投し注目を浴びた。昨夏の第104回全国高校野球選手権大会では、ベスト4に進出した滋賀・近江に1回戦で打ち込まれ、悔しい敗戦。春は自信をつかみ、夏は自分の実力を思い知らされた登板となった。春夏連続で優勝候補と対戦した甲子園の思い出を語ってもらった。

【記事一覧はこちら】あの夏があったから2023~甲子園の記憶

初戦が大阪桐蔭と決まったときは「うれしさとマジかよ」

昨春の選抜で、鳴門は大阪桐蔭に1-3の惜敗。先発マウンドに上がった冨田は強打の相手に対し、8回8安打3失点(自責点2)、8三振を奪う好投を見せた。大阪桐蔭の3番打者に座り、昨秋のプロ野球ドラフト会議で横浜DeNAベイスターズから1位指名を受けた松尾汐恩を無安打に抑えた。

「あの日は右打者の内角への真っすぐがよくて、スライダーの投げ分けができたので、うまく打ち取れたのかなと思います。負けたけれど、自信をつかむことができました」。冨田は笑顔で昨春の快投を振り返った。

憧れの甲子園での初登板、しかも相手は前年秋の明治神宮大会を制した大阪桐蔭だ。球場へ向かうバスの中では緊張していたが、甲子園に入ってからは落ち着きを取り戻したという。「初戦の相手が大阪桐蔭と決まったときは、うれしさと『マジかよ……』という気持ちが半々で(笑)。チャレンジャー精神で向かっていくことができました。甲子園は広いなぁと思いました。大阪桐蔭の応援の吹奏楽が素晴らしくて、自分の応援をしてくれるみたいに思えて、楽しかったです」

3年春の大阪桐蔭戦ではタイムリーも放った(撮影・田辺拓也)

近江・山田陽翔には「メンタルの強さも感じました」

もう一度、あの甲子園で投げたい――。今度は甲子園で勝ちたい――。

徳島に戻ってからは、その一心で夏に向けて取り組んだ。春の四国大会で優勝した鳴門は夏の徳島大会も制し、春夏連続の甲子園出場を決めたが、そこまでの道のりは決して平坦(へいたん)ではなかったという。冨田は夏の徳島大会前にフォームを崩し、調子が上がらない中で初戦を迎えた。それでも4試合を1人で投げ抜き、決勝では6安打1失点完投で鳴門渦潮を下した。鳴門は板東湧梧(現・福岡ソフトバンクホークス)らを擁した2013年以来の春夏連続出場を決めた。

最後の夏、主将の三浦鉄昇が引き当てた初戦の相手は、春準優勝の近江だった。エースで4番の山田陽翔(現・埼玉西武ライオンズ)を中心に、高い能力を持つ選手たちがそろったチームだった。春に続き、またも初戦で優勝候補との対戦となった。

試合は一回に鳴門が先制したが、すぐさま追いつかれた。二回に1点を勝ち越し。しかし、冨田のピッチングの調子は上がっていなかった。五回に逆転を許し、六回に1点、七回にも3点を奪われた。「調子がよくなかったこともありますが、打ち込まれたのは相手の実力の高さだと思います。近江高校は自分のピッチングへの対策を徹底してきているなと感じました」

徳島大会では相手打者が振ってくれていたボール球を、近江の打者は簡単に振ってくれなかった。冨田は7イニングで144球を投げ、14安打8失点と打ち込まれた。2-8で敗れ、春に続いて初戦で敗退。特に近江の山田には力の差を見せつけられた。

「地力の差も大きかったですし、気持ちの強さを感じました。初回に相手守備の乱れもあって鳴門が先制して、野手がマウンドに集まろうとしたら、山田君は『大丈夫』ってみんなを止めたんです。そこからどんどん三振が増えてきて。ピッチングの技術もすごいんですけど、投げるだけじゃない、メンタルの強さも感じました」

雑誌で自分が出場した試合を振り返りながら取材は進んだ(撮影・小川誠志)

悔しい一戦の中でも、印象に残っている場面

春の甲子園では自信を手にしたが「夏は自分の実力不足を見せつけられた」と冨田は悔しそうに語る。それでも、目を閉じれば甲子園のマウンドから見た風景が今でも鮮明によみがえるという。

「春よりも夏の方が観客が多くて、甲子園だなぁという気がしました。夏は第4試合だったので、途中からナイトゲームになったんですけど、ナイトゲームって初めてだったので、楽しめました」

悔しい一戦の中で印象に残っているのは、四回1死満塁のピンチを招いた場面だ。2者連続三振で切り抜け、冨田は「三振を取ったのは二つともスライダー。ピンチの場面で自分の持ち味である真っすぐとスライダーの投げ分けができました」と胸を張る。

昨年10月のドラフトでは大阪桐蔭の松尾、近江の山田ら甲子園で対戦した同学年の選手たちがプロの世界へ進んだ。冨田はプロ志望届を出さず、國學院大學への進学を選んだ。

「目の前で見た人がドラフトで指名されたので、すごいなぁと思いました。同時に自分も4年後、ここで選ばれるように頑張ろうという気持ちが強くなりました」

3年夏の近江戦、四回1死満塁のピンチを無失点でしのぎ叫んだ(撮影・西岡臣)

1年目から「戦国東都」で先発


冨田が進学した國學院大學は、東都大学野球リーグ1部で2021年の春秋、2022年秋と直近5シーズンで3度の優勝を果たし、昨秋は明治神宮大会で準優勝を果たした強豪だ。冨田は今春、1年生ながらリーグ戦デビューを果たし、最終戦の亜細亜大学との3回戦では先発も経験。5回を投げ5安打1失点、6奪三振と好投したが、打線が亜細亜大学のドラフト候補右腕・草加勝(4年、創志学園)の前に1点に抑えられ、勝利を逃した。

「自分は四、五回から球威が落ちてとらえられてきて交代になったけれど、草加投手は九回まで1人で投げ抜いて、最終回にこの試合の最速を出した。これが東都でエースとして4年間積み上げたものなのだなと感じました。自分もああいう投手になれるように頑張りたいです」

悔しい思いもしたが、甲子園で得た自信は確実に今につながっていると冨田は言う。甲子園で対戦し、自分に刺激を与えてくれた選手たちと、最高の舞台で再び対戦することを夢見て「戦国東都」と呼ばれる厳しい環境で自分を磨く。

甲子園での経験を糧に、大学野球の舞台でも自分を磨き上げる(撮影・関田航)

in Additionあわせて読みたい