バレー

特集:全日本バレー大学選手権2022

早稲田大、インカレ6連覇ならず 「勝ち続ける努力、勝つ大変さ」どちらも分かった

6連覇を阻まれ、うなだれる選手たちと慰める大塚(2番、すべて撮影・井上翔太)

第75回 全日本バレーボール大学男子選手権大会

12月3日@大田区総合体育館(東京)
早稲田大学2(19-25.25-21.25-21.22-25.16-18)3筑波大学

最終セット、16-17。筑波大学が3度目のマッチポイント。左足首の痛みをこらえながら懸命に踏み込み、早稲田大のエース大塚達宣(4年、洛南)が渾身(こんしん)の力を込めて放ったスパイクはサイドラインを割った。

16-18。ネットをつかみ、呆然(ぼうぜん)とする大塚の視界の先には、3年ぶりの決勝進出を果たし、歓喜する筑波大の選手たちが映った。そして自チームのコートでは、ひざから崩れ落ちて涙する選手や、これが現実なのか、といった表情でただ立ち尽くす姿があった。早稲田大の6連覇がついえた瞬間だった。

マッチポイントは先に握った

先にマッチポイントを握ったのは、早稲田大だった。14-12。セッターの前田凌吾(1年、清風)に代わり、リリーフブロッカーで中島明良(4年、洛南)がコートへ。狙い通りに、重藤トビアス赳(4年、荏田)のサーブで筑波大の守備を崩した。試合中盤から「打てば決まる」とばかりに、高い決定率を残してきた筑波大・垂水優芽(4年、洛南)のスパイクをブロックタッチでつなぎ、重藤は前衛レフトの水町泰杜(3年、鎮西)にトスを上げた。だが、ストレートへ放った渾身の1本は、わずかにエンドラインを割った。

14-13。さらに早稲田大のマッチポイントが続き、筑波大のサーバーは牧大晃(1年、高松工芸)。リベロ・荒尾怜音(3年、鎮西)からのレシーブを前田はレフトの水町へ。しかしそこで待ち構えていたエバデダン・ラリー(4年、松本国際)のブロックで14-14。土壇場でデュースに突入し、またもエバデダンが水町を止めて14-15。終盤の逆転で勢いに乗った筑波大が試合を押し切る、分かれ目になった場面でもあった。

幕切れこそ、大塚のスパイクミスが決勝点となった。だが、優位に立っていたからこそ、つかみきれなかった「1点」に悔いが残る。中でも託されながら決めきれなかった水町は、責任を一身に背負ってしまったかのように、試合が終わるとコートで号泣した。右腕で涙を拭いながら、中島のところへ行き、絞り出すように言った。

「ごめん」

敗戦後、涙を流す水町(中央)、抱き留める中島(5番)、松井監督(右)

大塚不在の間、チームをまとめた中島

これまで厳しい場面で、何度もチームを救う1点を決めきってきた。謝る必要などないとばかりに、泣きじゃくる3年生エースを中島が抱き留めた。

「この結果になったのは、僕たち4年生の責任。負けたということよりも、後輩に『ごめん』と言わせてしまう、責任を背負わせてしまう結果になってしまったことが本当に申し訳ないです」

1年時からレギュラーを担い、2年時からは日本代表にも選出され、東京オリンピックや今夏の世界選手権にも出場した大塚がチームの中心と見るのが多数で、もちろんそれは間違いではない。だが、大塚が不在の間に同期や後輩とコミュニケーションを図り、チームを一つにまとめるべく楔(くさび)ともいうべき役割を果たしてきたのが中島だった。

昨秋から今年5月までのアメリカ留学を経て、チームに戻ると「まず同期がバラバラだった」と振り返る。春、秋リーグの制覇や全日本インカレ6連覇を狙うチームの結束力とは程遠い。このままでは勝てるどころか、一つになれるはずがない。そこで気づいたことは率先して意見し、問題点もそのままにするのではなく、指摘する。もともと観察力に長(た)け、正義感も強い。厳しい言葉を発し、嫌われ役ともいうべき役割を担った。一方で仲間も「チームのために」を思っての行動であることは、分かっていた。だから同期だけでなく、後輩からも慕われた。

早稲田オフェンス陣の要の1人・重藤

試合中にけがをしても、戻ってきた大塚の信念

全勝対決で迎えた秋季リーグ。中央大学との優勝決定戦に敗れ、タイトルを獲得できなかった際も、選手たちが口々に「全日本インカレにつながる」と前向きな言葉を述べていた。そんな中「4年生のために戦いたい」と口にした水町が挙げたのも中島の名で、「中島さんがいてくれて本当に大きかったし、あの人を勝って送り出したい」。それが自らのモチベーションでもある、と笑っていた。

だからこそ、悔しさは人一倍。涙する水町が内に秘めていた思いを知り、中島は「自分はチームのため、後輩のために、と思ってやってきたけれど、そう思ってくれていたのは個人としては素直にうれしいし、ありがたい」。そして第1セットに左足を痛めて第2セットから戻ってきた高校からの盟友・大塚を気遣った。

「高いレベルでやってきて、達宣も大人になった。自分の要求ばかりでなく、後輩を、このチームを勝たせたいと思っていたから、この大会が始まる前に言ったんです。『たとえ何が起きても、俺は絶対出るつもりでいるから』って。試合中にけがをして、絶対に痛かっただろうけど、自分の意志で戻ったのもまさにそう。達宣の信念を感じました」

第1セット途中に左足を痛めた大塚

3位決定戦を次への第一歩に

連覇は5で止まった。言葉にすれば簡単だが、勝ち続ける苦しさや大変さは、成し遂げてきた本人たちにしか分からない。その意味をかみ締めるように、松井泰二監督はこう言った。

「これまで負けたことのない学生たちにとって、この結果は非常に大きなものです。これまでの先輩たちも、簡単に勝ってきたとは思っていないし、勝つためにどれだけ努力してきたかを見てきた。でもそれ以上に、敗れたことで勝つことがどれだけ大変か。思っている以上に本当に難しいことだと改めて知った。万全の体制でできなかったことは非常に残念ですが、まだまだ、チームとして落ち着かないところがあったんだ、と学ばされる機会になりました」

春、秋のリーグ戦も東日本インカレも優勝争いを繰り広げながら、最後の1点、2点が取り切れず、課題を突き付けられてきた。中でも、負け知らずの先輩たちの中でセッターとしてトスを上げる前田の重圧は大きく、敗れるたび「自分の責任」と落ち込み、悔し涙を流してきた。そんな1年生を励ましてきたのが上級生たちだった。水町と共に、自らも前田と同様に1年時からレギュラーリベロとしてコートに立ってきた荒尾もその1人だ。

「凌吾が『俺じゃ勝てへん』と責任を感じていたからこそ、そんなことないよ、と最後に勝って、感じさせてあげたかった。それができなかったのが、本当に悔しいし情けないです」

1年生セッターの前田は今回の悔しさを糧としたい

敗れた瞬間、あふれる涙とともに思い返したのは、1年生の時のインカレで戦った、上級生たちの顔だった。

「この大会の意味、勝ち続けることの重さ、そういうものを何も知らずに1、2年の時は優勝していたんです。でも今思えば、それができたのは4年生だけでなく、上級生がまとまって、いろんなサポートをしてくれたからでした。この結果を4年生は『自分たちが悪い』と言うけれど、僕は3年生の自分たちが、ついていくのではなく4年生を支える大きな柱になれなかったからだと思うし、それが本当に悔しいですけど、終わってしまった結果は変えられない。これからどうするか。どうなりたいのか。今は苦しいですけど、でも次の試合(3位決定戦)をその一歩にしなきゃいけないと思っています」

後輩に「小さなギフトを残して終わりたい」

全日本インカレ最終日。舞台は決勝ではなく、3位決定戦となった。わずか1日で気持ちと頭を切り替えて臨むには、あまりにも酷な舞台ではある。だが、3年生以下の選手たちにとっては、これからにつながる第一歩。そして4年生にとっても「最後は負けられない」というだけでなく、新たな歴史を築くべく、この悔しさを糧として次のチームへつなげる意味も持つ。

切れそうな気持ちをあと少し、何とか踏ん張って、いざ最終戦へ。中島が言った。

「自分の代で勝ちたいとか、結果を残したいなんて思うことはなく、むしろ最後に勝って後輩たちに笑ってほしかった。日本一という形で残すことはできないけれど、最後は後輩のために。小さなギフトを残して終わりたいです」
涙ではなく笑顔で。「ごめん」ではなく「ありがとう」を伝えるために。

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