バレー

中央大学・柿崎晃主将 「四冠」へ、チーム力醸成のために導き出したシンプルな答え 

今季の中大バレーを主将として引っ張る柿崎(すべて撮影・松崎敏朗)

2024年度春季関東大学バレーボールリーグ戦

5月19日@慶應義塾日吉記念館(神奈川)
中央大学 3-0 順天堂大学
(25-22.25-19.25-18)

勝てば優勝が決まる、順天堂大学との最終戦。2セットを連取し、第3セットも24-18。中央大学がマッチポイントを迎えた。梅本春之助(3年、鎮西学院)のサーブから順大の攻撃をレシーブで切り返し、そのまま梅本がバックアタックを決めた。勝利の瞬間、スパイクにつなげる殊勲のレシーブでビクトリーポイントを演出した柿崎晃(4年、北海道科学大高)は、握りしめた両手を高く突き上げた。

「苦しい瞬間がフラッシュバックして、勝った瞬間は素直にうれしかったです」

強い「個」がそろうからこそ

主将として迎える初めてのシーズン。今年度のチームが掲げる「四冠」に向けてまず一つ目を達成した。喜びはあふれたが、次の瞬間にはすぐ切り替えていた。

「ここで喜ぶのはもちろん大事ですけど、また次があるので。自分たちの代は2、3年生の頃から(試合に)出ている選手が多いので、いろんな思いをしてきた分、うれしいけど『ここから引き締めてまた頑張ろう』という思いでした」

優勝を決めた後の記念撮影で仲間とともに右拳を突き上げた

中大で味わう優勝は2年前、2022年の秋季リーグ以来。振り返れば、それからの時間は苦しさと悔しさの連続だった。

今年度のチームがスタートした際、同じ学年の選手同士で主将を決め、理由とともに野沢憲治監督へ伝えた。選手と監督、どちらからも同意が得られて、初めて新主将が誕生した。

現在の4年生はキャリア豊富とはいえ、課題もある。野沢監督が「一つのチームとしてより強く、まとまりを得るためには、対話を重ねることが必要だと思っていた」と明かすように、その一つが強い「個」がそろうからこそ「チームとしてどうまとまっていくか」だった。全員が同じ方向へ進めるように。第一歩となる主将の選出と決定も「簡単にOKを出さず、話し合いを重ねるつもりだった」と野沢監督。そんな思惑を上回るプランを、柿崎が示してきた。

「去年負けたこと、うまくいかなかった悔しさ。その前のインカレ。失敗した経験を生かして、あの悔しさを晴らすためにどうやって取り組んでいくか、ということを具体的に僕のもとへ持ってきた。そこまで出してくるなら任せよう、と(主将に)決めました」(野沢監督)

失敗した経験をどう次につなげるか、柿崎は明確なプランを野沢監督に提出した

言葉や行動に出す選手が少なかった

アウトサイドヒッターで攻守の要の柿崎はサーブレシーブを受ける回数も多く、大げさではなく柿崎が崩れれば負ける。2年生のとき、エースで主将の佐藤篤裕(現・アイシン)を擁し、早稲田大学との全勝対決を制した秋季リーグ優勝は一つの自信となり、その年の集大成とも言うべき全日本インカレに向けたモチベーションは完璧だった。

だが、結果は思っていたものと違い、天理大学にフルセットの末、敗れた。その後は2023年1月から3月まで、短期派遣でイタリアセリエAのモデナに渡り、自身のレベルアップはもちろん、世界最高峰の場で得た知識や刺激をチームに還元しようと試みた。帰国後、チームとしての形が定まりきらないままに臨んだ春季リーグは6位。前回のリベンジを誓った全日本インカレも準々決勝で東海大学に敗れた。

力はあるのに、なぜ勝てないのか。目の前にそびえる壁を越えるためには、何が必要なのか。サーブやスパイク、コンビの精度といった一つひとつの技術もさることながら、個々の意識改革やコミュニケーションが重要ではないか。柿崎がたどり着いた答えは、シンプルだった。

「僕たちの同期は試合に出てきた経験はあっても、思っていることを言葉や行動に出す選手が少なかった。僕もそうでした。でも、だからこそ、自分が先頭に立つ気持ちで行動していかないといけないと思ったので、『やるしかない』と。そうすれば、絶対にどれだけ苦しい時もみんなが助けてくれる、と信じていました」

ラストイヤーこそ、自分が先頭に立って行動する

主将に「助けられた」という2人

柿崎は「周りが助けてくれた」と繰り返すが、柿崎に「助けられた」という選手もいる。同期と後輩、ともにコートで優勝を味わったミドルブロッカーの山﨑真裕(4年、星城)とアウトサイドヒッターの舛本颯真(2年、鎮西)だ。

柿崎と同じく、山﨑は2年時から試合に出る機会を得ながら、昨年はケガも重なり、出場機会が減った。「これまでのバレー人生を振り返っても、試合に出られない経験が少なかった」という山﨑にとっては、目の前で躍動する選手を見ると、悔しいし、もどかしい。またチャンスを得るため、自らをウェートトレーニングで追い込んできたが、それでも苦しい時に、唯一弱音を吐けたのが柿崎だった。

「周りに言えないことも、晃にだけは言えるんです。食事をしながらとか、練習の後とか、そういう時に『実は今、結構苦しい』って。そういう時に話せる存在がいてくれるだけでも救われたんですけど、晃は『スパイクでこうやったらもっとよくなるんじゃない?』とか、いろんな話をしてくれた。チャンスが来て、自分がチームを勝たせるように頑張りたいという思いはもちろんですけど、この春(リーグ)は、『絶対に晃を勝たせたい』という思いでここまで戦ってきました」

山﨑は「絶対に晃を勝たせたい」という覚悟でプレーしていた

もう1人、今春からレギュラーの座をつかみ、柿崎の対角に入る舛本は、高校時代から世代を代表するエースとして、何度も勝負強さを見せてきた。ひざの負傷もあって昨年はリハビリにも時間を費やし、試合出場の機会が限られた。だが、その悔しさを一気に晴らすかのように、春季リーグではサーブやスパイクで得点をたたき出し、力強さと頼もしさを見せつけた。自身を「エースではなく、つなぎ役」という柿崎は舛本を「後輩だけどチームのエース」と評する。一方、舛本にとって大きな支えになったのが柿崎だったと振り返る。

「練習の時からすごく雰囲気がよくて、先輩、後輩ということも感じさせず、『やりたいようにやっていいよ』という雰囲気を作ってくれる。自分はまだまだディフェンス面に課題があるし、サーブレシーブが崩れる時もあるんですけど、晃さんがつないで拾ってくれるので、自分に上がったボールは絶対に決めてやろう、と。みんながつないだ大事なボールを決めるのが自分の役割だと思っているから、託してもらったボールは思い切り打つ。自分のプレーに集中できるのは晃さんが支えてくれるからで、自分にとってはすごく大きな、偉大なキャプテンです」

2年生ながら、すでにチームから高い評価を得ている舛本

自分が決めなくても、決めてくれる選手はたくさんいる

背番号「1」をつけ、最初のリーグで優勝をつかんだ。自信は力に、でも勝負は続く。

「自分が決めなくても、決めてくれる選手はたくさんいる。拾って、つないで、しっかり打ってくれて勝てたらそれが一番いいし、それが今年の中大のスタイル。四冠に向けて、一つひとつ強くなっていきたいです」

信じる仲間たちとの戦いは、まだ始まったばかり。目指す頂へ向け、頼れるキャプテンはいかなる時も大事な1本をつなぎ、もちろん自らも決める。すべては、チームの勝利のために。

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