陸上・駅伝

特集:第36回出雲駅伝

早稲田大は出雲駅伝6位 伊藤大志主将「チームができあがる最後のピースは僕と智規」

6位で戻ってきた工藤慎作を伊藤大志主将が出迎えた(撮影・藤井みさ)

第36回 出雲全日本大学選抜駅伝競走

10月14日@島根・出雲大社~出雲ドームの6区間45.1km

優勝  國學院大學  2時間09分24秒
2位 駒澤大学   2時間10分04秒
3位 青山学院大学 2時間10分24秒
4位 創価大学   2時間11分47秒
5位 アイビーリーグ選抜 2時間12分18秒
6位 早稲田大学  2時間12分23秒
7位 城西大学   2時間12分34秒
8位 帝京大学   2時間13分35秒  

10月14日の第36回出雲駅伝で、早稲田大学は6位だった。「将来的には優勝争いをするチーム」をめざす花田勝彦監督は、1、2区にエース格を配置して、選手に先頭を走る経験を積ませたいという狙いがあったが、不発に終わった。ただ後半区間で巻き返し、チームの総合力が上がってきていることを証明する結果でもあった。

【写真】出雲駅伝全21チームのフィニッシュシーン チームとして手応えも、悔しさも

山口智規から12位で襷を受け、冷静さを欠いた

1区に6月の全日本大学駅伝関東地区選考会(10000mタイムレース)で日本人トップの走りを見せた山口智規(3年、学法石川)、2区に9月の日本インカレ男子5000mで日本人トップとなり、主将を務める伊藤大志(4年、佐久長聖)と、前半区間から攻めのオーダーを組んだ早稲田大。花田監督はレース前日のプレスインタビューで、「いつも選手たちに言っているのは『1=1』。チームが持っている力をしっかり出していきたい」と意気込みを語っていた。

1区で起用されたチーム随一のスピードランナー・山口智規(撮影・藤井みさ)

ただ、結果的には2人とも、本来の力を出したとは言えなかった。

山口については「プレッシャーもあったのかなと思います。スタート前も、あまり良くないときの山口だったので、ちょっと心配はしていました」と花田監督。気温が30度近い中でスタートし、最初の1kmから3分を超えるスローペースに。最後のスパート勝負で区間賞が決まる展開となり、山口はトップの青山学院大学と29秒差の12位で伊藤に襷(たすき)をつないだ。

伊藤は、この順位でスタートすることを想定していなかったのだろう。「襷をもらった瞬間に吹っ切れちゃって、前を追うことしか考えられなくなってしまった」と、最初の1kmを2分36秒のオーバーペースで入ってしまった。「今まで走ったことがないぐらいのペース。普段だったら絶対にしないんですけど……『自分のところでできるだけ前に』と欲張ってしまった。冷静に『残りの5区間で(差を)詰める』と考えるべきでした」。順位を一つ上げたものの、区間10位に終わった。

12位で襷を受けた伊藤は冷静さを欠いてしまった(撮影・高野みや)

総合力を証明した長屋匡起と工藤慎作

3区と4区はともに3大駅伝初出走の2人、山口竣平(1年、佐久長聖)と藤本進次郎(3年、清風)に任された。「山口竣平は高校時代からロードに強い選手。藤本は直近の早稲田ロード記録会が非常に良かった(5kmを13分55秒)ので、一度試してみたい」と花田監督は起用意図を明かした。

山口竣平は区間11位と苦しんだデビュー戦となった一方、藤本は京都産業大学と大東文化大学をかわしてチームの順位を11位から9位に。個人としても区間7位で粘り、花田監督は「追い風区間で暑さが心配でしたけど、しっかりまとめてくれた」と評価した。

チームの中間層が確実に力をつけていると実感できたのは、5区と6区の好走だった。5区の長屋匡起(2年、佐久長聖)は昨年の出雲でアンカーを務めたが、全日本と箱根では出番がなく、1年ぶりの駅伝。区間3位の走りで帝京大学を抜くと、最終6区の工藤慎作(2年、八千代松陰)がさらに順位を6位まで押し上げた。個人としては國學院大學の平林清澄(4年、美方)に続く区間2位。駒澤大学の篠原倖太朗(4年、富里)や青山学院大学の太田蒼生(4年、大牟田)といった学生トップクラスのランナーをも上回った。

最終6区で区間2位の好走を見せた工藤(撮影・藤井みさ)

「途中で差し込みっぽくなってしまって、タイムが伸びなかったかなというのはあるんですけど、太田選手や篠原選手に勝つことができたのは収穫だと思います」。レース後、工藤はそう振り返り、本調子ではなかったトラックシーズンで早めにトレーニング期間に切り替えたことが、好走につながったと明かした。「学生ハーフで3番を取った後は調子が悪かったので、強化に充てる時間を増やしたんです。その流れで夏合宿に入れたので、1日にかける陸上の時間が単純に増えた。その成果が出始めているのかなと思います」

「戦力を整えるために、まずは自分のことに集中」

早稲田大は、全体で2時間9分10秒を設定タイムにしていた。今大会で優勝した國學院大のタイムは2時間9分24秒。あくまで数字上は、各自が目標通りにレースを進められていれば優勝できた可能性はある。少なくとも、先頭争いはしていただろう。花田監督は「エースに頼った走りではなくて、総合力で6位まで来られたので、そこは一つの収穫」と言い、「3番以内を狙うんだったら、ちゃんとエースがエースの仕事をしないと、そういう駅伝にはならない」と課題を口にした。

チームの総合力を示した早稲田、次はエースが役割を果たす番だ(撮影・藤井みさ)

もちろんその指摘は、伊藤も心得ている。本人に後半区間を担った3選手の走りについて尋ねると、「刺激になりました。チームの結果は求めていたものよりも低くなってしまいましたけど、その中での安心材料が見られたと思っています」と答えた。この”安心材料”という言葉が、チームのことを第一に考える伊藤をよく表している。時にこちらが、チームを背負いすぎていないかと心配になるほどだ。

「駅伝主将としてチームを引っ張らなきゃという気持ちはすごく強いですし、大事な役割ですけど、思った以上にチームがしっかりしてくれているので、このチームができあがる最後のピースは、僕と智規の走りなのかなという考えに変わってきました。チームのことは、いったん後輩たちにも任せられると思えるぐらいに走ってくれたので、今度は自分の走りに集中して、立て直さないと。チームの戦力を整えるために、まずは自分のことに集中しようと思います」

選考会からはい上がった全日本と前回は出走できなかった箱根で、主将がどう巻き返してくるか。楽しみに待ちたい。

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