早稲田大・山口智規がクロカン日本選手権優勝 世界での戦いを見据え手応えを得た2月
第107回 ⽇本陸上競技選⼿権⼤会クロスカントリー競⾛ 男子10km
2月25日@海の中道海浜公園(福岡)
優勝 山口智規(早稲田大学) 29分16秒
2位 井川龍人(旭化成) 29分16秒
3位 坂東悠汰(富士通) 29分21秒
4位 荻久保寛也(ひらまつ病院) 29分22秒
5位 藤曲寛人(トヨタ⾃動⾞九州)29分23秒
6位 村山紘太(GMOインターネットグループ)29分34秒
7位 杉本将太(コモディイイダ) 29分36秒
8位 分須尊紀(日本体育大学) 29分40秒
2月25日に福岡・海の中道海浜公園で開催されたクロスカントリー日本選手権男子10kmで、早稲田大学の山口智規(2年、学法石川)が優勝した。この大会は3月30日にセルビア・ベオグラードで開催される2024年世界クロスカントリー選手権の代表選考ともなっており、山口の代表入りが濃厚となった。
早稲田の先輩・井川龍人とのデッドヒートを制す
山口は昨年11月の上尾ハーフマラソンで1時間1分16秒で2位に入り、3月17日のニューヨークシティハーフマラソンへの出場権を獲得した。年始の箱根駅伝ではエース区間の2区を走り、1時間6分31秒の区間4位。渡辺康幸さん(現・住友電工監督)の持つ記録(1時間6分48秒)を上回り、29年ぶりに早大記録を更新するなど、一気にチームのエース格として成長してきた。
しかし、箱根駅伝のあとはオールアウトしてしまったという。1月20日の都道府県駅伝にも福島県チームのアンカーとして出場したが「ちょっと疲れてました」。その後も1月31日と2月17日の早稲田大学競技会で10000mを走った。このレースの前の週には220kmを走り込んでいたといい、疲労があって調子が悪い中で福岡入りした。
レースがスタートすると序盤はひらまつ病院の上野裕一郎が飛び出し、そこに大集団が続いた。山口はあまり前に飛び出さず、しかし先頭集団の中にはしっかりついていた。徐々に位置を前に進め、3周目が終わり残り4kmとなったところで先頭は井川龍人(旭化成)、藤曲寛人(トヨタ自動車九州)、山口の3人に。残り2kmでは荻久保寛也(ひらまつ病院)も追いつき集団は4人になったが、最後は山口と井川の一騎打ちに。ラストの直線に入る手前で井川が一瞬地面に足を取られたのを見逃さず、スピードをゆるめず勝ち切った。29分16秒、井川とはタイム差なしの決着だった。
井川とはお互いレース前から、ラスト勝負になったら2人になるだろうなとは意識していた。ラスト1周でペースが落ち、井川がラストに向けてためているなとわかった。最後のスプリント勝負になったら勝てる気はしなかったので、起伏が続くポイントで何度か仕掛けたと話す。井川からはスタート前に「最後競ったら(優勝を)譲れよ」と冗談交じりに言われていたといい「そこもちょっと脳裏にありましたけど、さすがに譲れないなと思って。最後の直線はすごい楽しかったです」。
この大会は世界クロカンの選考レースでもあるが、優勝すると5月の日本選手権10000mの出場権がワイルドカードで与えられるため、優勝を目標に置いていた。「しっかり勝ち切れてよかったです」と笑顔を見せた。
「トラックで勝負したい」という思いを持っている山口。3月のニューヨークシティハーフが控える中でもここに出場したのは、ハーフマラソンに向けた10kmの練習の位置づけでもあり、ハーフの後にまた5000mを走れるようにという考えもあったと明かす。
佐藤圭汰を意識「しっかり勝負したい」
4月には3年生に上がり、上級生としての役割も求められる。その自覚はありますか? とたずねると「早稲田大学に入学してから常にチームを引っ張りたいと思ってやっているので、そこは変わらず引っ張っていきたいと思います」と言いつつ、他大学にいる強い選手にトラックでは必ず勝ちたい、駅伝もエースとしてしっかり勝負していきたいと今後について語る。
特に意識しているのは駒澤大学の佐藤圭汰(2年、洛南)だ。学生の枠にとどまらない活躍を見せている佐藤だが、山口には「今年(佐藤を)捕まえられたらいいな」という気持ちもあった。「でも正直(5000mを)13分09秒(45、1月26日にボストンの室内競技会でマーク)とか、そういうレベルで走られちゃうと、まだ上の存在だなと思います」。自分が成長し近づいたと感じたが、また開いた佐藤との差。しかし山口はこの2月に大きな手応えを感じているとも話す。
世界と戦う上でスプリント能力が足りない、今回のクロカンのようにタフなレースに臨むにあたっての自信がない……など、弱点としているところを克服しようと、ウェートトレーニングなどにも取り組んだ箱根後の期間。しっかりと自分と向き合うことができ、「彼(佐藤)はすごい上の選手と戦ってますけど、僕は下積みとして、これからの陸上人生にとってすごく大きい1カ月になったのかなと思います」と充実した表情を見せる。
大先輩の活躍に続くような選手に
11日には延岡西日本マラソンで先輩の伊福陽太(3年、洛南)が優勝。先輩の活躍に刺激され、自分もタイトルを取りたい気持ちがあったと山口は言う。「こんなに大きいタイトルを初めて取れたので、チームとしても自分としてもすごくいいタイトルになったと思います」。この大会では大先輩の大迫傑(Nike)も大学2年の時に優勝していることにも触れ、意識していたと話す山口。偉大な先輩と同じステップを踏み、世界で戦える選手になりたいと思いはふくらむ。
「日本人の長距離は(5000m)12分台や(10000m)26分台が目指せるようになってきているので、そこに置いていかれないようにこれからも頑張っていきたいと思います」
早稲田のエースから、世界で戦える選手へと。大きなポテンシャルを秘めた山口のこれからがますます楽しみになった。