陸上・駅伝

特集:第55回全日本大学駅伝

早稲田大・伊藤大志 真のエースと呼ばれるために「インパクトのある走りを」

早大のエースとして「インパクトのある走り」を目指す伊藤大志(撮影・藤井みさ)

昨シーズン、全日本大学駅伝と箱根駅伝でともに6位だった早稲田大学。就任2年目の花田勝彦監督のもと、名門復活に向けて歩みを続けている。少数精鋭のチームで、エースの一人として成長を見せているが、3年の伊藤大志(佐久長聖)だ。今シーズンのチーム目標「学生3大駅伝3位以内」に向けて、「インパクトのある走りを目指していきたい」と意気込んでいる。

早稲田記録まであと3秒に迫った丸亀ハーフ

伊藤は名門・佐久長聖高校出身。3年時に5000mで高校歴代2位(当時)となる13分36秒57をマークし、鳴り物入りで早大に入学した。1年時から学生3大駅伝にフル出場し、経験を積んできた。

次世代のエースとして期待されてきた伊藤は、今年に入って一皮むけた印象がある。

箱根駅伝ではこれまで2年連続で山登りの5区を任され、前回大会は区間6位の1時間11分49秒。チームは往路5位と健闘した。3週間後の全国都道府県対抗男子駅伝では長野県チームで3区区間8位と好走し、優勝に貢献した。

2月の香川丸亀国際ハーフマラソンでは1時間1分50秒を出し、自己ベストを大幅に更新して17位。東京オリンピック6位入賞の大迫傑(現・ナイキ)の「早稲田記録」にあと3秒と迫った。「連戦の中でどれだけ安定して結果を出せるかにフォーカスしていた時期でした。丸亀ハーフはその中では割と走れた方なのかなと思っている反面、狙っていた早稲田記録まで残り3秒だったので率直に悔しかったです」と振り返った。

春のトラックシーズンは5000mを中心に出場し、金栗記念選抜で自己ベストに迫る13分36秒11を出すと、日本学生個人選手権は14分3秒41で3位、関東インカレは13分49秒11で5位に入った。

4月の学生個人男子5000mで積極的な走りを見せる伊藤(左、撮影・井上翔太)

順調に大会をこなしてきたように思えるが、「勝ち切れないレースが全体的に続いていた」と自己評価は厳しい。

それは自分自身に求めるレベルが上がったからだ。

「昨年までは5000m13分30秒台をまずは出していかないといけない、というイメージだったんですけど、そこから13分30秒台を安定的に出すことが前提になり、さらに自己記録を更新して20秒台とか、学生個人で優勝とか、関カレで勝ち切って得点を取るとかにフォーカスし始めることができたのは、見るビジョンが高くなった証拠でもあり、良い面ではあると思います。ですが、そういった基準の中だと勝ち切れませんでした。100点満点のレースにはほど遠い内容だったかなと思います」

海外レースに挑戦「有意義な遠征」

「早い段階から海外のレースや生活を経験し、グローバルな感性を身に付ける」という花田監督の方針のもと、伊藤も今年1月の箱根駅伝後、2つの海外レースに挑戦した。

3月の「Hong Kong Athletics Series 2023 -Series 2」に出場。初日の1500m、翌日の5000mともに、終始先頭に立ち、積極的な走りを見せた。

9月はチェコ・プラハで行われた10kmロードレースに参戦。エチオピアやケニアなどアフリカ勢に挑み、世界トップレベルとの差を知ることができた。

「試合前日からの過ごし方や海外選手の試合前の独特な雰囲気を感じました。レースを進めていく中で、中盤からのペースの駆け引きだったりとか、揺さぶりだったりとか、自分の肌で実際に感じることができたので、すごく有意義な遠征だったと思っています」

花田監督は、春先からこれまでのレースを振り返り、伊藤の積極的な姿勢を評価している。「後輩の山口がグッと伸びてきて、同期の石塚もグッと上がってきた中で、脇役的な存在だと本人は感じていたみたいだが、それを今年は破りたいというのがあるんですかね。結果にはまだつながっていないですけど、関東インカレでラストにガッと逃げたり、プラハでは前半は果敢に前を攻めたりしていて、意識の高さは一番あるのかなと思います」と、今後の飛躍を期待する。

昨シーズンと比べ「見るビジョンが高くなった」と語る(撮影・浅野有美)

石塚陽士は「ライバルであり、それ以上に指標」

今シーズンのチーム目標である「学生3大駅伝3位以内」を達成するには、伊藤に加え、石塚陽士(3年、早稲田実)、山口智規(2年、学法石川)のエース3人の活躍が欠かせない。花田監督は「伊藤、石塚、山口には、エースになるように、という意識で、3人をセットで練習させていた」と明かす。

伊藤にとって、10000mで27分台を出した同学年の石塚の存在は特に大きい。

「石塚はライバル、それ以上に指標だと思っています。石塚が27分台を出せば俺も出せるだろう、みたいな。追っていくというよりかは一緒に上がっていく。10000m27分台は4年間の中で狙っていかないといけないタイムだと思っています。山口に関しては、ずっと一緒に5000mのレースに出ていたので負けたくないなって。後輩というよりライバルのイメージが強いです」

9月に妙高高原で行われた3次合宿では順調な様子を見せていた。チーム全体として、昨年以上の練習ができているようだ。伊藤は、「合宿に望むにあたってチームの雰囲気が確実に昨年以上のものになっていて、強いチームになってきているなと感じています。駅伝シーズンに向かうにあたっては右肩上がりに来ている途中なのかなと思います」と笑顔を見せた。

強いチームになってきていると伊藤は感じている(撮影・浅野有美)

自信になった全日本7区の快走

2年ぶりの出雲を終えると、1カ月後には全日本が待っている。伊藤は1年時に1区区間7位で、翌年は後半区間の7区を任された。

区間5位と快走し、8位から7位に順位を上げてアンカーの佐藤航希(4年、宮崎日大)につなげた。終盤2区間の追い上げが奏功し、チームは6位でシード権を獲得した。

この経験が、伊藤にとって大きな収穫になった。実は高校時代から駅伝の長距離区間の苦手意識があり、1年時の出雲でチーム順位を2位から5位に落とした失敗も加ってマイナスの印象を引きずっていた。だが、昨年の全日本での活躍が成功体験として刻まれ、苦手意識を払拭(ふっしょく)することができた。

「当時はすごく調子が良くて、いい走りができました。プラスでチームの結果がついてきたことで、自分の走りに自信が持てました。その後の大会でも思い切りのいいレースをできるきっかけになったと思っています」

今年の希望区間について尋ねると、「欲を言えば前半からも後半からもいきたいですが、花田さんが選んだなら、『よっしゃ、どこででも行きますよ』っていうスタンスです」ときっぱりと答えた。

昨年の全日本大学駅伝では6区の菖蒲敦司(左)から襷を受け取った(撮影・佐伯航平)

大会を重ねるごとにステップアップしている伊藤。目指す走りも進歩している。

「1年目はつなぐだけの駅伝になってしまい、不完全燃焼でした。そこから成長して、昨年はチームの主力として仕事をすることができたかなと自分では思っているんですが、『安定感があるね』という評価は、それ以上でもそれ以下でもなかったので、今年はそれ以上のものを求めていきたいです。しっかりとインパクトのある走りをしないと、エースと呼ばれないな、と思っています。トラックシーズンで勝ち切れなかった分、駅伝ではインパクトのある走りを目指していきたいです」

伊藤が真のエースらしい走りを実現させたとき、名門復活への勢いはさらに加速していくだろう。

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