陸上・駅伝

特集:第55回全日本大学駅伝

早大・石塚陽士、10000m27分台突入 理想のエースへ「安定感に加え爆発力を」

10000mで27分台に突入した早大の石塚陽士(撮影・藤井みさ)

2023年度の駅伝シーズンがまもなく開幕する。2年連続の学生駅伝三冠を狙う駒澤大学に対し、優勝争いに絡んできそうな中央大学、青山学院大学、國學院大學。そのトップの一角を崩そうとしているのが早稲田大学だ。今年度のチームには、石塚陽士(3年、早稲田実)、伊藤大志(3年、佐久長聖)、山口智規(2年、学法石川)の3人のエースがいる。その中で一歩リードしているのが、10000m27分台に突入した石塚だ。教育学部で生物学を学ぶ「文武両道」のランナーに駅伝シーズンに向けた意気込みを聞いた。

10000mで27分台、5000mも自己新

石塚といえば、ルーキーシーズンの活躍が印象に残る。出雲駅伝で4区区間賞の快走を見せ、チーム6位に貢献した。早大の1年生での3大駅伝区間賞は、東京オリンピック6位入賞の大迫傑(現・ナイキ)が、2011年の箱根駅伝で獲得して以来の快挙だった。昨シーズンの箱根駅伝ではエース区間の2区を任されるなど、チームに欠かせない選手として成長してきた。

箱根駅伝後は体調不良などが影響し、日本学生ハーフマラソンで失速。しかし、その失敗をきっかけに練習を見直し、ジャンプトレーニングなど補強に取り組んだ。

その成果がトラックシーズンに表れた。4月の「NITTAIDAI Challenge Games」の男子10000mで、27分58秒53をマーク。早大では3月に卒業した井川龍人(現・旭化成)に続き、歴代8人目となる27分台に突入した。

5000mも、4月の「東京六大学対校」、5月「ゴールデンゲームズ in のべおか」と、次々と自己ベストを更新。そして7月の「ホクレン・ディスタンスチャレンジ2023 士別大会」で13分33秒86をたたき出し、再び自己記録を塗り替えた。

石塚は、「割と思い描いていた通り、それ以上の結果が出たかなという印象です。10000mも5000mも自己ベストを大きく更新し、流れはいい(トラック)シーズンだったかなと思います」と総括。花田勝彦監督も「トラックシーズンに関してはほぼ満点かな」と目を細めた。

5月の関東インカレ10000mで3位に入った(撮影・藤井みさ)

メンタルの強さとレースの安定感

石塚の強みは、自他ともに認める安定感だ。気象や路面の状態、コースのアップダウンなどの条件に左右されないという。「気象条件が荒れていれば荒れているほど割といい順位が出るんです。例えば2年前の出雲駅伝では、気温が30度くらいあって向かい風も強かった。かなり悪コンディションの中で取った区間賞でした」

その安定感はメンタルの強さとつながっており、前主将の鈴木創士(現・安川電機)からは「今の早稲田の中で一番メンタルが強い」と言われていた。

花田監督も「彼には1人でやることができる強さがある。早朝にスピード練習をするなど、1人で質の高い練習をやっていた。練習量自体は決して多くないが、きっちり押さえる練習ができていて、安定感が非常にある」と太鼓判を押す。

山口智規や菖蒲敦司から刺激

トラックシーズンに結果を残し、早大のエースの筆頭に上がった石塚。エースに必要な役割について自分が武器とする「安定感」に加えて、「爆発力」が必要だと語る。

「安定感があればチームメートに安心感を与えることができる。それが一つ大事で、もう一つは爆発力。区間賞とか区間新を取ってくるような走りができる人はエースに欠かせない。その点では、僕はまだまだエースとしては途上だと思っています」

チームの中で爆発力を持つ選手として、駅伝主将の菖蒲敦司(4年、西京)や山口を挙げる。

「菖蒲さんや山口は仕掛けどころがうまい。確実に自分が勝てるところでバーッといってそのまま勝ち切る。僕はまだそこまでのスピードを持っていなかったり、タイミングが悪かったりする。そこは自分に足りないところかなって思います。彼らに刺激をもらいながら、自分の中の理想的なエースを作り上げていきたいです」

エースには安定感と爆発力が必要だと考えている(撮影・浅野有美)

生物学を専攻、大学院進学も視野

石塚は競技と学業を両立する「文武両道」のアスリートでもある。教育学部で生物学を専攻し、大学院進学も視野に入れる。「興味がある分野はミトコンドリアや微生物。最終的には、選手としてだけではなく、裏側からアプローチする側に周りたいという気持ちがあります」と将来を見つめている。

2年次は水曜に必修科目が集中しており、主に水曜や木曜に行われるチームのポイント練習に参加できないことも多かった。それでも石塚は他の選手とは別の時間帯に1人でポイント練習するなどカバーしてきた。

「しんどい部分もありますが、裏を返せば、単独走練習になったり、1人で押していく練習だったり、自分用にメニューも変えられたりもするので、そういう意味では全てがマイナスということはなく、むしろプラスに捉えてやっていました」。競技にも学業にも全力を注ぐ姿勢は、入学時から変わらない。

全日本では区間賞 将来は世界の舞台へ

11月に控える全日本大学駅伝は1年次から出走しており、一昨年は5区区間4位、昨年は3区区間3位だった。「ぼちぼち。もう1パンチ、2パンチほしい。全日本では区間賞を取っていないので取りたいです」と石塚。箱根駅伝については、昨シーズンの2区区間10位は「物足りない記録だった」と振り返り、今シーズンは同じ区間で3位以内を狙っていく。

早大は今年、「箱根の頂点へ。そして世界へ」をテーマにクラウドファンディングを実施した。花田監督は選手たちに早い段階から海外レースを経験させたいと考えており、石塚もそのスタンスに共感し、世界を意識している。9月にチェコ・プラハで開催された10kmロードレースに参戦し、初の海外遠征を経験。硬水など日本と違う生活環境を肌で感じとった。

昨年の全日本大学駅伝で3区を任された石塚(右、撮影・浅野有美)

将来のランナー像について、「チームは早稲田から世界へというアプローチをしています。日本だけじゃなくて、世界大会に出て活躍したいというのが大きいです」と力強く語った。

10000m27分台を出し、学生トップランナーの仲間入りを果たした石塚。名門復活を牽引(けんいん)するエースとして、これからも確かな成長を見せてくれるだろう。

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