陸上・駅伝

特集:第93回日本学生陸上競技対校選手権大会

早稲田大・伊藤大志が男子5000m日本人トップ 「競走部として」主将が示した覚悟

日本インカレ男子5000mで全体2位となった早稲田大の伊藤大志(すべて撮影・井上翔太)

第93回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子5000m決勝

9月21日@Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(神奈川)

優勝 スティーブン・ムチーニ(創価大2年)13分52秒25
2位 伊藤大志(早稲田大4年)14分05秒82
3位 草刈恭弓(東海大3年)14分07秒36
4位 谷村恒晟(関西大3年)14分08秒41
5位 秋吉拓真(東京大3年)14分12秒25
6位 中村光稀(京都産業大4年)14分14秒76
7位 新本駿(山梨学院大4年)14分21秒87
8位 チェボティビン・サイラス・キプラガト(第一工科大2年)14分23秒46

9月21日に開催された陸上日本インカレの男子5000m決勝で、早稲田大学の伊藤大志(4年、佐久長聖)が日本人トップとなる2位に入った。レース後、繰り返し口にしたのが「競走部として」「チームとして」という言葉。まもなく迎える駅伝シーズンに向けて、主将の覚悟が伝わってきた。

【特集】第93回 陸上・日本インカレ

レース後、口にした安堵感と反省点

26選手がエントリーし、実際に出場したのは16選手。日本学生記録の13分00秒17を持つ東京国際大学のリチャード・エティーリ(2年)やアモス・ベット(2年)といった強力な留学生選手のほか、伊藤にとっては高校の後輩にもあたる順天堂大学の吉岡大翔(2年、佐久長聖)ら、日本の有力ランナーも欠場した。

「留学生の欠場だったら『レース展開が単純になるかな』と、正直安心する部分はありました。吉岡大翔がいなかったのは『お、マジか』と思いました。たぶん日本人トップ争いは、大翔と僕の2人かなと思っていたので……。でも、その分、自分のレースに集中しようと思いました」。伊藤は覚悟を持って、スタートラインに立った。

欠場者が多かったが「自分のレースに集中しようと思いました」

レースは最初の1000mを2分52秒で入り、次の1000mに向かうところで創価大学のスティーブン・ムチーニ(2年)が集団からスッと抜け出して、前に出た。伊藤は後ろにピタリとつき、2000mは5分40秒で通過。集団が縦長になったのもつかの間、3000mを過ぎたところで優勝争いはムチーニと伊藤に絞られた。1000mから2000mにかけては2分48秒、2000mから3000mにかけては2分45秒とペースは上がっていった。

残り4周でムチーニがギアを上げ、伊藤は離されていった。このときの心境をレース後に振り返った。「残り1500ぐらいでついていくと、『最後に落ちるだけ落ちて終わってしまう』ということが頭をよぎりました。無理をしないでおこうという選択をしてしまった」。最後は東海大学の草刈恭弓(3年、東海大相模)に迫られたが、約1.5秒先着。日本人トップを守り抜いた。

最後は後ろから迫られたが、日本人トップは守り抜いた

「競走部というチームとして、まずは表彰台と日本人トップを確実に取らなきゃいけない。まずはそれができて一安心というか、第一目標はクリアできたので良かった。でも、スティーブン・ムチーニ選手には最後までついて勝たなきゃいけなかったとも思います」。最低限の役割を果たせた安堵(あんど)感と、駅伝シーズンに向けた反省点の両方を述べた。

競走部として、トラックでも勝たないといけない

秋以降の駅伝シーズンを見据えて、駒澤大学や青山学院大学、國學院大學といった強豪校の選手は日本インカレを回避するケースが多い。年始の箱根駅伝で7位に入った早稲田大でも、5000mと10000mの2種目を通じてエントリーしたのは伊藤だけだった。

日本インカレに出場した理由を聞かれると、伊藤はこう答えた。「競走部としては『トラックでも勝たないといけない』と僕個人では思っています。花田(勝彦)さん(=監督)からも『インカレは出るってことでいいよね』と言われていましたし、僕も出るつもりでした」

レース後、優勝したスティーブン・ムチーニと握手

それを前提に夏合宿で練習を積み、インカレに合わせた練習を組むことは少なかった。「合宿から帰ってきて、トラックで2、3回スパイクを履いて(本番まで)残り1週間を切ったくらいから距離を落とした程度です」。5000mに照準を合わせた調整はほとんどせず、コンディションも100%とは言えない状況。ただ「それはスティーブン選手も一緒なのかなという気がしています」と言い訳にはしない。

4年間で一番仕上がりの良いチームになっている

最後の駅伝シーズンに向けた夏合宿は、「4年間の中で、一番いい夏を過ごせたと思っています」と充実ぶりを語った。駅伝主将として、夏合宿前から「年間を通してチームでトラックを戦い、チームで夏合宿を戦って、チームで駅伝シーズンに入っていく」ことを重視した声かけをしてきた。

きつい練習も全員でまとまって乗り越え、逆に余裕があったら「みんなで上げていこう」という雰囲気を選手だけでなく、マネージャーや監督も作り出す。「僕が早稲田に入ってから、一番仕上がりの良いチームになっていると断言できる」と伊藤は言う。

夏合宿や普段の練習で得た手応えを最後の駅伝シーズンにぶつける

今回のレース結果が駅伝での走りにつながるところを尋ねると、「自分の基礎の力が上がってきたかなと。夏合宿で、もうワンランク上がった実感があります」と答えた。それだけに駅伝でも主要区間に起用されるであろう、ムチーニと最後まで勝負しきれなかったことには悔しさが残る。

「他の(早稲田の)選手も、僕にしっかりついて練習できるぐらいまで走力が上がっているので、僕の今回の走りを見て自信をつけてほしいです」。主将の姿が、チームにどんな好循環をもたらすか。駅伝シーズンで注目したい。

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