陸上・駅伝

特集:第93回日本学生陸上競技対校選手権大会

早稲田大・矢野夏希が走り高跳び初優勝 「記録なし」の1年前、憧れの先輩をめざして

女子走り高跳びで初優勝を飾った早稲田大の矢野夏希(すべて撮影・井上翔太)

第93回日本学生陸上競技対校選手権大会 女子走り高跳び決勝

9月19日@Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(神奈川)

優勝 矢野夏希(早稲田大2年)1m76
2位 森﨑優希(日本女子体育大1年)1m76
2位 齋藤みゆに(中京大4年)1m76
4位 前西咲良(筑波大1年)1m73
4位 川邊美奈(順天堂大3年)1m73
6位 安西彩乃(日本女子体育大4年)1m73
7位 宗澤ティファニー(筑波大4年)1m73

9月20日の第93回日本学生陸上競技対校選手権(日本インカレ)2日目、女子走り高跳びで早稲田大学の矢野夏希(2年、時習館)が初優勝を飾った。本人によれば、中学高校を通じて初めてつかんだ全国のタイトル。これから国内トップクラスをめざす、伸びしろ十分なハイジャンパーだ。

優勝以上に意識していた「1m80」超え

25選手が臨んだ女子走り高跳び決勝。今年の日本選手権参加標準記録(1m74)を超える高さの1m76には矢野のほか、日本女子体育大学の森﨑優希(1年、明星学園)と中京大学の齋藤みゆに(4年、名城大附)が進んだ。森﨑は高校2年だった2022年夏の全国高校総体(インターハイ)で、1m76を跳んで優勝した実力者。齋藤は混成競技も得意で、2人の自己ベストは1m77。ともに矢野より1cm上回っていた。

1回目。矢野は最初の跳躍で自身の自己ベストでもある1m76を成功させた。バーが落ちていないことを確認すると、スタンドで応援していた大学の仲間たちに向けてガッツポーズ。森﨑と齋藤は、ともに2回目で成功させ、3人とも1m79に進んだ。だが、この高さは3人とも3度の挑戦で成功ならず。試技差で矢野の優勝が決まった。

サングラスをかけて臨んだ矢野、軽くてお気に入りだという

今大会は「優勝を狙うよりも『1m80』を跳ぶこと」に主眼を置いていたという。「跳べれば、自然と結果も付いてくると考えていました。80を狙うためには、79を1回目じゃなくても3本以内に跳ばなきゃいけないと思っていたので、悔しさもあります。でも、優勝できたことは率直にうれしいです」と語った。

「ノーマーク」で終わることも多かった1年目

1m80を一つの目標に設定したのは、日本のトップクラスやさらにその先の世界をめざしていく上で「絶対に超えていかないといけない壁」だと思っていること。そして矢野にとって憧れの先輩・仲野春花(現・ニッパツ)が持つ早稲田大記録(1m83)を意識しているからだ。「仲野さんの記録を更新していくためにも、1m80を跳ぶことはマストだと思っています」と力強い。

ただ、大学1年目の昨シーズンは苦しんだ。ルーキーイヤーから関東インカレに出場したものの、記録は1m60。直後に臀部(でんぶ)を痛めた。その後もうまく練習を積めない時期があり、昨年の日本インカレは記録なしに終わった。「この頃は、試合に出てもノーマーク(記録なし)で終わってしまうことも多かったです」と悔しかった当時を振り返る。

1年前の日本インカレが終わった後、左足首を故障した。ケガが1回治ると、ひざなど、また別のところを痛めてしまう悪循環の日々。今年3月ごろに本格復帰するまで、フィジカルを徹底的に鍛えたという。

ルーキーイヤーの昨年はけがに苦しむことも多かった

まずはベースラインを上げ、新たな取り組みを上乗せ

また何かを変えようと、早稲田大のコーチ陣から許可を得て、外部の指導者から教わる機会を得た。そこではまず「技術面でしっかり積み上げる練習をメインにして、プラスでフィジカルを強くして、ケガをしないようにする」という方針が打ち出された。

矢野本人によると、長引くケガにつながってしまった足首はもともと硬く「うまくはまらないと、別のところに負荷がかかってしまう」という状態だった。そこで柔らかくするのではなく、逆に硬さを生かすような助走に変えるためのトレーニングに励んだ。「足首が硬いと、どうしてもたたいてしまうような助走になるんですが、これを『乗り込む』ように意識して、それを徹底的に練習してきました」

自己ベストの1m76を1回目で成功させ、ガッツポーズ

外部の指導を受けることで「跳べた、跳べなかった」という結果だけで終わることが少なくなったのも、効用の一つだ。練習で1本跳ぶと、まずは「どんな感じだった?」と聞かれ、自身の直感をまずは伝えた上で、フィードバックをくれる。それをメモに取ることで、コーチがいないときでも「この前はこうだったから、こうすればいい」と再現できるように心がけている。

目標としている1m80を跳ぶために、いま必要なことは何ですか、と尋ねると「周りの選手より、フィジカルがまだまだ弱いと感じています。まず技術面に関しては、ここまでしっかり積み上げられてきたので、そこにフィジカルをプラスしたいです。体がしっかりしていれば、できることも増えていくと思うので。その上でまた新たな技術を積み重ねていけたら」と答えてくれた。

まずはベースラインを上げ、そこへ新しい取り組みを上乗せする。思えば現在の自己ベスト1m76は、7月の早慶対抗陸上競技会で6cmを更新したばかり。これから描く成長曲線も楽しみだ。

全国初タイトルを追い風に、ここから飛躍する

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