明治大学・住吉りをん、世界ユニバ優勝で生まれた自覚「いつもトップを目指さないと」

フィギュアスケート女子の住吉りをん(オリエンタルバイオ/明治大学3年、駒場学園)が1月にイタリア・トリノで行われたFISU冬季ワールドユニバーシティゲームズ(以下、世界ユニバ)に出場し、金メダルを獲得した。目標の舞台である、ミラノ・コルティナダンペッツォ・オリンピックに向けて意識を高めた。
荒川静香さんが金メダルに輝いたリンク
学生のオリンピックと呼ばれる世界ユニバ。住吉は自己ベストを上回る合計204.29点を出し、ショートプログラム(SP)3位から逆転優勝した。フリーでは4回転トーループにも挑戦。成功はできなかったが、演技後半の2連続3回転ジャンプや3連続ジャンプを成功させ、スピンもすべて最高のレベル4を獲得し演技全体をまとめた。2023年の前回大会(アメリカ・レークプラシッド)の4位から成長を見せた 。
会場は、2006年に荒川静香さんが日本女子で初めてオリンピックの金メダルを獲得したリンクだった。「滑っていてもすぐ見えるところにオリンピックマークがありました。荒川さんがオリンピックで金を取ったところだというのをひしひしと感じながら滑っていました。今シーズンで最も印象に残る試合になりました」と、充実感をのぞかせる。
前回大会は出席できなかった開会式に参加したり、海外選手とピンバッジを交換したりして国際交流も楽しんだ。

大きい試合で頂点、最初はびっくり
世界ユニバ優勝は住吉にとって意識を変えるきっかけになった。
全国中学校大会、全国高校総体(インターハイ)、全日本学生選手権(全日本インカレ)の学生タイトルを達成するなど主要な国内大会で頂点に立ってきたが、「ユニバのような大きい試合での優勝がなかったので、最初はびっくりしました」と振り返る。
もともと「1位でないといけない」と躍起になるタイプではない。どちらかと言えば、「自分のやりたい演技をすること」に重きを置き、結果として表彰台に乗れたらうれしいという感覚だった。だが今回の優勝をへて、「いい意味で優勝に慣れないといけないというか、いつもトップを目指さないといけないことを自覚しました」。
常に優勝を意識することでプレッシャーがかかってくるが、それも捉え方次第だ。「坂本花織選手はあれだけのものを背負って守らないといけないのに攻めていけて尊敬します。私はまだまだそこを脅かせる存在になれていません。1位を目指している状態だったらプレッシャーなんて言っていられないと思いました」

メンタル強化のため座禅を日課に
住吉はトップで戦える武器をたくさん持っている。日本女子では数少ない4回転トーループを習得している。ジャンプ以外でも流れるようなスケーティングや高速スピンが持ち味で、表現力も年々磨きがかかっている。
これだけの武器を生かしながら、トップにたどり着くにはどうすればいいのか。住吉はこう考える。
「一つひとつの強さが大事だと思っています。自分の持っているものには自信はあるんですけど、それをすべてそろえきることができない。昨年、一昨年はメンタルが全然ついてきていませんでした。やっと今シーズン、練習通りのことを本番で出せるようになってきたなと感じています」
高校生までは勢いで試合も乗り切れた。大学生になってからは考えることが増えたり、結果を求め出したり、様々な雑念が生まれて演技中の集中力が削(そ)がれることが多くなった。
こうしたメンタル面の課題を感じていた住吉は、岡島功治コーチの指南で2022年全日本選手権後からメンタルコーチをつけた。試合の前後に指導を受け、自分自身と向き合う時間を作っている。メンタル強化のため座禅も日課に取り入れた。座禅中はスマホを断ち、終わったら本を読みながらストレッチをするのがルーティンになっている。
「メンタルコーチに言われたのは焦燥感を感じやすい性格であることです。そのため、普段から悩みすぎない、考えすぎないようにゆとりをもって生活するように変えました。それを土台として演技では絶対にこれだけはやるというものをそれぞれの要素に対して1つだけつくって、そこにだけ意識を向けるようになりました。一つひとつに丁寧に向き合うようになったことが今シーズンの成長かなと思います」

フェアトレードを学び、学内でカフェ運営も
4月からは4年生。大学生活もあと1年だ。
明大スケート部フィギュア部門にはトップ選手が集まり、住吉も刺激を受けている。2024年GPファイナル3位の佐藤駿(エームサービス/明治大学3年)や2023年四大陸選手権優勝の三浦佳生(オリエンタルバイオ/明治大学1年)、卒業生には2022年北京オリンピック団体銀メダルの樋口新葉(ノエビア)がいる。「やっぱり明治でよかったというのは感じています。これだけのハイレベルな選手たちがいる中に自分も入ることができて、自分は強豪の明治なんだという誇りは持っています」
練習拠点が選手によって異なるため部員が集まる機会は少ないが、部の練習(部練)がある時はできるだけ参加するようにしている。団体で戦うインカレの雰囲気も好きだと言う。学生主催のアイスショー「明治法政 on ICE」にも出演し部の活動を盛り上げた。
競技と学業の両立にも励み、商学部で世界経済論を専門にする教授のゼミでフェアトレードについて学んでいる。フェアトレードとは開発途上国の生産品を適正な価格で取引し、生産者や労働者の生活改善と自立を目指す仕組みのことだ。
昨年、ゼミの活動でフェアトレードのコーヒーやクッキーを提供するカフェを学内で開設した。住吉は中心メンバーとして運営に携わり、来店者にフェアトレードの仕組みや商品を説明して認知を広めた。「いろんなことを知るのは楽しいし、スケート以外の仲間もできます。スケートだけになると自分は空回りするタイプだと思うので、大学に行くことはプラスになっています」と笑顔で話す。

「全体として作品を作り上げるところはぶらさず」
3月末の世界選手権が終わると、いよいよオリンピックシーズンに入る。日本代表入りを狙う住吉にとっても大事な1年になる。
今シーズンはGP(グランプリ)シリーズ初戦のフランス大会で3位、2戦目の中国大会ではSPで70.48点の自己ベストを出し、フリーとの合計202.45点で4位に入った。年末の全日本選手権は8位と健闘した。
シーズン後半は次々と試合をこなした。年明けの全日本インカレ(7・8級女子)で個人優勝を飾り、団体2位に貢献。10日後の世界ユニバで金メダルを獲得し、月末の国民スポーツ大会(成年女子)に出場し個人3位、東京都3位に入った。2月のチャレンジカップ(オランダ)では銀メダルを持ち帰った。
結果を残してきたが課題もある。シーズンを通して苦戦した4回転トーループはオフシーズンに一から作り直して精度を上げていく。同時に出来栄え点(GOE)の向上にも重点的に取り組む。技術点も大事だが、住吉はプログラムを通して作品を演じ切ることを心に留めている。「全体として作品を作り上げるところはぶらさずに、要素一つひとつは確実にしたいです」と言い切る。
ミラノ・コルティナダンペッツォ・オリンピック代表の選考方法は未定だが、これまではGPファイナルや全日本選手権の成績などを踏まえて選出されている。
「次の全日本が一番大事になってくると思います。昨年の全日本は今までに比べたらものすごく前進したけれど、まだまだ自分のベストは出せていない。次の全日本で絶対ベストを出すために、オフシーズンをすべて使ってしっかり準備をしていきたいです」。目標の舞台を見据え、力強く語った。
