早稲田大WR入江優佑 終盤に実現した理想の攻撃「プレーの奥深さを知った4年間」

早稲田大学ビッグベアーズは、2024年シーズンを全国ベスト4の成績で終えた。今年から東西の3位が全国トーナメントに進む形式に変更となり、関東地区を2位で勝ち進んだ早稲田は初戦の関西大学戦で下馬評を覆す試合ぶりを見せ31-28で勝ち、準決勝では、のちに優勝する立命館大学に27-52で敗れたが果敢に戦った。エースWRの入江優佑(4年、関西大倉)はそれぞれの試合で活躍し、存在感あるプレーを見せた。入江は、早稲田での4年間を「プレーの奥深さを知る4年間だった」と振り返る。
守備に後れを取った攻撃、関大戦で覚醒
2024年シーズン、関東学生TOP8を2位で勝ち上がった早稲田は守備力が際立ったチームだった。被総距離1390yd、1試合平均198.6ydはともにリーグ最少で、相手オフェンスを徹底的に封じ込める守備力が強みだった。特にランディフェンスが優れていて、被ラッシュはシーズンを通しわずか608ydでリーグ最少。相手のラン攻撃をおさえてゲインを許さなかったことが、成績につながった。
加えてパスディフェンスも安定しており、相手チームのパスを抑えつつ、ロングゲインを防ぐ戦術が奏功。被パスヤードはリーグ平均レベルだったが、総合的な守備力の高さによって、相手オフェンスに継続的な攻撃をさせなかった。

一方の攻撃は、決して低調ではなかったが、成績上位チームと比べると物足りなさが残るものだった。総獲得距離は2098yd、試合平均獲得は299.7ydとリーグ内では中位に位置しており、爆発的なプレーが少なかった点が課題だった。ランとパスのバランスは取れていたが、それぞれ1005yd(5位)、1093yd(4位)という結果だった。
早稲田が全国トーナメントに進むにあたっては、この傾向がネックだった。トーナメント初戦で対戦した関西大学はQB須田啓太(4年、関大一)、WR溝口駿斗(4年、滝川)らタレントがそろっていて、守備は相応の被弾を覚悟しなければならない。その上で、課題のオフェンスがどれだけ関大から点を取れるかに不安があった。スロースターター気味でもあり、後手に回ると厳しい展開になるのではないかと思われた。
しかし試合が始まると、早稲田がオフェンスで関大を圧倒する。試合開始早々にスクリーンを受けた安藤慶太郎(3年、早大学院)が独走し先制TDを奪うと、K平田裕雅(4年、早稲田実)がFGを追加。その後もWRの吉規颯真(3年、早大学院)と入江がQB八木義仁(4年、早大学院)のパスを受けて独走TDを連取し、前半を24-7で折り返すこれ以上ない入りで、誰もが予想しなかったであろう展開だった。入江は60ydのロングパスレシーブを決め、早稲田のワイドユニットに勢いをもたらした。
後半は関大の猛反撃を受けたが、3点差で逃げ切って早稲田は金星を挙げた。早稲田にとって24年シーズンの真骨頂となる、最高のゲームだった。


準決勝で立命館大に敗れるも、やり切った
続く準決勝の立命館大学戦は、常に立命が先行する展開。早稲田は序盤こそ食い下がったが、徐々に離されていき、スコアに地力の差が表れた。第4Qクオーターに入江は24ydのパスを受けてTDを獲得。大差のつく結果にはなったが、エースWRとして立命相手に一矢報いて見せた。
ラストゲームとなったこの試合を終え、入江は言った。「今年はディフェンスに助けられてきたチームだったので、オフェンスはそれ以上に点を取る気持ちで臨みました。自分は今日1本TDを決めることができましたが、少しでもそれがチームに勢いを与えられたのなら、その部分は良かったと思います」。やり切ったような、晴れやかな表情だった。
入江にとって、立命との対戦は特別なものだった。立命には関西大倉時代の同期や後輩が多く所属しており、彼らとこの舞台で対戦できることに強い喜びを感じたという。試合前には、高校同期で関西学院大学主将の永井励から「頑張ってくれ」とメッセージをもらった。関学は、前日に法政に負けて甲子園ボウルへの道が絶たれていた。永井の言葉が、この試合への思いを更に強くした。

ラストの法政戦に負けたからこそ近づけた理想
入江がアメフトを始めたのは、関西大倉高校入学後。それまでは野球をしていたが、先輩の熱烈な勧誘が転機となった。中でも熱心に誘ってくれたのは、明治大学でディフェンスバックとして活躍した北村慶介だったという。入江は野球の経験を生かしてWRの適性を見いだし、アメフトに没頭した。
大学進学に際しては、成績が良かったことで指定校推薦で早稲田を選べたため、関東で挑戦することにした。「ビッグ(ビッグベアーズ)でアメフトを続けることは最初から決めていました」と入江。入学後の1年と2年はコロナ禍の特別編成でリーグ戦が行われる状況だったが、2年時から試合の出場機会を得るようになった。
当時4年生だった絶対エース佐久間優毅(現・オービック)の存在感が大きい中、シーズン中8回のパスをキャッチ。試合経験の少なさを痛感しながらも着実に力をつけていき、甲子園ボウルでは1キャッチ32ydを記録した。

3年生の時は活躍する機会が少なかったものの、4年目にはチームの中心選手としての地位を確立した。経験豊富な先輩たちが抜けたWRユニットで「試合ごとに成長を実感し、最終的には強いWRユニットをつくることができました」と振り返る。
その一方、TOP8での戦いには悔いもあったという。リーグ戦は「法政に勝とう」という目標を掲げていた。しかしこの試合は入り方は良かったものの、オフェンスが勢いを保つことができず敗戦を喫した。この試合での悔しさは、入江らオフェンス陣にとって大きな教訓となった。
WRにパスをデリバリーするQBの八木が振り返る。「仲間を心から信じることができず、それがどこか消極的なプレーになってしまっていました。法政大学戦で出た課題をしっかり振り返って、ポケットにとどまりながらパスを落ち着いて投げられるようになりました。そうすることでターゲットを落ち着いて見られるようになったんです。それが、関大戦や立命戦のオフェンスにつながったと思います」。理想的なオフェンスに見えた。
シーズン最終盤に自分たちがやりたかったオフェンスを実現し、力を出し切った上で立命には敗れた。悔しさはあるがやりきったことへの納得感が、試合後の晴れやかな表情につながっていたのかもしれない。

早稲田の“考えるフットボール”で学んだ奥深さ
ビッグベアーズでの4年間を振り返り、入江は言う。
「高校時代関西でずっとやってきた中で、早稲田に来て知り合いの少ない環境でフットボールをするのは大変でした。ただ、早稲田のフットボールは“考えるフットボール”であり、プレーの奥深さを知る4年間でした。チームメートにも考える力がある仲間が多く、そういう環境でフットボールができたことは、良かったなと思います。WRユニットの宜本潤平コーチが2年の秋に来てくださって、指導のおかげでユニット全員がレベルアップしたと思います。ビッグは来年以降も成長し続けるチームになると思います」
入江はこの4年間で大きく成長を遂げた。エースWRとしてチームを引っ張り、大事な試合で結果を残したその姿は、後輩らにとっても大きな刺激になったにちがいない。
これからのことについて聞くと、入江はこう続けた。「これまでの経験を生かして、新たな環境で頑張りたいと思います」。言葉の中に“フットボール”は出てこなかったが、その姿をフィールドで見ることはできるだろうか。

