アメフト

関西大学・溝口駿斗 甲子園ボウルで勝つためにアメリカから帰ってきた「化けもん」

鮮烈デビューのあと急にいなくなり、また戻ってきた関大の溝口駿斗(撮影・篠原大輔)

関西学生アメリカンフットボールリーグ1部で、関西大学カイザーズは2021年から3位、2位、3校同率優勝と一歩ずつ階段を上がってきた。今年は関西3位までが全日本大学選手権に出場でき、決勝の甲子園ボウルが初の関西勢対決となる可能性がある。15年ぶりの甲子園ボウル出場にかける関大に、切り札になれる男が帰ってきた。2年生だった2022年シーズンにWR(ワイドレシーバー)として鮮烈なデビューを飾り、昨年はアメリカへ留学していた溝口駿斗(4年、滝川)だ。

CBとしてローテーションで出場した明治戦

4月27日、関大千里山キャンパス中央グラウンドに懐かしい顔があった。明治大学とのゲーム前の練習。溝口は2年前の13番から1番に変更し、ポジションもWRからDB(ディフェンスバック)にチェンジして試合に備えていた。DBの中でもフィールドの両サイドに位置するCB(コーナーバック)として、ローテーションで出場。パントリターナーも担った。

前半終了間際にはスイングのパスを捕った直後のRB(ランニングバック)をソロタックルでしとめた。第4クオーター2分すぎに関大が37-7とリードを広げると、明治はどんどんパスを投げてきた。溝口はタックルミスしたあと、すぐにボールキャリアーを追いかけてタックルした。

慣れないCBでのプレーだったが、鋭いタックルも決めた(撮影・篠原大輔)

ただ最終盤、フィールド中央付近からの第1ダウン残り15ydでやられた。ディフェンス右のCBにいた溝口の役割はディープゾーン。目の前のWRがミドルゾーンで内側へ入ったのが見えたため、溝口は「前に入ってパクろう」と考えたそうだ。その瞬間、相手はコースを変えて奥へ加速。完全に抜かれた。ロングパスを決められ、追いすがるようにタックルした溝口は悔しがった。3プレー後にタッチダウン(TD)ランを決められた。試合は37-14で関大が勝った。

試合後の全体ハドルでも、ずっとうつむいていた溝口。取材の冒頭、「普通にやらかしたっす」と言って苦笑いした。その1週間前に非公開で開催された中央大学戦(40-0で勝利)でもCBとして出たが、ミスはなかったという。「悔しいです。マジで。全部完璧でいたかったす」

明治大戦の最終盤のミスを悔しがった(撮影・篠原大輔)

てっきりCBにコンバートされたのかと思ったら、そうではなかった。昨秋、アメリカでの試合中に大けがを負い、年末に帰国するまでずっと治療とリハビリの日々。溝口自身がまだレシーバーとしての急激なストップや鋭いカットを踏むのに不安があり、まずはCBでやらせてほしいと磯和雅敏監督らに頼んだそうだ。5月11日の早稲田大学戦からWRに戻るという話も出ているそうだが、本人は「こんな形で終われないっすよね、コーナーを。だからチームと話してみます」と言った。

仲間たちの関学戦勝利に鳥肌

高校時代はソフトボール部。本格的にアメフトを始めて1年半で大きく開花した。2年生の秋シーズンは同学年のQB須田啓太(現4年で主将、関大一)とのコンビでスタジアムを沸かせた。32回のキャッチで702ydをゲインし、6TD。アメフトの試合にまともに出た最初のシーズンでリーディングレシーバーをかっさらった。スピードでマンカバーの相手を置き去りにしたかと思えば、捕ってからの低いタックルはジャンプでかわす。センスの塊のような溝口はシーズン後の国際試合にもXリーグの選手たちに交じって全日本選抜チームに選出された。

関西大WR溝口駿斗 ソフトボールから転向して1年半、頭角現したセンスの塊
2022年秋の関学戦で相手をほんろうした溝口(撮影・北川直樹)

その後、もともとアメリカでの生活に憧れていたこともあり、留学の意志を固める。関大を休学し、昨年7月に海を渡った。カリフォルニア州ウォルナットにあるマウント・サン・アントニオ・カレッジに入学。キャンプ(合宿)を経て、シーズン初戦からパントリターナーでの出場機会を得た溝口だったが、9月の2戦目でタックルを受けた際に大けがを負った。何もできない中、関大の仲間たちがリーグ最終戦で関西学院大学に勝利。溝口はこの関関戦をネット中継で観戦していた。「鳥肌立ったっす、まじで」。同じ学年のみんながラストイヤーを迎える2024年は関大でやりたい、との思いが強くなっていった。そして今年2月、関大に戻ると決めた。

ほとんどフットボールはできなかったが、アメリカでの生活は楽しかった。7人ものルームメイトとの暮らしで彼らの優しさに触れた。「結構しんどいことばっかりやったんですけど、アメリカのフットボールを知れたし、選手のテンションの感じも分かった。勝ったらロッカールームでみんなではしゃいでね。みんな大きさもパワーも違うけど、一人ひとりがテクニックを持ってる。最初のキャンプと2試合目まではそれを学んで、使えるのは使ったりしてました」

2023年1月の国際試合では全日本選抜の大学生で唯一出場した(撮影・北川直樹)

今年で完全燃焼するつもり

見すえるのは関大として15年ぶりとなる甲子園ボウル出場だ。今年は初の関西勢対決の可能性もある。「須田と自分で勝たしたいす。須田は去年の春の時点で『やばいな』と思ったけど、秋も試合のたびに成長してた。ちょっと想像の上を超えてます。甲子園で関学とやって勝ちたい。甲子園で関関戦やったら盛り上がるっすよね」

規定上は来年も関西学生リーグでプレーできるが、溝口自身は今年で完全燃焼するつもりだ。「もうラストなんで、やりきるしかないです。まじで化けもんやと思わせたいですね。まあ化けもんなんですけど、普通に(笑)。もっと見せたい。みんなを驚かせたいっす」。最初のターゲットが5月26日、春の関関戦だ。「万全で出たいす。エキスポで春の関関戦、いいっすよね。まあ驚かせたいです。自分が客を呼べるプレーヤーになりたい。『アイツを見たいから試合見にいこ』みたいな。そんな人になりたいっす」

1番はもともとつけたいと思っていた番号だ。昨年までCBで活躍した須川宗真(現・シルバースター)とは、とくに仲がよかった。単に彼から1番を受け継いだだけでなく、溝口は須川が実際に着ていたユニホームで戦っている。須田とのコンビネーションを極められれば、日本の学生史上最強のコンビになれる可能性を秘めている。溝口駿斗が戻ってきて、また関西学生1部は確実に面白くなった。

キャプテンとしてラストイヤーにかける関大QB須田啓太(撮影・篠原大輔)

in Additionあわせて読みたい