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「1敗の教訓」を生かした関西大学、ディフェンスが光り、春に続き王者関学を下す

けがの多かった関大主将の横山智明(7番)だが、最後の1年は立派にチームを引っ張った(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は13年ぶりの3校同率優勝で幕を閉じた。6勝1敗で立命館大学、関西学院大学、関西大学が並び、抽選で関学主将のLB海﨑琢(4年、箕面自由学園)が「1位相当」を引き当て、12月3日の全日本大学選手権準決勝・九州大学戦(福岡・春日公園球技場)に進んだ。11月26日のリーグ最終戦となった関関戦は関西大学カイザーズが16-13で関西学院大学ファイターズを下した。関学の秋シーズン学生相手の連勝は29で止まり、現チームの学生たちは初めて秋の負けを経験した。

想定外をなくす準備を上回った関大

関大はディフェンスの奮闘によって狙い通りのロースコアゲームを実現し、エースQB須田啓太(3年、関大一)のパスにレシーバー陣が食らいついた。最後は190cmの長身キッカー中井慎之祐(2年、関大高等部)が47ydのFG(フィールドゴール)を蹴り込んだ。金森陽太朗(3年、南山)も3回のパントで45yd、44yd、45ydと着実に関学をエンドゾーンから遠ざけた。まさにカイザーズが一体となってつかんだ勝利だった。

試合後、関大の磯和雅敏監督が言った。「立命さんとの試合で真ん中のDLがめくられて散々でランが止まらなかった。関学さんに対しても普通にやれば止まらない。ディフェンスコーディネーターの和久(憲三)と相談して、DLには『縁の下の力持ちになれ。自分でタックルするという考えは捨てて、とにかくOLに押されずに穴を詰めろ。タックルは後ろのLBに託せ』と伝えて練習してきました。作戦としてよかったと思います」

DLが関学OLのブロックに低く当たり返し、決して押されない。だから第2列の4年生LB鈴木怜央(関大一)と曽山天斗(常翔学園)が1試合を通じて自由に動けた。ブリッツも仕掛けて44番の鈴木と47番の曽山がナイスタックルを繰り返し、関学オフェンスの得点機を阻み続けた。敗戦後、関学のバックフィールドの選手たちは口々に「関大のLBとDBが速かった」「ほかのチームとは全然違った」と話した。想定外をなくす取り組みを続けてきた関学に対し、関大は大一番でその準備を上回ってみせた。

昨年まではキッカー兼任、今年はLBに専念して奮闘した関大の曽山天斗(右)

パス奪われたQB須田啓太「後半で帳消しに」

今シーズン7戦目にして初めてオフェンスの最初のシリーズで得点できなかった関大だが、直後のディフェンスはジリジリと進まれながらも、自陣30ydに入ったところで断ち切り、FGでの3失点にとどめた。

0-3と関学リードで第2クオーター(Q)に入ってすぐ、関学の先発QB星野秀太(2年、足立学園)がスクランブルに出た際、関大LB鈴木のタックルに倒れて担架で退場。その後はフィールドに戻れなかった。星野は第1Qにスクランブルで走ったとき、相手DBに体当たりしにいっていた。ビッグゲームにかける思いがあふれ出たのかもしれないが、まだ序盤でもあり、スライディングしておくべきだった。タックルを受ける、ということについて考え直すきっかけになった試合だろう。

関学は4度目のオフェンスからQB鎌田陽大(4年、追手門学院)が登場。自陣13ydから12プレーでゴール前まで進んだが攻めきれず、FGで6-0となった。FGの直前のプレーはゴール前5ydからの第3ダウン5ydで右ハッシュから。タイムアウトをとった関学は鎌田に右オープンを突かせたが、LB東駿宏(1年、大産大附)のタックルでノーゲイン。OLが関大DLを押せていないことで中央付近でなくオープンを狙った。狙わされた。鎌田は試合後、「あれは(タッチダウンまで)持っていきたかった。星野なら持っていってたと思うんで」と話した。

関学QB星野秀太の負傷退場で出番が来た鎌田陽大は果敢に走った

前半残り1分19秒、自陣40ydからの関大オフェンス。須田が主将のWR横山智明(4年、関大一)と岡本圭介(3年、関大一)にパスを通して残り39秒でゴール前24ydへ。第1ダウンはパス。須田は左サイドの浅いゾーンへ走ったWR井川直紀(4年、関大一)に投げるか、奥へ向かったWR北川皓太(4年、星陵)か、あるいは自分で走るのか迷った。そして北川へ投げたパスが短く、ビッグプレーメーカーの関学DB中野遼司(3年、関西学院)に奪われた。須田は「終わった。みんなに合わす顔がない」と思ったそうだが、仲間たちに励まされて「後半で帳消しにしたろう」と考え直した。

関大QB須田啓太は前半最後のインターセプト以外は冷静にプレーできた

第3Qに繰り出したトリックプレー

そして第3Q、関大の後半2度目のオフェンスは自陣25ydから。岡本へ32ydのパスを決めて敵陣へ。RB小野原啓太(4年、摂津)へのショベルパスはノーゲイン。続いて須田は関学LB東田隆太郎(2年、関西学院)のラッシュをかわしてRB山㟢紀之(2年、箕面)へパスを決めた。第3ダウン残り3yd。関大はトリックプレーに出た。

QBの位置には2年生の武野公太郎(関大一)。須田は右サイドに2人出たレシーバーの外側にセット。左のレシーバーの位置からWR横山が右へモーション。プレーが始まる。スナップを受けた武野は横山にハンドオフ。右へのランと見せて、横山は右から中央へ向かってきた須田へトス。関学DB陣の足が止まった。その間に右から中央の奥へ走り込んだWR岡本が「ど」の付くフリーに。「なんでこんなに空いてんねんと思って、めっちゃ緊張しました。圭介を信じて投げました」と須田。これが通って同点TD。RB阪下航哉(3年、関大一)のキックも決まって7-6と勝ち越した。

トリックプレーからTDパスを受けた関大WR岡本圭介は感情を爆発させた

関学も直後のオフェンスの最初のプレーでRB伊丹翔栄(3年、追手門学院)が47ydのロングゲイン。しかしこれも攻めきれず、ゴール前28ydから第4ダウン残り10yd。関学はギャンブルに出る。ショットガンからのパス。関大はLB鈴木がスピードに乗ったブリッツ。OLに触れられずに鎌田へ突進し、巻きつくようにタックル。攻撃は関大に移る。会場全体を「これは、関大あるぞ」という雰囲気に変えたギャンブル失敗だった。

関大LB鈴木怜央(44番)の渾身のプレーの数々は、観る者の心を打つものだった

続く関大オフェンスは自陣34ydから。須田が3本のパスを決め、ゴール前23ydから第2ダウン残り4yd。須田はRB小野原の中央ランをフェイクして、左のサイドライン際を縦に走ったWR吉識立海(2年、三田学園)へ浮かせたパス。わざと逆リードでサイドラインと吉識の間へ投げた。吉識はボールを見て、マークする関学DBリンスコット トバヤス(1年、箕面自由学園)に背中を向けてキャッチ。捕ったらそこがもうエンドゾーンだった。須田が技ありのTDパスを通し、13-6とした。ただ、TD後のキックは阪下が外し、少しだけ嫌な雰囲気も流れた。

後がない関学はラン8、パス8プレーで72ydを攻めきり、この試合最初のTD。残り7分23秒で13-13と追いついた。今シーズン一番の好勝負に、双方の観客席から大きな声が飛ぶ。会場は異様なムードになってきた。

次の関大オフェンスは自陣26ydから。須田が3本のパスを連続で決めてゴール前30ydへ。ここから関学ディフェンスが踏ん張り、DLトゥロターショーン礼(4年、関西学院)のこの日二つ目のQBサックも飛び出した。ゴール前30ydで第4ダウン残り10yd。関大は「長距離砲」のキッカー中井を送り込む。47ydのFGだ。中井は5月28日の関関戦で、同点の試合残り30秒で登場し、46ydを蹴り込んでいる。しかし、この日は最初のオフェンスで45ydを外していて、「春より緊張してフィールドに入りました」と中井。右足を振り抜くと、ボールはHポールの間へ吸い込まれていった。16-13と勝ち越した。いつもは冷静でいようと心がけている中井だが、さすがに感情が高ぶり、ガッツポーズをしながら何度も叫んだ。

関大の中井慎之祐は日本を代表するキッカーになれるポテンシャルがある

関学最後の攻撃、FG圏内から後退させた関大

あと3分41秒で3点差。引き分けでも単独優勝の関学にとって、十分な時間だ。運命のオフェンスは自陣37ydから。もうミスは許されない。ラン4プレーとパス2プレーでゴール前21ydまで進んだ。FGを蹴るなら38yd。一般的にはもう圏内だが、キッカー大西悠太(2年、関西学院)は前節までFGを8回蹴って3回の成功。最長は35ydだった。関学のコーチ陣には「もう少し前へ。TDまでいければベスト」との考えがあったことだろう。

第1ダウンでパスに出た。鋭いラッシュを関学OLが食い止められず、QB鎌田は投げ捨てることもできない。関大DB河村龍(2年、関大一)のタックルを受けてファンブル。このボールは関学OL佐々木健太(4年、滝川)が何とか抑えたが、7ydのロス。第2ダウンで中央のランを選択したが、ブリッツに入った関大LB曽山がロスタックル。さらに3yd下がった。第3ダウンもパスに出て、鎌田がブリッツに入ったLB鈴木と曽山に倒された。試合巧者関学には考えられない後退で、第4ダウン残り25yd、FGを蹴るなら51ydとなってしまった。もう投げるしかない。左サイドでWR鈴木崇与(4年、箕面自由学園)をエンドゾーンに走り込ませ、鎌田が右腕を振り抜いた。しかし関大ディフェンスもしっかり下がっている。1年生DBの吉田優太(大産大附)がボールをはたき、万事休す。関大オフェンスが時間をつぶして、大熱戦にピリオドを打った。

秋も王者関学を破り、関大に歓喜の瞬間が訪れた

抽選で生き残ったのは関学

6勝1敗で3校が並び、この日試合のなかった立命館大のTE山下憂(4年、立命館宇治)も加わって3主将による抽選が始まった。まずジャンケンで抽選の順番を定める予備抽選の順番を決めた。立命、関大、関学の順。予備抽選の結果、関大、関学、立命の順に引くことになった。関西学連の山田恒治専務理事が三つの封筒を持つ。関大の横山が左手、関学の海﨑も左手で取った。立命の山下が残った封筒を両手で受け取った。各自ではさみを入れ、中の紙を取り出す。合図で一斉にその紙を開いた。最初に見たのが横山で、天を仰いだ。山下は静かに上を向いて、唇をかんだ。海﨑は小さく「よし」と言って目前のカメラマンたちに「1位相当」と書かれた紙を掲げた。「うおーーーー」という大歓声が会場を包む。横山が「3位相当」、山下は「2位相当」を引いていた。前人未到の甲子園ボウル6連覇への道がつながった関学の選手、スタッフたちは何人もが涙を流し、お互いに抱き合った。スタンドの関学ファンも泣いていた。

プレーオフの日程が取れないため、抽選で全日本選手権出場校を決めた

頑張って努力してチャンピオンチームに勝利

関大・磯和雅敏監督
「ディフェンスが非常に頑張ってくれたと思います。須田君は前半最後のインセプで落ち込んでましたけど、『後半やるんで見ててください』って言ってました。スペシャルプレーでタッチダウンを取れたのは大きかったですね。横山君が毎日のように『俺が当たりを引くから勝たせてくれ』って言ってたんで、ほんとに引いてくれるのかと思ったら違いましたね(笑)。春も秋も1年間で2回関学さんに勝ったチームは歴代でもそんなにないと思います。スーパーエースがいるわけじゃないけど、頑張って努力してチャンピオンチームに勝てた。4年生全員で勝ってくれたと思います。人としていい子が多くて、努力がすごかった。甲子園ボウルに出て甲子園で記念写真を撮るというのを合言葉にしてきたので、来年こそできるようにしたい」

関大・横山智明主将
「最後は左手で引きました。けがが右半身ばっかりなので、左の方がいいかなと思って。3位相当を引いてしまって、どんな顔してみんなのところに帰ったらええねんと思いました。でもあたたかい言葉をかけてくれた。春に関学に勝ったときに、『春も秋も関学に勝った唯一の代になろう』と言って、体現できました。引退の試合で関学という大きい壁を乗り越えられて、ほんまに幸せやと思う。僕が2年のときに3位、3年で2位で、今年は甲子園ボウルかと思ったら、もう一段あった。でも次は確実に甲子園へ行ってくれるんやろうなと感じてます。ほんまに長い1年でした。思い返せないぐらいにつらいこと、しんどいこともあったけど、関学に勝った最後の景色は、それを帳消しにするぐらいのものでした。キャプテンをやってよかったと思います」

主将の海﨑琢が抽選から戻るのを待つ間、関学の選手たちはさまざまな思いをかみしめていた

関学・大村和輝監督
「関大さんがランストップにすべてをかけてやってこられたんですけど、そこのアジャストができなかったのが一番大きいですよね。甲子園で日大に負けた2017年と同じ展開なんですよ。あのときも9人でランを止められて。同じことしてるんで、コーチがいけないですね。前半はちゃんとしたドライブになってなくて、QBが走ってとりにいくと、けがしますし。もうちょっと準備をしっかりしないと。鎌田はよかったんじゃないですか? 自分で走って打開できたのは彼にとって大きいと思います。最後にFG蹴らんかったのは結果論です。プランとしては1回投げて、もうちょっと手前でとろうと言ってました。下げられたのは関大さんのナイスディフェンスですわ。抽選はね、もう海﨑がこの1年一番キャプテンとして頑張ってきたんでね、彼が(当たりを)引かれへんかったらしゃあない。引いたときは『引き強っ』と思いました。今日はだいぶまずいゲームをしたんで、このままじゃ終われない。現役の子らが負ける怖さを知ったのは大きいと思います」

関学・海﨑琢主将
「負けたあとはしっかり切り替えてクジを引きにいきました。負けたのは4回生の責任。4回生が成長しきれなかった。ここから1カ月で4回生がほんとに成長して、覚悟を決めてやらないといけない。春も秋も関大さんに負けて、正直、春とは全然違った負けで、『本当に終わってしまった』と思いました。僕らが入学してから、日本一につながる試合では負けたことがなかった。この負けはチーム全体にとって価値のあるものになったと信じて、受け止めていかないと。次はどうやったら勝てるのかを考えて、日々過ごしていきたいと思います」

関学QB鎌田陽大
「星野は走るのが得意で、関大さんのタックルは低くて強いから、けがをする可能性もあると思って、しっかり準備してました。でも結局詰めが甘くて、自分はまだまだ覚悟が足りないと思った。僕がチームを敗戦に導いてしまったと思う。これから死ぬ気でやるしかないですし、関大以上のことを想定して、あと2試合を大事にして、いいプレーがしたいです。本当に突き詰めて、『必ず100%できる』という状況を、この1カ月で必ずつくり上げます。海﨑にはいろんな相談をしてきました。自分がしんどいときも余裕な顔をして聞いてくれた。感謝しかないので、ここからの2試合はオフェンスで圧倒して、キャプテンに感謝されるようなプレーがしたいと思ってます」

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