アメフト

関西大学RB阪下航哉 仲間の涙を目の当たりにし競技復帰 「真のエース」をめざして

ヘルメット越しの目と鼻のあたりは4年生のDB須川宗真とそっくり(撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は第3節を終え、関西学院大学、関西大学、立命館大学、京都大学が開幕3連勝とした。2009年以来の甲子園ボウル出場を狙う関西大学カイザーズは、新たなエースRB阪下航哉(3年、関大一)が得意のスピンで相手のタックルをかわし、3試合で5タッチダウン(TD)を決めている。

近畿大学戦で3TD「いいパフォーマンスができた」

9月30日の近畿大学戦。42-10で勝った関大にあって、阪下は三つのTDを決めた。まずは7-3で迎えた第2クオーター(Q)5分すぎ。ゴール前6ydでQB須田啓太(3年、関大一)からハンドオフを受けると、味方の完璧なブロックに守られて中央付近を抜け、DBとの1対1を左へのスピンできれいにかわしてTD。関大一中時代はサッカー部でMFだった阪下は今シーズン、トライフォーポイント(TFP)のキックも蹴っており、しっかり蹴り込んだ。

キック時はマウスピースを外しているのが気になる(撮影・篠原大輔)

そして前半終了間際、関大の5番はパントリターナーとして登場。味方が右に作った壁を使って走り、最後はパンターとの1対1をかわして55ydのリターンTD。後半最初のシリーズではゴール前11ydからボールを託され、パワープレーで右を突いた。これもブロックが完璧で、誰にも触れられることなくTD。あとはベンチから仲間の奮闘を見つめた。試合後の阪下は「いいパフォーマンスができたと思います。OLが道を開けてくれた」と笑った。

味方のブロックをよく見て、楽しそうに走る(撮影・篠原大輔)

「大学では遊ばな」→「めっちゃヒマやなあ」

関大一高でアメフトを始めた阪下は関大進学にあたり、ぼんやりと思っていた。「大学では遊ばなアカンかな」。普通の大学生をやってみようと部には入らず、授業に出て、「快活CLUB」でフロント業務や清掃のアルバイトをした。アメフトのない生活をしばらくは満喫したが、いつしか「めっちゃヒマやなあ」と感じるようになった。アメフト部の部室付近へ行っては高校時代の仲間たちとしゃべった。ずっと入部を誘われていたが、入らなかった。

2021年11月28日、阪下は関大一高と立命館宇治高の関西大会準決勝を観戦しにいった。0-10で後輩たちは敗れた。同じ日、関大は立命館大との甲子園ボウル西日本代表決定準決勝に臨んだ。17-18で負け、関大のシーズンは終わった。高校時代に一緒にやっていた須田が1年生ながらエースQBとして出場し、負けて大泣きしていた。その姿を見た阪下は「俺は何をしてんねやろ」という思いにさいなまれた。ついに12月、阪下はカイザーズの一員となった。

22年シーズン関学戦前、柳井(中央)、一針(右)とのスリーショット(撮影・篠原大輔)

2年生の春からいきなり試合に出て、調子がよかった。関西1部で2位となった秋は、主将の柳井竜太朗、一針拓斗という4年生2人とローテーションを組んで出場した。しかしシーズンが深まるにつれ、阪下は走れなくなった。「スランプというか、1対1に自信がなくなって……」。立命館大戦では試合開始のキックオフで73ydのビッグリターン。チームに勢いをつけたが、オフェンスではボールを託されなかった。敗れた関西学院大戦では1回10ydに終わった。

「いま考えたら、へたくそやったなと思います」。阪下は1年前を笑顔で振り返る。一方で体は小さくてもしっかり当たって走れた柳井のプレーぶりを心に刻んでいた。「柳井さんは僕にないものを持ってて、体が強くて少しでも前へいくタイプ」。柳井のようにチームを引っ張るエースRBになりたいと、3年生になるにあたって背番号5を受け継いだ。

そして、自信を失いつつあった1対1を磨いた。春の試合を通じて調子が上がってくるのを実感し、「いまは1対1で負ける気がしません」と言いきる。高校時代から得意だった左右へのスピンは、いまや意識しなくても勝手に体が動くレベルに達した。

何人ものディフェンダーが阪下のスピンの「餌食」になっている(撮影・北川直樹)

関学、立命戦へ「自分らがミスしたら勝てない」

同期のQB須田は阪下について熱く語った。「戻ってきてくれてよかった。アイツが持ったら何かが起こると感じさせてくれる。独特のステップは天性のものでスピードもあるし。だんだんエースという感じになってきました。阪下みたいに何でもできるヤツが泥臭くプレーするようになったら、チームにいい影響を及ぼす。みんな燃えると思います。そういう選手になってくれるのを期待してます」

磯和雅敏監督は「スピードや技術は素晴らしくて、いまでもウチのエースですけど、耐久力の面とか、まだ線が細いところとか、もう一段階上の選手になれる。まだ階段を上がれる選手だと考えています」と、期待を込めて話した。

関学、立命に勝つために何が必要か。阪下は「自分らがミスしたら勝てない。いいプレーを続けてないとダメだし、その中でビッグプレーを起こす必要があると思ってます。体重も増やして、柳井さんみたいに倒れないRBになりたい」と語った。うまいだけでなく、気持ちも当たりも強いランナーになった先に、真のエースRBの座はあるのだろう。

最後に阪下に尋ねた。
カイザーズに戻ってよかった?
「もう、そらよかったです」

カイザーズは9年ぶりの甲子園ボウル進出にかける(撮影・北川直樹)

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