アメフト

関西大RB山㟢紀之 未来のカイザーズ担う火の玉ルーキー「期待に応えなアカン」

甲南大戦で独走タッチダウンを決め、叫んだ山㟢(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグは第3節を終え、関西学院大学、立命館大学、関西大学が3戦全勝で首位に並んでいる。高校時代にコロナ禍で十分に練習や試合をできなかったルーキーたちが、解き放たれたかのように早くも活躍している。その一人が、ラッシング部門6位にいる関大の山㟢紀之(箕面)。身長172cm、体重74kgと大きくはないが、判断力に優れ、触れるとやけどしそうなアツい走りが持ち味だ。

インターセプトの相手にナイスタックル

2日の甲南大学戦、山㟢は第2クオーター(Q)終盤のキックオフカバーから登場した。前半で47-0の大差をつけ、後半も先にタッチダウン(TD)を加えたあとのキックオフ。真ん中から駆けていった山㟢はリターナーをソロタックル。右から左へと走っていった相手に対するパシュートコースがよかった。しっかり両腕でパックしてタックルした。

いよいよオフェンスで登場だ。ゴール前19ydからの第1ダウン10yd。QB濵口真行(4年、大阪・池田)は想定したターゲットに投げられず、最後の選択として右に張り出していた山㟢に投げた。捕った山㟢は右のサイドライン際で1人かわし、スピードに乗って駆け上がる。エンドゾーン手前に2人の敵がいたが、体を低くして突っ込んでTD。直後のキックオフカバーにも入った。次のシリーズでロングパスがインターセプトされると、パスプロしていた位置から、必死で走っていってナイスタックルを決めた。

エンドゾーン手前から飛び込むようにしてタッチダウン(撮影・北川直樹)

第3Q終盤、自陣25ydからの第1ダウン10yd。ボールは左ハッシュ。左のガード、スロットが右へ出るカウンタープレー。もともと右のタックルがいたあたりを駆け抜けるプレーだが、そうはならなかった。山㟢はフリーで入ってきた選手をかわし、タテに上がろうとしたが、左から迫ってくる敵がいた。右のオープンへ出れば大きなゲインができそうだと判断し、グッとストップ。少し戻って弧を描くように右へ出た。狙い通り、右オープンに出ると視線の先には相手が1人だけ。ぐんぐん加速し、その相手に近づくと少しスピードを緩めて駆け引き。軽々と内にかわし、75ydのTDランだ。動きの中での一瞬の判断が光った。さすがに次のキックオフカバーにはいなかった。

冷静に味方のブロックを見て、走るコースを変更(撮影・篠原大輔)

第4Q9分すぎには、ゴール前13ydからの第1ダウン10ydで、中央やや右へのラン。中が詰まっていると見て、右へ展開。最後は相手にぶち当たりながら右隅へTDした。4回のランでチームトップの106ydを進み、2TD。1回のキャッチで19ydゲインし、1TDだった。

記事がお蔵入りになった1年半前

3試合を終えて9回のランで144ydと、堂々たる数字だ。関大勢では233ydでリーグ2位の一針拓斗(いちはり・ひろと、4年、星陵)、152ydで5位の柳井竜太朗(4年、関大一)という両先輩に次いで6位にいる。

試合後の囲み取材が始まってすぐ、私は山㟢に謝った。

私は昨年4月3日、高校の大阪府予選1回戦の箕面―高槻戦を取材した。両校は一昨年の春も対戦が決まっていたが、コロナの影響で予選が中止になった。その秋に戦って箕面が1点差で勝った。そして昨春、また初戦で当たるという因縁があったからだ。そこで箕面の21番だった山㟢は、一発のタックルでは倒れない走りで活躍。ディフェンスでも最後尾から鋭い上がりでタックルを決めていた。試合後、7-14で負けはしたが箕面高校スパイダーズを引っ張った山㟢に取材し、「この記事は4years.に載せるから」と言って別れた。しかしコロナの影響で、当該記事はお蔵入りになってしまった。それを山㟢に伝えないままで1年以上が過ぎていた。

高3春の大阪府予選1回戦から。攻守兼任で奮闘していた(撮影・篠原大輔)

私が「あのときはごめんな」と言うと、山㟢は「めっちゃ覚えてます。なかなか載らんから、僕の探し方が悪いんかと思ってました」と言って笑った。やはりあのとき、箕面高校に連絡して、彼に「お蔵入り」の件を伝えてもらうべきだった。大学に入って早々の彼の活躍で、こうして早めに謝れたのはよかった。そして彼のことを改めて書けて、よかった。

話がそれました。申し訳ありません。本題に戻ります。

中学時代は陸上部で短距離

山㟢は大活躍の甲南大戦を終え、「これを自信にして、Aチームに食らいついていきたいです。他大学にも名前が知れ渡るぐらいの1年生RBになれたらと思います」と、声を弾ませた。

大阪府箕面市で育った。中学では陸上部で短距離をやっていた。100mや400mリレーで試合に出ていたが、高校でもトラックの上を走り続ける気はなかった。アメフトには「カッコいいなあ」という思いがあり、家に近い箕面高校に入るとスパイダーズに飛び込んだ。

いまも防具の下には箕面高校スパイダーズのシャツを着続ける(撮影・篠原大輔)

前述のようにRB兼DBで奮闘した。いまもしっかりしたタックルができるのは、高校時代の練習の成果だ。高2の1月にあった新人戦で関大一と対戦した際、関大の和久憲三ヘッドコーチ(HC)から「いいプレーしてるなあ」と声をかけられた。それ以降ずっと、和久HCは山㟢の成長ぶりを見ていてくれた。関大側から正式に声がかかり、進学が決まった。

大学ではRBで勝負すると決めていた。主将の柳井と一針が毎日同じグラウンドにいてくれるのが大きいという。「あのお二人からは吸収すべきことがたくさんあります。大きな目標であり、刺激を受けられる毎日が楽しいです」。上下関係が厳しすぎないのも、カイザーズのよさだと山㟢は言う。「風通しがよくて、気軽に何でも聞ける。のびのびやらせてもらってます」

「学生証も間違ってますもん」

最初の秋のシーズン。初戦の試合前に練習していると、場内アナウンスから「関大の期待の選手」として自分の名前も呼ばれた。「期待に応えなアカン」と強く思い、もうその日に公式戦初TDを決めた。磯和雅敏監督は彼について、「来年のチームを担う存在になるのは間違いない」と話した。

現状では立命館大戦や関西学院大戦では柳井、一針に阪下航哉(2年、関大一)の3人をローテーションで起用することになるだろう。現状でこの3人に次ぐ存在の山㟢も、1年目からビッグゲームでチャンスが来ることを信じて努力を重ねるだろう。そういう男だ。

先輩のいいところを吸収しつつ、試合になればがむしゃらに駆ける(撮影・北川直樹)

囲み取材の最後に山㟢は言った。「一針さんが珍名RBって書かれてましたけど、僕も結構珍しいんです」と。「やまかんむりに奇」の「さき」は、なかなか正確に書いてもらえることがないという。「最初は『間違ってるのになあ』と思ってたけど、もう吹っ切れました。学生証も間違ってますもん」と報道陣を笑わせた。山㟢君、ちゃんと正しく表記しましたよ。

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