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特集:第77回甲子園ボウル

関西学院大・星野秀太 有馬隼人さん以来26年ぶりに1年生QBが初戦に先発

ルーキーながら1試合を通じて関学オフェンスを率いた星野(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグが9月1日に開幕した。今年から全日本大学選手権のレギュレーションに変更があり、昨年まで関西1部の3位までが選手権に進めたが、1位だけになった。「負けたら終わり」のリーグ戦が復活したのだ。7年連続の甲子園ボウル出場を狙う関西学院大学は4日、神戸・王子スタジアムで甲南大学に63-7と完勝。試合を通じてオフェンスを率いたのは1年生QBの星野秀太(足立学園)。名門関学が秋の初戦に1年生のQBを先発させるのは、1996年の有馬隼人さん(現・アサヒビールシルバースターHC)以来のことだった。

40ydのロングパスをヒット

試合開始1時間半前、先発メンバー表を見て驚いた。関学のQBが鎌田陽大(3年、追手門学院)でない上に、1年生の星野だったからだ。そういえば大村和輝監督は春シーズンの終盤に「星野がいい。何より気が強いのがいい」と話していたが、控え組の力を試すJV戦のときに星野がけがをしていたり、JV戦が中止になったりで、星野は入学後に試合を経験しないまま秋を迎えていた。だから、余計に驚いた。

関学の選手たちがグラウンドに出てきて、思い思いに体を動かす。まだTシャツ姿で、どの選手が星野か分からない。ファイターズに詳しいカメラマンの方に聞いて分かった。身長173cm、体重75kg。試合後に「しっかり練習してきたので、緊張はしませんでした」と振り返った通り、試合前練習でもリラックスした笑顔をのぞかせていた。一方で鎌田も、いつも通りにパスを投げていた。

小学1年生からフットボールに親しんできた(撮影・篠原大輔)

さあ試合開始。関学のこの秋最初のオフェンスは自陣45ydから。ボールは左ハッシュにある。星野はRB池田唯人(3年、関西学院)にボールを手渡すフェイクをして、さらに2歩下がり、まっすぐにロングパス。左から走り込んだWR鈴木崇与(3年、箕面自由学園)にピタリと決まった。どよめく王子スタジアムの観客席。この瞬間、ただ者ではないことが確定した。「あのプレーから入るとは聞いてなかったんですけど、練習通りにできてうれしかったです」と星野。40ydゲインし、4プレー後に先制タッチダウン(TD)を奪った。

大学生として最初のプレーはプレーアクションからのロングパス(撮影・篠原大輔)
見事にWR鈴木へ決めてみせた(撮影・北川直樹)

夏場の練習を経て、2番手に成長

甲南大のオフェンスがファンブルでボールを失い、敵陣からの関学オフェンスがTDという展開が2度続いた。そして甲南はフリーフリッカーを2プレー続け、ロングパスでTD。関学は21-7で迎えた4度目のオフェンスで敵陣35ydまで入った。星野は右へ逃げながらWR糸川幹人(4年、箕面自由学園)に投げたパスを、甲南のLB大島智則(2年、宝塚東)に奪われた。サイドラインに戻ると、ヘッドセットをつけた鎌田からアドバイスを受けていた。

前半終了間際には星野が糸川へ約15ydのパスを決め、糸川がうまく走って55ydのTDパスになった。35-7で試合を折り返し、星野は最後まで関学オフェンスを率いた。第4クオーター入ってすぐ、同じ1年生のWR川崎燿太郎(鎌倉学園)へのロングパスでTDを狙ったが、少し短くなり、甲南のDB富田大和(4年、箕面自由学園)にインターセプトされた。試合終了間際にはゴール前からWR坂口翼(2年、関西学院)へ早いタイミングのパスを決めると、坂口がエンドゾーンに飛び込み、この日9個目のTDになった。

この日は星野へのアドバイザー役に徹した鎌田(これ以降は撮影・北川直樹)

結局、星野はパスを25回投げて14回の成功。260ydを稼いで二つのTDを奪い、二つのインターセプトを喫した。ランでは8回63ydだった。何より、まったく慌てたり焦ったりするシーンがなかった。大村監督によると、星野は夏の練習を経て鎌田に次ぐ2番手まで序列を上げてきていた。そして初戦の前週に鎌田が体調を崩したため、甲南戦は星野に託すことになった。監督は「考えすぎて思い切ってやれてなかったところもあった。もうちょいできると思う」と評した。

QBとして評価している点については2018~20年のエースQBだった奥野耕世さん(現・ホークアイ)の名前を出し、「奥野タイプです」と切り出した。「走るのが上手で、プレッシャーを裁くのがうまい。ディフェンスが来ても余裕があるんです。走りながら投げきれる。気が強いしね」。今後への期待も込めての起用かと問われ、「もちろん。鎌田と競い合ってほしいですね」と語った。

大村監督は星野のクオーターバッキングを高く評価している

高いコミュニケーション能力

数々の優秀な高校生フットボーラーに接してきた関学の宮本敬士・アシスタントディレクターは、星野との出会いをこう振り返る。「彼が高2のときのプレーを映像で見たときに、大村(監督)と『ウチのオフェンスにぴったり』という話になりました。のちに大村から『(関学に)来てほしい』という話になり、先方と面会して、受験してもらうことがほぼ決まりました。去年の3月に見学に来てもらったんですが、物怖じせず大村とハキハキ話してましたし、『はい』『いいえ』だけじゃなく会話のキャッチボールができる子だったので、大村との間で『コミュニケーションも問題ない。性格的にもめっちゃええ子や』と確認しました」

確かにデビュー戦後の囲み取材でも、星野は終始自分の言葉で丁寧に質問に応じた。「とにかく丁寧にやろうと思ってました。それでも焦ってしまう部分があったので、もっと関学のQBらしく冷静にやれるようにしたいです」と振り返った。千葉出身の星野。父は大東文化大のアメフト部でLBだった。いまは敬愛学園高校(千葉)のアメフト部で監督をしている。

だから幼いころから、家にはアメフトのボールがあった。小学1年生の途中から、オービックシーガルズのジュニアチームである「ジュニアシーガルズ」に入り、小学校の間はフラッグフットボールのWRを経験した。東京の足立学園中学校に入り、アメフト部へ。中2のときにWRからQBに転向し、いまに至る。2学年下の弟も、いま足立学園でQBをしている。

星野にとっての「スター」である副将のWR糸川

関学は小学生のころからあこがれの学校だった。東京ドームへライスボウルの観戦に行き、強い社会人チームに挑む関学の選手たちに目を奪われた。関学の青いヘルメットが、ずっと星野少年の心にあった。QBとして奥野さんのプレーは参考にしてきた。「でも、マネしてばっかりじゃダメ。いいところを吸収して、自分なりの新しい形を作れたらと思ってました」。ついこのあいだ19歳になったばかりとは思えない。

あこがれの先輩に通したTDパス

関学の選手で最もあこがれたのが、いま4年生のWR糸川だ。中3のとき、当時、箕面自由学園高3年でQBとしてプレーする糸川の映像を見た。心からアメフトを楽しむようにプレーする糸川が、星野にとってのスターになった。だから糸川が関学に進学したのを知ったときはうれしかった。「自分も関学へ行けたら、1年は一緒にプレーできる」と。まさにそれが現実となり、日々同じグラウンドに立っていることに感動している。そして前述のように、デビュー戦では糸川へのTDパスも決めた。

昨年の冬、2年生で関学のエースQBとなった鎌田のプレーを見ながら、星野は「この人と2年間一緒にやれるのがうれしい。いろいろ教えてもらえたら」と思っていた。そしてこの春、関西へ引っ越してくるときには「1年目から先発QBになる」との思いでやってきた。本人がチームになじもうとする気持ちが強いからなのか、早くも関西弁のイントネーションが出ている。それを指摘されると、「自覚はないんですけど……」と恥ずかしそうにした。

関学は9月18日、神戸・王子スタジアムでの2戦目で京都大学とぶつかる。おそらく鎌田を先発で使ってくると思われるが、「次の試合までにパスの精度を高めたい」と言った星野の出番もあるだろう。関学ファイターズには非常に楽しみな2番手QBがいる。

一気に関学のエースQBへと駆け上がるのか

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