アメフト

関西大WR溝口駿斗 ソフトボールから転向して1年半、頭角現したセンスの塊

スケールの大きさを感じさせた関大のWR溝口(プレー写真は撮影・北川直樹)

関西学生アメリカンフットボールリーグ1部 第2節

9月17日@MKタクシーフィールドエキスポ(大阪)
関西大学(2勝) 44-10 神戸大学(1勝1敗)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は2節を終えて関西学院大学、立命館大学、関西大学の3校がそろって2勝した。9月17日に神戸大学を44-10で下した関大に、新たなスター候補が現れた。WRの溝口駿斗(2年、滝川)。6回のキャッチで167ydをゲインし、二つのタッチダウン(TD)を決めた。高校時代、ソフトボールをしながらアメフトにあこがれたセンスの塊が、不調のパスオフェンスを変えるきっかけになるかもしれない。

最初のリターンで48ydゲイン

神戸大戦は最初のキックオフリターンから輝いていた。右サイドにいた溝口はワンバウンドでボールを受け、左へリターン。主将のRB柳井竜太朗(4年、関大一)やRB一針拓斗(4年、星陵)、LB鈴木怜央(3年、関大一)らが彼の前で相手をブロックしてくれている。少し詰まった感があり、溝口は一瞬スローダウン。すると神戸大の左の大外の選手が鈴木のブロックで内側に巻き込まれた。溝口はその瞬間に左サイドライン際に出て、48ydのゲイン。いきなりカイザーズを勢いづけた。

慌てず、先輩たちのブロックをよく見てゲインした

ハーフライン付近から最初の関大オフェンス。柳井が4ydゲインした次のプレーは、右のオプションフェイクからのパス。溝口が相手のマークを外してエンドゾーン右奥へ走り込んだが、QB須田啓太(2年、関大一)のパスが少し長くて決まらなかった。ただボールへ飛び込み、必死で右腕を伸ばした姿が印象深かった。

須田のロングパスに必死で飛び込んだ

2-7の第1クオーター(Q)終了間際から、関大の4度目のオフェンス。第3ダウン残り6ydで須田が溝口に決めてゴール前へ。このとき最初のタックルを外したときに溝口のヘルメットが脱げ、そのまま数ydゲインして倒れた。いちいち派手な選手だなあ、と思った。このシリーズはフィールドゴール(FG)止まりで5-7になった。

この日は何度かプレー中にヘルメットが脱げた

次のオフェンスでようやくTDが生まれる。ゴール前31ydからの第3ダウン残り14yd。ボールは右ハッシュ。右タックルのすぐ外についた溝口は浅いルートで左へ駆けていく。フィールド中央付近でタテに上がると、フリーに。須田からのパスを受け、左のCBの外をまくってTDだ。恥ずかしながら、ここまで私は溝口が何者かを認識していなかった。動きのなめらかさと節々に見える態度の大きさから見て、「こんな4年生もいたのか」と思った。しかしメンバー表に目をやると、まさかの2年生。非常に強い関心を持った。高校は兵庫の私立滝川高校。アメフト部があるので、経験者に違いないと思った。

ボールを捕ってからの視野の広さも魅力の一つ

監督は「ジャパンに入る選手に育てないと」

前半終了間際、溝口は捕れるボールを落とした。捕ってからのことを考えたために、丁寧に捕りにいけなかったように見えた。それがショックだったのか、次のプレーで「フォルススタート」の反則。がっかりしていたが、いきなり次のプレーでやり返した。ゴール前17ydからの第2ダウン残り15yd。ハッシュは左。左の大外からポストのルートを走った溝口に、須田の鋭いパスが決まってTD。22-7で試合を折り返した。身長176cm、体重73kgの体が、なんだか大きく見え始めた。

第3Qには、この日最長となる48ydのパスキャッチ。自陣35ydからの第3ダウン残り10ydで、須田は左をタテに抜けた溝口へロングパス。ボールが少し短くなったが、しっかりアジャスト。倒れ込みながら捕った。立ち上がると、溝口は両腕を横に広げて喜びを表現した。その後もランプレーでタックラーをジャンプでかわしたり、2点コンバージョンのプレーで相手と競り合いながら捕ったり、とにかくカイザーズの13番が目立った試合だった。

想定より短くなったパスに対し、うまく体を入れてキャッチ

試合後まず、関大の磯和雅敏監督の話に驚かされた。溝口は滝川高校のアメフト部ではなく、ソフトボール部だった。ソフトボール部の引退後にアメフト部の練習に参加してはいたが、ほぼ初心者で指定校推薦で入って来た、と。しかし大学で練習を始めてすぐ、うならされたそうだ。「センスはピカイチで、スピードもある。それに相手をおちょくるような余裕まである。ジャパン(日本代表)に入る選手に育てていかないといけないと思いました」と磯和監督。これまではけがで出番がなく、この秋から本格的に試合に出るようになった。振り返れば初戦でも4キャッチで35yd、QB濵口真行(4年、池田)からのTDパスを受けていた。

ソフトボール部引退後、アメフトの練習に

溝口のところへ行くのが遅れ、彼にとっては三つ目ぐらいの囲み取材になってしまったが、一切めんどくさそうにせず、私たちの質問に応じてくれた。滝川中学では野球、高校ではソフトボールでショートを守っていた。高3になる前の全国高校選抜大会に出場が決まっていたが、新型コロナウイルスの影響で中止になった。3年夏の全日本高校選手権を兼ねたインターハイも中止になった。2020年6月、兵庫県のインターハイ予選の代替大会に優勝し、引退した。

もともと高校の同級生のアメフト部員と仲がよく、「カッコいいな」と思っていたそうだ。ソフト部のころも公園でアメフトのボールでキャッチボールをした。ソフト部を引退してからアメフト部の練習に参加するようになった。練習試合は出たが、公式戦には出なかった。仲間内では関大カイザーズのユニフォームがカッコいいと評判だった。溝口自身も強くあこがれていた。ラッキーなことに指定校推薦の枠が空いていた。成績も足りていた。そして昨春、関大に入学した。

「練習が始まって、最初は何が何だか分かりませんでした」と溝口。すると4年生のWRの先輩が親身になって教えてくれた。1学年上のDBの先輩は、練習後につきっきりでマンツーマンの相手をしてくれた。カイザーズのあたたかさに触れ、センスの塊は知識とテクニックを自分のものにしていった。恥骨の疲労骨折が癒え、今春の最後の試合から出場し始めた。

あこがれのカイザーズでプレーできる喜びに満ちている(撮影・篠原大輔)

WRのおもしろさについて尋ねると、「ボールを捕ったあとにどれだけ進めるかだと思います」と溝口。確かに神戸大戦でもランアフターキャッチのコース取りが光った。「昔から空間認知能力は高い方で、それが生きてるのかもしれない」と笑った。

気持ちが通じ合う2年生コンビ

オフェンスコーディネーターを務める武田真一コーチからは「お前はリーディングレシーバー(リーグのキャッチ数1位)にならなあかん」と言われていて、狙っていくという。「目立ってどれだけマークされても、捕りきれるレシーバーになりたいです」と前を見た。

エースQBの須田は同学年の溝口について「駿斗はいまの関大の中でいちばんいいレシーバーです。普通の選手じゃないので、いちばん信頼してます」と手放しでほめた。「あいつに向かって気持ちよく投げさえすれば、合わせて捕ってくれる。『2人でオフェンスを引っ張っていこうな』と話してます」と須田。溝口のいいところに関しては「スピードもあるしキャッチもうまいのは大前提として、誰よりも気持ちが強いところですね。何が何でも捕ってやるという気持ちが伝わってくるんで、僕も気持ちで放ってます」と語った。

QB須田は溝口に全幅の信頼を置いている

逆に溝口は須田について「もちろんいろいろ教えてもらってます。性格がすごすぎて、見習わないと。同期でよかったです」と話した。神戸大戦のネット中継で溝口が活躍するたびに出てくる「尊敬する人」の欄には「須田啓太」と書いてあった。気持ちの通じ合う2年生コンビが、関大の誇るホットラインとなれるか。

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