法政大学・小松桜河 開幕戦で得点王の1年生RB、鬼ごっこで身につけたカットバック
関東学生1部リーグ「TOP8」
9月3日@東京ドーム
法政大学 28-3 慶應義塾大学
アメリカンフットボールの関東学生TOP8が9月3日、東京ドームで開幕した。開幕第3試合で対戦した法政大学と慶應義塾大学の試合は、多彩な攻撃でタッチダウン(TD)を重ねた法政大が28-3で勝った。法政大は多くのメンバーを投入して攻守で総合力を見せ、中でも目をひいたのが1年生の活躍だった。この日慶應大から奪った四つのTDは、WR高津佐隼世(じゅんせい、佼成学園)とRB小松桜河(おうが、日大三)の2人。いずれも今年入学したばかりのルーキーだ。
走り出したときに「これは行ける」
第2クオーター10分過ぎ。サイドラインから試合を撮っていると、レンズ越しにひときわ小柄な38番が入ってきた。セットした位置がRBなのか、QBなのかはっきりとはわからなかったが、プレーが始まると40yd走4.7秒の俊足で迷いなく左サイドを駆け上がった。TDだ。体の大きな仲間が次々に集まってきて小松を祝福する。新たなスター候補の登場に東京ドームが湧き、呼応する。この瞬間が学生スポーツを取材する身にとって、なによりも嬉(うれ)しい。
「走り抜けたらワーッと歓声が聞こえて、”自分がTDを取ったんだ”って。走り出したときにこれは行けるって思いました。最後CBが残ってたんですが、いっちゃおうってオープンをまくったらギリギリかわせました」。最初のTDランを振り返り、まだ興奮冷めやらぬという感じでイキイキと話す。計三つのTDランを決めた小松の言葉だ。
試合出場が決まったのは、東京ドームでの開幕が決まったのとほぼ同じ、試合の1ヶ月前。「(開幕戦が東京ドームになり)めちゃくちゃワクワクしていて、気合が入りました」。TDを決めたプレーは、RBがQBの位置に入るワイルドキャットと呼ばれるプレーで、小松のために用意されたものだった。チームの全体練習では2、3回しか練習しなかったが、先輩に付き合ってもらい、練習後のアフターで何度もタイミングを確認した。「練習ではそこそこ出ましたが、(本番で)そんなにうまくいくかなあって」。試合前のすこし不安な気持ちとは裏腹に、「1回TDをとったらどんどん使ってくれて。チームもいい感じの雰囲気になってよかったです」。高揚と安堵(あんど)が交錯する。得点王となった試合後の表情からは、早くも身につけた自信が見えた。
QBとして高校王者を追い詰めた日大三時代
小松は小学生時代、空手に親しみ、サッカーや水泳、ダンスにも取り組むスポーツ少年だった。5年生のとき、地元の友だちだった松澤颯輝(そうき、現・横浜高3年QB)の誘いで世田谷ブルーサンダースでアメフトを始めた。小柄だった小松は当時を振り返り、「周りは体が大きいやつが多かったので、こんなんできるのかなって思いました」と話す。そして「小学校の頃から、鬼ごっこがすごく好きで、そこで身につけたカットバックだとかを生かしながら今に至るって感じです」と続ける。物おじすることなく勇敢なプレースタイル、相手をかわす走法は鬼ごっこがベースだというから面白い。
RBとCBをプレーしていたが、日大三高で3年に上がる時、コーチからトリプルオプションを始めるためQBにコンバートすると告げられた。小松のフットボール経験に根ざした理解力と機動力を買われての起用で、小松はQBとして高い能力を発揮した。秋の都大会では準決勝まで勝ち上がり、全国大会で連覇中だった佼成学園を相手に互角の戦いを演じた。試合には20-27で敗れたが、小松はキープからの独走を連発し、高校王者をあと一歩の所まで追い詰めた。
先輩RBに憧れ、法政大へ
アメフトを始めた時から、大学でもプレーすると決めていた。三高の三つ上の先輩にあたるRB星野凌太郎(4年)が活躍していたため、法政大に憧れた。星野は大学進学後も度々三高の練習を訪れ、カットバックの方法などRBとしての基礎を熱心に指導してくれたという。RBとしての目標は星野かと聞くと、こう返ってきた。「僕には星野さんみたいな圧倒的なスピードはないので、星野さんのスタイルというよりは関学の前田公昭さん(21年度卒、現・エレコムファイニーズ)みたいなRBになりたいなと思っています」。前田のアサイメント理解に裏打ちされた、クレバーな走りがRBとしての目標だ。
星野は小松について言う。「自分が1年のときの4年に三高の先輩がいて、同期に丸山(豊、OL)もいますが、自分らのあとは桜河だけなんで入ってくれて嬉しかったです。高校の頃から見てたので、可愛い後輩って感じですね。自分と同じでスピード派なとこやカットも切れてるので、その辺を伸ばしていってほしい。僕が卒業したあとも三高出身として活躍してくれれば嬉しいです」。横で小松は、照れながらも嬉しそうに聞いていた。
「プレーと性格が正反対」HCも成長を期待
今シーズンから法政大HCに就任した冨永一コーチは「初戦というのもあり総力戦と考えていました。学生の能力を全部生かせるようにと、小松専用のプレーも用意しました。自信を持ってやろうという話をしていて、その通りやれて勝ててよかったです。次は日大さんが相手なので、またこれから考えて色々用意します」と試合を振り返った。小松についてはこう評価した。「プレーはダイナミックで切れのある走りをする。ただ、まだ引っ込み思案というか、シャイな部分がある。プレーと性格が正反対なやつなので、こうして活躍してくれてよかったなと思います」。指揮官は、小松の更なる成長を大いに期待している。
「ゆくゆくはエースになって29番(伝統のエース番号)をつけたいです。でも、星野さんみたいな1桁(7番)もかっこいいなって思ってます」。あこがれの背番号について聞くと、嬉しそうに話した。今年は星野と一緒にフットボールができる最初で最後のチャンスだ。小松は憧れのエースとともに、スピードと度胸でチームを勝利に導く。