アメフト

金澤檀、日大の10番を背負う絶対的なエースになる 先発QBが2年目に見せた進化

今秋、金澤はエースとして日大を引っ張る。背番号10番を着けるのも目標の一つだ(撮影・すべて北川直樹)

3年ぶりに甲子園ボウル出場を果たした2020年から一転、昨シーズンは関東1部リーグTOP8の7位と苦戦を強いられた日本大学フェニックス。今春は、OBで社会人Xリーグのオービックシーガルズやエレコム神戸ファイニーズ、関西大学、東京大学などでコーチを歴任した中村敏英氏を監督に迎え、新たな体制でスタートを切った。

春シーズン序盤の明治大学戦は仕上がりの甘さから力負けを喫したが、続く中央大学戦を皮切りに法政大学、立教大学と昨秋負けた相手に連勝し、着実に実力をつけている。秋に向け、フェニックスの浮沈の鍵を握るのは、先発QB(クォーターバック)として攻撃陣を束ねる金澤檀(まゆみ、2年、駒場学園)だ。若き司令塔はこの春、確かな成長を見せた。

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かみ合わなかったパスユニットが進化

金澤は昨秋の初戦となった法大戦で本格的にデビュー。身長172cmと小柄ながら物怖(お)じせずにプレーし、先発を務めてきた。だが昨春の段階では1学年上の加藤俊輔(3年、日大櫻丘)が先発だったこと、試合2週間前に先発が決まったこともあってWR(ワイドレシーバー)との息があまり合わず、パスを投げるタイミングやプレー判断を逸してボールを持ちすぎるシーンが目立った。落ち着きがあり好不調の波は少ない。致命的なミスこそ犯さないが、決定力や守備側から見た怖さに欠ける選手という印象が残っていた。

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そんなルーキーの2年目はどんな選手に成長したのか。今春、興味と期待を持って試合で写真を撮った。まずはWRとの連携が昨年とは見違えるように向上していた。昨年の初戦2週間前の先発抜擢(ばってき)から、時間を経てパスユニットとしての完成度が高まっており、エースWRで主将を務める山下宗馬(4年、箕面自由学園)も「去年よりもユニットとしての完成度は確実に上がっている」と話す。

中大戦は自分で走ってTDを決め、逆転の狼煙を上げた。ここから金澤自身もチームもいい方向へ

前任の橋詰功監督(現・同志社大ヘッドコーチ)、昨年から合流した平本恵也ヘッドコーチ、中村監督とオフェンススタイルの大きな変更はなく、パスユニットとしての経験値はしっかりと上積みできているのだという。加えて、金澤自身の成長もしっかりと見えた。件の中大戦、タックルをかわしながら14yd(ヤード)走ってタッチダウン(TD)を決め、13-10と逆転したプレーだ。このプレーを境にして、金澤の判断力と思い切りの良さは格段に上がった。誰もが納得する明確な進化だった。金澤はこう話す。

「明治大戦は調子の悪いまま流れを変えられず、ズルズルといってしまった。その失敗を踏まえてどう打開するのかを考えました。日頃の練習からイメージして取り組んだ結果、自分の中でどう変化をつけていくかが具体的になった。中大戦では、自分が走ることでいい流れに持って行けた。僕自身が走ってタッチダウンを取ることはあまりないですが、そういう選択肢を作れるようになったのが自信になりました」

春の中盤からは、中村監督の方針で「当面は金澤先発で行く」という基本方針が据わった。それまでは、5人いるQBの中で調子のいい選手を順繰り起用するやり方だったが、それだとどうしてもどっちつかずになる部分が出る。そこで、春の段階では金澤に絞ることにしたという。「一定の基準を設けて金澤と決めたなら、しばらく金澤に投資しようと思ったのが、結実した」と中村監督は話す。チーム首脳陣の期待に応えて結果を出した金澤は、一皮むけ一歩抜け出した感が見て取れた。チームの方針と選手の成長がしっかりとかみ合い、いい方向に進んだ。

幼稚園の年中からアメフト、強豪・駒場学園でもまれ

金澤のアメフト歴は長く、今年で16年目になる。家族にアメフトの経験者はいなかったが、母方の親戚に日本体育大学でQBとして活躍し、チェスナットリーグの大阪ベンガルズを創設した池野邦彦さん(現・日本アメリカンフットボール協会理事)がいたことがきっかけで、幼稚園の年中からキャリアをスタートした。池野さんの長男で、立命館大学を経て鹿島ディアーズ(現・胎内ディアーズ)で活躍した伸さんにもQBの教えを受けた。

「伸さんは自分がQBを始めてから最初に見た選手。ボールを投げる際の手のスイングなど、QBの基本を教えてもらいました」

小柄ながらQBに必要なすべてをバランスよくこなせるのが金澤の魅力

小学5年生の時に親の仕事の都合で東京に引っ越し、世田谷ブルーサンダースに移籍。東京の強豪、駒場学園高校に進んだ。高校では、OBでQBコーチだった波木健太郎さん(02年に早大を甲子園ボウル初出場に導き、NFLヨーロッパ・ケルン センチュリオンズで活躍)からQBのチームでの在り方など、振る舞いや考え方について教わったという。自身のプレー経験だけではなく、錚々(そうそう)たる面々から多角的な指導を受けてきたことが、QBとしての金澤を作っている。

高校では3年間通して先発を務め上げ、3年生の時には副将に就いた。戦力がそろった3年生での秋大会は3年ぶりに関東大会に出場。準決勝まで勝ち上がったが、のちに全国大会決勝・クリスマスボウルで優勝する佼成学園高校(東京)に28-35で惜敗し、涙を飲んだ。

2年目は「ここ一番の勝負で武器になるような力を」

春の時点で先発の座を掴(つか)んだ金澤だが、慢心はない。

「自分は割と、常に平均的なパフォーマンスを出すことはできますが、他の人はめちゃくちゃいい時もあれば悪い時もあるというのが現状だと思います。自分としては、出せるスタンダードをもっと上げないといけない。今は自分がファースト(先発)の立場ですが、みんながそこを狙ってきてる。QBユニット全体の底上げのためにも、もっと頑張らないといけません」

1年目は大学レベルとしてすべてが初めてで、相手の体格やスピードも高校とはレベルが違う。「全部が挑戦でした」と振り返る。2年目の今年は、経験を積むことによってイメージできることが広がったという。想定できる要素が増えて、試合前に考える余裕が生まれた。そしてその分、試合中に自分の中で変化を出しやすくなったことが大きいと話す。常に冷静に自分を見つめ、周りを見つめながら組み立て直せる適応能力が金澤の魅力だ。

冷静に守備を読み、たとえミスしても後にひかない冷静さがある

QBを指導する平本コーチは、「ラン、パス、守備リードとバランス良くこなせるのが金澤のいいところ。逆にいうと器用貧乏とも言えるので、ここ一番の勝負で武器になるような力を磨いていってほしい」と成長に期待をかける。

いつかは林大希さんのように

金澤は、日大の絶対的エースQBとして活躍した林大希さん(20年度卒)と入れ替わりで日大へやってきた。もちろん、林さんが1年生で甲子園ボウル優勝に導いた姿は見て知っている。高校時代に日大の練習を見学して林さんの発言や振る舞いを見たこともあり、大いに刺激を受けた。

「当時の林さんは、体つきも含めて1年生とは思えない存在感があった。ハドルでの発言などで引っ張っていく力、大きなリーダーシップを持っていたと思います。自分もそういう部分を伸ばしてアピールしていかないといけないなと感じています」

金澤はチームハドルで前に立つ機会も増え、課題の一つであるリーダーシップを磨いている

日大のエースQBは背番号10を着けるしきたりがある。しかしこれにはエースと自他ともに認められる必要があり、不在の年もある。10番は、20年の甲子園ボウルで林さんが着用して以来、誰も着けていない。

「日大でQBをやるからには、いずれ10番を着けたい。そこにいくまでにはまだまだ突き詰めることがありますが、チームを引っ張っていける存在になれたら10番が近づくのかなと思います」

先発から、誰もが認める「エース」へ。金澤は、はっきりと目標を口にした。

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