日本大学の加藤俊輔、名QB林大希の後継に挑む2年生の春
アメリカンフットボールの関東大学春季オープン戦で、昨季王者の日本大学が同じTOP8の法政大学と対戦(5月16日)し、13-19で敗れた。昨シーズン、2017年以来3年ぶりに優勝して甲子園ボウルに復活した日大は今春、QBの林大希(現コーチ)をはじめ1年生から活躍してきた多くの主力が卒業した。注目されたのが、4年間エースだった林の後継を誰が務め、どんな仕上がりなのかだ。先発メンバー表には、加藤俊輔(2年、日大櫻丘)の名前があった。
いきなり53ydのパス成功
試合は日大の攻撃からはじまり、19番をつけた加藤がフィールドに入ってきた。加藤のプレーは試合で見たことがなく、どんな選手なのかは知らなかった。しかし、独特の落ち着きがあった。最初のプレーで、RBにボールを渡すふりをした後に思い切りパスを投げ込んだ。
ちょうど2年前、林が投げたロングパスが頭に浮かんだ。出場停止処分が解けて日大の最初の対外試合、日体大戦(2019年5月)だった。3年生になった林がいきなり72ydのTDパスを決めた。
今年の法大戦の立ち上がり、加藤が投げたパスはエースWRの山下宗馬(3年、箕面自由)がキャッチして53ydのロングゲインとなった。「めちゃくちゃ緊張してたけど、あれで気持ちが楽になりました」。加藤は振り返った。
法政大学に逆転負け
「練習はボロボロでしたが、試合になるとできることもありましたし、(法大も)見やすくて落ち着いてやれました」。加藤はボールを投げる場所がうまく、テンポ良くパスを通した。日大は第1クオーター(Q)3分過ぎにK高橋寛太(4年、日大鶴ケ丘)のFGで先制、8分31秒には加藤からWR毛利元紀(3年、ロングビーチシティー)への14ydのパスでTDを奪った。
後半は法大ディフェンスに対応されて無得点、第4Qに試合をひっくり返された。加藤は手応えがあった中で、負けたのが悔しかった。インターセプトもされた。悪い流れを変え、自分で作っていくのが課題という。
若い司令塔争い
加藤は新人だった昨年、QBの序列で4番目だった。コロナ禍で試合が少なかったこともあり、出場経験は全くない。練習では、守備の練習台として仮想敵役(スカウト)を務めてきた。「せっかくスカウトをするんだったら、一発くらいかましてやらないと」。ルーキーらしく思い切りよくやってきたが、今年はチームの浮沈を握るエース候補と呼ばれる立場に。責任の重さは比べ物にならない。「自分が日大のエースだなんて、まだとても言えないんで」。謙遜しながらも、同期や後輩に対する負けん気はしっかり口にする。日大には今季、上級生(3、4年生)のQBがいないから腹は決まっている。
「激しいスポーツで格好いいなと思って」と、高校からアメフトをはじめた。加藤が通った日大櫻丘高はアメフトの名門だが、在学時は都大会ベスト16が最高成績。「ずっと下にいたからこそ、日本一を目指したいとフェニックスに入りました。まさかこんなに早く(試合に)出られるとは思ってなかったですが……」。全く威張らない。恥ずかしそうに、柔らかな口調で話した。
首脳陣からの期待も膨らむ
加藤のプレーと姿勢は、チーム首脳陣からの評価も高い。「まだまだリーダーシップが課題ですが、プレーはすごく良い。2年の頃の僕よりも全然上手です」と林コーチが言えば、橋詰功監督も「運動能力が特別高いわけではないが、自分で頑張ってあそこまでやった」と期待を寄せる。加藤について聞くと、コーチ陣は皆、うれしそうに話す。
橋詰監督は契約が満了する8月にチームを離れることになっている。フェニックスに誘ってくれた恩師と、「雲の上の存在」と敬愛する林コーチと揃って過ごせる期間は長くない。加藤は「この時間を大事にしたい。フェニックスと言えばパス。もっともっと、頑張らなきゃですね」。静かに自分に聞かせるように言った。