アメフト

春の関関戦はキッカー中井慎之祐の決勝FGで関大が劇的勝利、関学はラン攻撃に手応え

春の関関戦に勝ち、盛り上がる関大の選手たち(すべて撮影・北川直樹)

関西学生大会

5月28日@MKタクシーフィールドエキスポ(大阪)
関大 3 0 0 14 | 17
関学 0 7 7 0 | 14

アメリカンフットボールの関西学生大会は5月27、28日にあり、関西学生リーグ1部の8校が熱戦を繰り広げた。前人未到の甲子園ボウル6連覇を狙う関西学院大学ファイターズと昨秋リーグ2位の関西大学カイザーズの「関関戦」は、同点の試合残り30秒、関大のキッカー中井慎之祐(2年、関大高等部)が決勝の46ydフィールドゴール(FG)を決め、17―14でものにした。

関大QB須田啓太、アザだらけの顔で出場

昨秋の対戦では雨の中、関大のQB須田啓太(3年、関大一)が関学DL、LBの圧力に屈し、ピッチミスやファンブルロストがあって10-17で敗れた。WR溝口駿斗(3年、滝川)という最強の相棒がアメリカ挑戦のためにチームから離れたいま、須田がどんなパフォーマンスを見せるのか。そんなことを考えていたら、試合前から須田の顔が気になった。あちこちにアザがあり、右目の付近と口のあたりに白い絆創膏(ばんそうこう)を貼っている。フェイスシールドをつけて試合に出てきた。

試合前から須田の痛々しい顔が気になって仕方なかった

関学が最初のオフェンスでFGに失敗。関大は最初のプレーで須田から主将のWR横山智明(4年、関大一)へのロングパスに成功。ゴール前まで攻め込んだが須田のパスが決まらず、中井の22ydFGで3-0と先制した。2度目の関大オフェンス、フィールド中央付近からの第3ダウン10ydで、須田が左へ逃げて止まり、WR北川皓太(4年、星陵)へ投じたパスが浮き、関学DB波田和也(4年、箕面自由学園)がインターセプト。

関学は4度目のオフェンスでOL陣が相手DL、LBを圧倒。QB星野秀太(2年、足立学園)のパスもさえ、RB陣も一発のタックルでは倒れない粘りを披露した。最後は第2クオーター(Q)9分37秒、RB澤井尋(3年、関西学院)がドロープレーから7ydを持ち込んでタッチダウン(TD)。3-7と逆転した。

OLのナイスブロックもあり、関学RB澤井はこの日2TD

11点差を追いついた関大

関大は直後のオフェンスで須田がWR岡本圭介(3年、関大一)へのロングパスを通した。第4ダウンギャンブルも、昨年の主将RB柳井竜太朗(現・エレコム神戸ファイニーズ)の背番号5を受け継いだRB阪下航哉(3年、関大一)が中央を突き、スピンでタックルを外して乗り越えた。相手の反則もありゴール前8ydまで迫ったが、またも須田が左へ逃げて内側に投げたボールを関学LB永井励(3年、関西大倉)がインターセプト。須田は高校時代、右利きのQBには難しいとされる左へ逃げてからのパスを得意としていたが、この日は関学ディフェンスのナイスリアクションにやられた。

関学のQBは後半から4年生になった鎌田陽大(追手門学院)。2シリーズ目にWR前島仁(4年、関西学院)へのミドルパスなどでゴール前に迫ると、OL金川理人(3年、関西学院)をFBに入れた両TEのIフォーメーションから、3回連続で左のパワーオフタックルに出て、RB澤井がTD。この日の関学OLはしっかりと相手DL、LBをコントロールしていた。3-14と関学がリードを広げた。

関学QB鎌田は4年生らしいところを見せられなかった

関大は直後のオフェンスで相手の反則に助けられて敵陣へ。第4Qに入ってすぐ、須田が同じ名前のRB小野原啓太(4年、府立摂津)へパスを通すと、小野原は3人のタックルをかわしてゴール前5ydへ。第4ダウンを迎えるとギャンブルに出て、須田が左のクロスパターンでフリーになったWR井川直紀(4年、関大一)へTDパスをヒット。2点コンバージョンも決めて11-14と迫った。

関大のWR井川(右)のプレーからは、この一戦にかけた思いが伝わってきた

さらに関大は次のシリーズで、須田からパスを受けたWR北川が右サイドを走ってロングゲイン。詰めを欠いたが、中井が32ydのFGを軽々と蹴り込んだ。14-14。春にはなかなか見られない熱戦に、2200人の観衆も盛り上がってきた。

残り30秒のFG、蹴った瞬間にガッツポーズ

残りは5分あまり。関学は鎌田のパスが決まらず、敵陣に入れずにパント。残り1分52秒、関大のオフェンスは自陣23ydから。須田がWR井川、横山へパスを通して敵陣へ。さらに須田が前に出ながら投げたパスを、井川が関学ディフェンス陣に囲まれながらキャッチ。試合残り30秒、ゴール前29ydで第4ダウン。身長190cm、体重86kgの大型キッカーの出番だ。サッカー用の黒いスパイクがボールをとらえた次の瞬間、もう中井はガッツポーズ。まっすぐに飛んでいったボールはH型ポールの中央やや右を通過。関大が17-14と勝ち越した。

最後の望みをかけた関学のオフェンス。2プレー目に鎌田のパスを関大LB鈴木怜央(4年、関大一)がインターセプト。これで決まった。春とはいえ、最大のライバルに逆転勝ち。カイザーズのサイドラインと応援席はお祭り騒ぎとなった。

初めて緊迫した場面で蹴った中井だが、堂々とやりきった

前日に交通事故「傷口が開いた時点で交代」と約束

試合後、一刻も早く知りたかったのは、なぜ須田が痛々しい顔で試合に出ていたのかということだ。磯和雅敏監督が「ほんまにアホですわ」と苦笑いしてから、教えてくれた。須田は試合前日の早朝、自宅のある兵庫県西宮市内で自転車に乗っていた際、乗用車と衝突した。救急車で運ばれたが、顔の2カ所を縫っただけで脳などに異常はなく、医師は翌日の試合に出ても大丈夫と話したそうだ。磯和監督と須田は「傷口が開いた時点で交代し、再出場はしない」と約束。ベンチに戻るたびに縫った部位の出血を確認したが、大丈夫だった。

磯和監督は「1年生のQBで戦うことも考えましたが、須田君は運がよかった。関学さんとやるのは貴重な機会です。いま考えられるベストメンバーで臨みました。関学さんはいろんなテーマを持って臨まれたと思いますが、ウチは100%勝つためにやったので、勝てたのはよかった。これで調子に乗るんじゃなくて、秋に本気の関学さんに勝てるように、また努力しないといけません」と話した。

痛々しい顔に満面の笑みをたたえて、須田が報道陣の前に出てきた。「また僕のせいで負けるところやったんで、よかったです。全員で勝つと信じて、みんなで足をかき続けた結果だと思います。去年の関大の方が強かったという感覚が僕らの中にあるんで、関学に勝てたのはめちゃくちゃよかった」と話した。42回パスを投げ、18回の成功で330yd進んだが、二つのインターセプトを喫した。ともに5回のパスキャッチを記録した横山と井川は、関大一高時代からの1学年先輩。須田は二人について、「高校時代からいっぱい助けてくれてる先輩で、とくにスーパーなところはないんですけど、いてほしいところにいてくれるレシーバーです。いつも信頼して投げてます」と、独特の表現でたたえた。

関大QB須田はパス成功率は低かったが、しっかり投げ込む姿が印象的だった

中井の飛距離は秋の大きな武器に

磯和監督が最大の勝因に挙げていたのがキッカー中井の活躍だ。5回あったキックオフはすべてエンドライン付近まで飛ばしてタッチバック。最後を含め、3回のFGトライをすべて決めた。父は1989年に東京ドームで開かれたクリスマスボウルで関大一高のRBとして活躍し、敢闘賞を受けた中井次郎さん。身長は170cm足らずながら、気迫が表に出るランナーで関大でも活躍した。その息子は190cmの長身で、小学校から高校まではサッカーでセンターフォワードだった。高校からアメフトをしたい気持ちもあったが関大高等部に部はなく、大学から始めた。

キッカー専任でやっていくつもりはなかったが、磯和監督に「ちょっと蹴ってみ」と言われて蹴ると、「ええやん」という話になり、今日に至る。「磯和さんに才能を見つけてもらって感謝してます」と笑う。「サッカー蹴り」をやめることから始め、先輩に基礎をたたき込まれた。昨年はキックオフと長めのFGで登場。キックオフの飛距離で会場を沸かせ、「関大の長身キッカー」として話題になりつつあった。練習では65ydのFGも決め、キックオフは75yd以上飛ぶこともあるという。磯和監督は「リターンされないというのは大きいですよね。秋に向けて大きな武器になると思います。まだFGの安定感がないですけど、実は彼がNFLに一番近い選手なんじゃないですか?」と語った。中井は「秋に同じ状況になったとき、決められるようになりたいです」と話した。

敗れた関学の大村和輝監督は「もちろん関大は強いけど、ウチがふがいない。オフェンスは燃費が悪いわ。OLとRBがよくてランが出た(170yd)のは収穫やけど、反則が多いし、大事なところで誰かがチョンボする。反則は普段から起こってるのに気づいてないか、軽く考えてるか。あとはファンダメンタル(基本)がともなってないから起こってるのもある」と話した。1年生で入学後にQBからDBに転向したリンスコット トバヤス(箕面自由学園)を起用し続けたことについては、「試合で経験せな分からんことがあるからね。向こうはしっかり若いDBのところを狙ってきて、ちゃんとやられた」と言った。

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