アメフト

関西学院大学 期待のルーキーがデビュー WR小段天響とDBリンスコット トバヤス

ともに「大学デビュー」した試合後の小段天響(右)とリンスコット トバヤス(撮影・篠原大輔)

関西学院大学ファイターズはこの秋から冬にかけてのシーズンで前人未到の甲子園ボウル6連覇を狙う。その集団に今春も多くの有望な新人たちが加わった。中でも即戦力と期待されるWR小段天響(こだん・てんきょう、大産大附)とDBリンスコット トバヤス(愛称トビー、箕面自由学園)の二人が、5月20日の中央大学ラクーンズとの交流戦(神戸・王子スタジアム)で初めて大学の試合に出場した。

大学初のタッチダウンを決めた小段

中大戦の先発メンバーを見て、思わず声が出た。入学して2カ月経たない小段とトビーが、そろってスターターに名を連ねた。小段は高校時代と同じWRで「おっ、来たな」ぐらいのものだったが、トビーは高校までのQBからDBにコンバートされた上での先発で、こちらに驚かされた。この春ここまでの日本大学戦とエレコム神戸戦ではスタイルせずに試合の運営を手伝っていた二人が、青いユニフォームに身を包み、フィールドに出て行った。23-14と勝った試合で、小段は大学初タッチダウン(TD)。一方のトビーは大学トップレベルの洗礼を受けた。

小段は高校時代と同じ18番をつけた。オフェンスから始まった試合の2プレー目で左のサイドスクリーンから相手のタックルを軽くかわし、8ydのゲイン。3プレー後には右オープンを走って4yd。最初のシリーズで得点はなく、2シリーズ目はWR坂口翼(3年、関西学院)の好パントリターンで敵陣36ydから始まった。2年生になったQB星野秀太(足立学園)が左の小段へ投げて8ydゲイン。第2ダウン残り2ydで、星野は左へ浮かせたパス。フリーになった小段がエンドゾーン左隅へ飛び込んでキャッチ。28ydの先制TDパスとなり、叫んで喜ぶ小段に先輩たちが駆け寄って祝福した。

中大戦の序盤、小段は大学初のタッチダウンを決めた(撮影・北川直樹)

その後も2度、小段にはTDのチャンスがあったが、ボールを確保する寸前にかき出されたり、競り合いに勝てなかったり、3回のキャッチで44yd、1TD。走っては2回15ydだった。試合後の小段は満面の笑みで言った。「試合に出るのは1週間前に言われました。1試合目から自分の力を見せたいと思ってたので、毎日気合入れて練習しました。タッチダウンのところは一番集中してました。星野さんがいいところに投げてくれた。相手をかわすところでサイドラインの外に出たかもしれんと思ったけど、審判の両手が上がったので安心しました」

その後のTDチャンスを逃したことについては「ボールをかき出されたのは、手に入って油断してしまいました。ああやって最後までボールにアタックしてくるのが高校と大学の差だと思います」と反省していた。

「捕った」と思った瞬間、相手にボールをかきだされた(撮影・北川直樹)

トビーの存在が関学進学の決め手に

小段はアメフト一家の末っ子だ。父の剛(つよし)さん(52)は大産大附高で活躍し、龍谷大学へ進んでキャプテンを務めた。いま小中学生のチーム「OSAKAマーヴィーズ」の監督で、大産大附高のコーチでもある。長男の颯(はやて)さん(28)も大産大附から関西大学へ進み、U19日本代表のLBとして世界選手権に出場した。長女の穂紀(ほのり)さん(25)は箕面自由学園高のチアリーディング部出身で、立命館大学ではチアのキャプテンを務めた。

幼いころからアメフトが身近にあった天響は、自然な流れで小1のときにマーヴィーズに入った。小6のときにチェスナットボウルで初優勝し、日本一になった。これも自然に大産大附高に進み、WRとDBの両面で活躍。高2の秋に関学からスポーツ推薦での誘いを受けた。「負けた試合の後だったんですけど、すごくうれしかったのを覚えてます」と天響。高1のころは、高校の先輩も多く進学している立命館大で絶対王者の関学を倒したいと思っていた。立命か関学かと考えていく中で、立命の指導体制がここ数年で何度か替わっているのが気になった。そして関学進学の決め手になったのが、トビーだった。

昨冬のクリスマスボウルでTDを決める小段(撮影・北川直樹)

天響とトビーは小学校のころから何度も対戦してきた。成長するにつれ、お互いの力を認め合うようになり、絆が生まれた。天響は「いずれは一番いいQBとやりたい」と、トビーとプレーする自分を思い描いていた。だからトビーが関学に決めたと聞いたとき、大きく心が動いた。2022年に4年生のTEだった小林陸に続き、大産大附から関学への進学を決めた。そしてトビーと約束した。「関学で最初から二人で試合に出て、俺らでアメフトを盛り上げよう」。高3になると二人ともチームのキャプテンとなり、昨年12月11日にクリスマスボウル進出をかけた関西大会決勝でぶつかった。21-14で天響の大産大附が勝った。二人は王子スタジアムのフィールドで、泣きながら抱き合った。

高校最後の対戦が終わり、小段(背中)とトビーは抱き合った(撮影・篠原大輔)

トビーはDBに転向し、わずか3週間

時計を戻す。トビーはもちろん関学でもQBでプレーしたいと考えていた。しかし5月に入って「DBやってみよか」という話になった。大村和輝監督は言う。「QBではしばらく出られへん。身体能力が高いのに控えで置いておくのはもったいない。コーナーバック(CB)は手薄やし、ディフェンスを経験しとくとQBに戻ったとしてもプラスやからね」。バックペダルをやらせてみたら非常にスムーズで、コンバートが決まったという。

しかし、CBはDBの中でも経験がものをいうポジションだ。3週間の練習で太刀打ちできるほど、関東大学1部TOP8の中堅校である中大はヤワじゃなかった。8番をつけたトビーは果敢にタックルにいけば外され、中大のエースWR松岡大聖(2年、県立横浜栄)に抜かれた。第4クオーターになると、中大は露骨に松岡とトビーのマッチアップを突いてきた。36ydのパスを通され、攻め込まれた。試合残り4分38秒。最後もゴール前のマンツーマンで、エンドゾーン左端にうまく体を入れた松岡へ、QB小林宏充(4年、佼成学園)からピンポイントのパス。マークの遅れたトビーが必死で左腕を伸ばしたが、ボールには当たらなかった。この日初めて中大にTDを許した。トビーは人工芝をたたいて悔しがった。

中大のエースWR松岡大聖をマークできずにTDを奪われ、トビーは人工芝をたたいて悔しがった(撮影・篠原大輔)

最初から一緒にスタメンで出る目標は果たせた

ニュージーランド人の父を持つトビーは、ファイターズでは数少ない国際学部生だ。中大戦の直後、CBへのコンバートは「チャンスやと思いました」と振り返った。高校時代の練習では不用意なヒットを受けないように、QBだけオフェンスともディフェンスとも違う色のユニフォームを着けていた。だから自分から思いきり当たりにいくこともできない。練習からガンガンぶつかり合うポジションにうらやましい気持ちがあったという。だから、このチャンスに必死で練習した。

高校時代、強肩で俊足のQBだったトビー(撮影・篠原大輔)

試合の2日前、中大戦で起用すると伝えられた。マンツーマンの練習では少々抜かれても、相手が捕った次の瞬間にボールを落とさせていた。だから、試合でもそうやればいいと思っていたそうだ。しかし試合になると思ったように動けない。「捕られてもそのあとにいったらいいと思ってたんですけど、13番(松岡)はうまかった。いいレシーバーにはボールを触られたら負けなんやってことが分かりました」

そのあとの発言に、そこらへんの18歳とは違うトビーの芯の強さがにじみ出ていた。

「明日からの練習が楽しみです。13番にやられたシチュエーションでやって、次に対戦したら必ず勝てるように。中央に甲子園ボウルに出てきてもらわな困ります。QBのときも、ずっとそうやってきました。この先、QBに戻ろうなんて全然考えてません、DBになったからには、どんなレシーバーにも勝てるDBになる。DBとしててっぺんを目指すだけです」

天響との話を振ると、少し表情が緩んだ。「僕がDBになってチャンスがなくなったかなと思ったけど、二人一緒に最初からスタメンで試合に出るという目標は果たせた。そこはやりとげたなと思います。二人とも1回生なんで、高3のときみたいに全員の前で話すことはないけど、プレーでチームを引っ張っていけるようになりたいです」

中大戦後、トビーの表情は晴れなかった(撮影・篠原大輔)

大村監督は二人をこう評している。「小段はめっちゃいい。高校時代に(大産大附のコーチの)木下ノリ(典明)に走り方を教えてもらったんやろな。抜き方の技を持ってる。フィジカルを鍛えたら、もっともっといける。トビーはやられてもしゃあない。まだ3週間や。競ったときの体の使い方はまだ練習してないから。ちゃんと1年続けたら、めちゃめちゃうまいCBになれるで」

天響とトビーの大学フットボールが始まった。前人未到の6連覇への道のりに、彼らはどんな足跡を残すのか。

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