大産大附RB吉田優太 アルトサックスなしで立つ、高校生としての最高のステージ
アメリカンフットボールの高校日本一を決める「クリスマスボウル」は12月25日午後1時、神戸・王子スタジアムでキックオフを迎える。11年ぶり出場の大阪産業大学附属高校(関西、大阪2位)と、7年連続出場の佼成学園高校(関東、東京1位)が初めて顔を合わせる。ともに高い得点力を誇るが、今春に台頭した大産大附のエースRB吉田優太(3年)が初の晴れ舞台でどれだけ走るのかが、一つの焦点になる。
一発で倒されない強さと独走能力
大産大附は春の関西大会決勝で関西学院に34-0と完勝。10年ぶりの頂点に立った。選手は3学年で50人もいないが、身体能力の高い選手たちが攻守両面で躍動。このままクリスマスボウル優勝まで突っ走りそうな勢いを感じた。秋もけが人を出さないように試合は常にコールド勝ちを狙い、練習の強度も時には落とした。その結果、クリスマスボウルにも万全の状態で臨める。1999年からのクリスマスボウル4連覇を誇る大産大附は、前回出場の2011年に早大学院と優勝を分け合って以来、日本一から遠ざかっている。
エースRBの吉田は身長175cm、体重75kg。ディフェンスのCB(コーナーバック)を兼任し、この1年チームを引っ張ってきた。秋の関西地区準決勝の啓明学院戦は17回142yd、5TD(タッチダウン)。決勝の箕面自由学園戦では15回107yd、2TDと止まらない。「OL(オフェンスライン)もFB(フルバック)も頑張ってブロックしてくれるので、ほんとに僕は走らせてもらってるだけです」。確かにブロックはいい。決勝ではたびたびのブリッツに対してもしっかり穴を開けていた。そのうえで、吉田は決して一発のタックルでは倒されない強さと、独走能力を併せ持ったランナーだ。
中学時代は吹奏楽部
いまや高校アメフト界で注目の1人となった吉田だが、大阪市立東中学校時代は吹奏楽部でアルトサックスを吹いていた。大阪府のアンサンブルコンテストで金賞を取ったこともある。高校ではスポーツを、と考えていたときに仲間から誘われ、大産大附高アメフト部の体験会に行ってみた。その迫力に心をギュッとつかまれた。「ほんまに面白そう」と、受験して入部することに決めた。
入学してみると、3年生のエースRBに山嵜大央さん(現・立命館大学2年)がいて、「何の役にも立てませんでした」と吉田。1年生の終わりごろから試合に出られるようになり、2年になって「やっとチームに入れたかな」と感じたという。RBとしての上達を感じたのは今年の春からだ。「ファーストタックルでは倒れなくなったり、視野が広くなって余裕ができた」。それでも「走れるのはラインのおかげ。僕はとにかく前に進もうとしてるだけです」と繰り返す。RBの鑑(かがみ)だ。
吉田にとって最大のライバルが身近にいる。WRとSF(セーフティー)で高校トップクラスの実力を誇る主将の小段天響(3年)だ。「天響はほんまにアメフトが好きで、そこも負けんとこうと思ってます。一番のライバルで、いつもいい刺激をもらってます」と吉田。小段は吉田について「タックルされても倒れないとこがすごい。一番頼りにしてるチームメイトです。一緒に日本一になりたいですね」と話している。
関大でもエースになりたい
長らく大産大附を率いてきた山嵜隆夫監督は、あと1年で定年だ。「もうクリスマスは無理かなあ、思てた。プレッシャーもキツかったわ」と明かす。11年ぶりにたどり着いたクリスマスボウル。「あの舞台に立てるのは素直にうれしいわな」。山嵜監督が能力の高い選手に攻守両面でプレーさせるのは、本場アメリカのハイスクールでの学びが根っこにある。「向こうの高校は人数がようけおってもリャンメンさせんねん。大学へ行ってから全然違うから。いろんな体の使い方を身につけられるし、DBもWRもやってたら対戦相手の気持ちが分かるわな。だからウチも両方やらせるようにしてる。ただ、レギュラーが1人けがしたら、二つのポジションに穴が空く。そやから、けがさせんようにせんと」。吉田の話を振ると、「実はDBとしての才能が超一流。あれはおもろいで」と教えてくれた。
その吉田は来春、関西大学に進む。カイザーズではRBとしてプレーしたいそうで、「13番の溝口(駿斗)さんに負けないぐらいの選手(エース)になりたいです」と先を見据える。
その前にやるべきことがある。11年ぶりの日本一をファイティングエンジェルスにもたらせるか。「試合を楽しみたいし、絶対に日本一をとりたいです」。アルトサックスを部屋に置いて3年弱。まったく違う立場で、高校生にとって最高のステージに立つ。