関西大学LB前野貴一 兄の背中を追いかけて14年目、強いタックルで必ず日本一に
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は、10月30日から全勝同士の対決が始まる。まずはヨドコウ桜スタジアム(大阪)で関西大学カイザーズと立命館大学パンサーズがぶつかる。昨年は甲子園ボウルの西日本代表決定準決勝で対戦し、立命が18-17で勝った。学生界を代表するLB(ラインバッカー)に成長した関大の前野貴一(4年、関大一)は、強いタックルを追い求め、今シーズン最初の大一番を待つ。
最初は嫌々やっていたアメフト
前節の京都大学戦で、前野はチームトップの7.5タックル。ボールのあるところに前野あり、という感じだった。しかし、本人は満足していない。「QBの泉に対して強いタックルができてない。タックルしても足が止まってました。立命戦に向けてタックルの基礎からやり直してます」。立命戦で前野が警戒するのは、山嵜大央(2年、大産大附)をはじめとした立命RB陣とエースQB庭山大空(3年、立命館宇治)のランだ。「実際に当たったことはないんですけど、山嵜は高校のときから意識してきた選手の一人で、大空は中学のときからの知り合いです。どこを走られるか分からない状況の中でも、しっかりタックルしたい」
前野は大阪府池田市で生まれ育った。水泳にトランポリン、そしてアメリカンフットボール。すべて4学年上の兄、太一さん(25)と同じスポーツを経験してきた。兄は小5から池田ワイルドボアーズでアメフトを始め、追手門学院高校(大阪)から関西大学へ進み、LBとして活躍した。いまは富士通フロンティアーズで日本一を目指している。
弟は小3でワイルドボアーズに入った。これは「兄の背中を追って」というより、「兄がしていたからやらされた」というのが正しいそうだ。「僕は痛いのは嫌いで、最初は嫌々やってました。でも兄の背中やチームが日本一になったときの先輩の背中を見てて、痛いのを乗り越えた先にある目標達成の気持ちよさに気づきました」
関大一高時代は、2年生のときにクリスマスボウルへ出て、佼成学園(東京)に敗れた。高3のときはU-18高校日本代表に選ばれ、アメリカでインターナショナルボウルに出場した。高校では同学年のQB篠原呂偉人(現・大阪公立大3年)らと高め合い、一段とアメフトが好きになったという。
関大に進むと、下級生のころから試合に出てきた。鋭い横動きから、最短距離でボールキャリアーに迫る。「自分の強みはプレーリードの速さだと思ってます。そこまで体が大きくないと思ってるので、素早くリードして、OLに対して強いヒットというより、かわすのがプレースタイルです」
尊敬する兄と同じ41番を胸に
昨年から41番をつけている。兄の関大時代の背番号だ。弟は兄を心から尊敬している。兄は身長168cmと、弟より8cm小さい。加えて器用なタイプではない。弟が言う。「自分で言うのもおかしいですけど、僕はスポーツなら、少しやればだいたいできてしまうところがある。でも、兄はそういう感じの人じゃないんです。そうであったとしても、チーム内で人間として尊敬される存在になったり、スポーツでも評価されてきました。そういうところを尊敬しています」
兄は大学3年生の秋のシーズン、関西学院大学戦で大けがを負った。4年生の8月にようやく復帰できたが、それ以降はけががちになってしまった。超名門の富士通でもけがを繰り返し、4年目の今シーズンもLBのローテーションには入れず。10月22日のエレコム神戸ファイニーズ戦で、相手の外国人QBに今シーズン初のタックルとなるロスタックルを見舞った。前野家ではこのタックルの動画を共有し、「やっとやなあ~」「復活してよかった」と喜び合ったそうだ。「けががちな兄なので、あのタックルはうれしかったです」
その復活タックルの試合直後、兄に弟とのことについて聞いた。兄は終始笑顔で、こう言った。「最近、ほんまにいい動きしてますよね。これは弟には言ってないんですけど、弟の活躍を見るたびに、いい刺激をもらってきました。41番をつけ始めたのは聞いてなくて、うれしいのと同時に『情けない姿は見せられへんな』と思いました。弟の活躍はやっぱりうれしいですよ」
そして最初の大一番に臨むカイザーズへのエールを送ってもらった。「ビッグゲームだからって、直前にいきなりすごいプレーができるようになんかならない。この1年、立命に勝つためにやってきた取り組みを信じて、その100%を試合に持ってくるのが大事と思います。選手として、人間として、いま目の前のことに集中してほしい。それだけですね」
「関学、立命の下と言う認識はない」
弟は最近、「関西大学は関学と立命の下と言う認識はないです。日本一なります。」というツイートをした。「関学、立命に例年負けてますし、実力では劣ってると思ってます。でも意気込みとして、今年は絶対に日本一になるということでツイートさせてもらいました」
13年ぶりの甲子園ボウル出場へ、「負けたら終わり」の戦いが迫る。
関大の41番は今日も、ひたすらにタックルを磨く。