アメフト

特集:第77回甲子園ボウル

関西学院大学DL亀井大智 ラストイヤーに輝けなかった兄の分までビッグプレーを

亀井(中央)はDLのパートリーダーを務める(すべて撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部がいよいよ佳境を迎える。7年連続の甲子園ボウル出場を狙う関西学院大学ファイターズは、10月30日に近畿大学と戦い、11月13日には関西大学、27日には立命館大学と相まみえる。辛口の大村和輝監督が、開幕当初からまっすぐに高評価するポジションがある。DL(ディフェンスライン)だ。「DLはここ数年で一番いい」と。とくに「エッジの亀井と浅浦がいい仕事してます」と。DLのパートリーダーの亀井大智(4年、報徳学園)がラストイヤーにかける思いは強い。

「日本一になりたい」と大学からアメフト

身長180cm、体重99kg。OL(オフェンスライン)が5人並ぶ両端からQB(クオーターバック)に向かっていくエッジラッシャーとして、亀井は何を武器にしているのか。スピード派なのかパワー派なのかを尋ねると、「うーん、中途半端ですねえ」と苦笑いで言った。今シーズン、亀井とともにエッジでスターターの浅浦理友(3年、関西学院)はスピード派。負傷から戻ってきたトゥロターショーン礼(3年、関西学院)はスピードもパワーも並外れている。亀井は派手さはないが、堅実なエッジラッシャーとしてチームの信頼を得ている。

関学と同じ兵庫県西宮市にある報徳学園高校では、バスケットボール部だった。父の浩平さんがかつてファイターズのOLだったこともあり、同じ報徳のバスケ部で2学年上だった兄の優大さんが、先にファイターズに入っていた。亀井自身も高2の終わりぐらいに進路について考えた。「日本一になりたい」との思いから、父、兄と同じ道を選んだ。兄は「やるんやったら、やったらええやん」とだけ言った。

日本一になるために関学でアメフトを始めた

入学すると、アメフト特有の動きが難しかった。DLになったが、人と当たるのが怖かった。当時3年生だった兄はTE(タイトエンド)として活躍。甲子園ボウルの西日本代表を決める立命戦では、同期のQB奥野耕世さんからのTD(タッチダウン)パスを受けた。

2年生になり、大村監督からいろんなアドバイスをもらうようになった。当たりにも慣れていった。そのときからずっと言われ続けているのが、「頭を使え」だという。

駆け引きをしながら、相手OLと試合を通じてぶつかり合う

「チームのこと、DLのことを毎日考えて……」

最終学年を迎え、OLに転向した兄を試練が襲う。練習中に脳振盪(のうしんとう)になり、結局、最後のライスボウルまで戦列には戻れなかった。兄から苦悩の言葉を聞いたことはない。ただ、一緒に暮らす家で寝込み、授業にも出られない時期もあったのは知っている。「かなりつらかったと思います」と弟は振り返る。

そして昨春、DLのスターターになれた弟にも、試練のときが待っていた。昨年の夏合宿中に大けが。復帰まで1年を要した。「チームが復帰までの計画を立ててくれたので、それに従って体を動かしていきました。気持ちがめげたのは最初だけでした」。いまは気丈にそう言う。

去年の甲子園ボウルが終わって新チームになり、亀井はまだ練習はできない状態だったが、DLのパートリーダーになった。「4年生になってからはチームのこと、DLのことを毎日考えてやってきました」。ようやく8月に復帰。「最初はヒットの感覚を忘れてて、当たると弱くなっててビックリしました」と笑うが、練習できない間に鍛え上げた体で当たりの勘を取り戻し、最後の秋に間に合わせた。

あと一歩。パスを投げるQBにタックルする「QBサック」が最大の勲章だ

突出した能力がない分、誰よりも準備

父は2人の息子がアメフトを始めてくれたこと、しかも同じファイターズに入ってくれたことを大いに喜び、一方で一番心配している。それが亀井にも伝わってくる。「試合の前は僕よりそわそわしてます」。ラストイヤーにプレーできなかった兄、3年生の秋、4年生の春を棒に振った弟。お父さんの心中を察すると、こっちまで心苦しくなる。「お兄さんの分まで、という気持ちはありますか?」と尋ねると、亀井は「それはあります」とだけ言った。

亀井には突出した能力があるわけではない。だから大村監督の言うように頭を使い、誰よりも準備して戦いに臨む。そしてエッジラッシャーならではのビッグプレーを狙うのだ。

「たとえ試合に出られなくても、勝つために一番貢献する4年生でいたい」と言いきる

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