関学タイトエンド亀井優大 苦悩の日々と涙の先に甲子園「俺らが勝たせる」
アメフト全日本大学選手権決勝・甲子園ボウル
12月15日@阪神甲子園球場
関西学院大(西日本代表、関西2位)vs 早稲田大(東日本代表、関東)
アメフトの学生日本一を決める甲子園ボウルが12月15日にキックオフを迎える。2年連続で関西学院大と早稲田大の顔合わせ。関学はリーグ最終戦で立命館大に負けてリーグ優勝を逃し、西日本代表を決めるトーナメントで西南学院大(九州)、神戸大(関西3位)と下して立命との再戦に臨んだ。ここで関学が挑戦者として攻めの姿勢を貫く試合を展開。21-10でリベンジして4年連続の甲子園ボウル出場を決めた。この試合で苦労人のTE(タイトエンド)亀井優大(3年、報徳学園)が輝いた。
オンサイドキック成功からのシリーズでTD
2度目の立命戦は14-3と関学リードで試合を折り返した。後半開始の関学のキックオフ。今シーズン限りでの引退を表明している鳥内秀晃監督が「14-0やったら普通に蹴ってたけど、14-3になったんがうっとうしかった」と、攻撃権奪取を狙うオンサイドキックに出ることを思いつく。オフェンスを仕切る大村和輝アシスタントヘッドコーチと相談し、仕掛けることに決まった。バレないように、キッカーの安藤亘祐(4年、関西学院)には学生から「オンサイドでいくぞ」と伝えさせた。安藤が右へチョンと転がすと、立命は完全にノーマーク。右のサイドライン際にいた関学のDB北川太陽(2年、佼成学園)が丁寧にキャッチした。
奇襲によって得た自陣49ydからのオフェンスは「絶対にタッチダウン(TD)までいく」という思いに満ちたものだった。スローバックのパスや今シーズン初めて見せるランプレーも交えてゴール前2ydまで進んだ。ここで関学は「伝家の宝刀」を抜いた。
RB前田公昭(2年、関西学院)が中央のやや左へ突っ込んでくる。QB奥野耕世(3年、同)は前田にボールを渡すと見せて抜き、クルッと反時計回りに反転。奥野は右へロールアウトしていく。「カウンターロール」と呼ばれ、伝統的に関学の十八番(おはこ)だが、今シーズンはほとんど見せていなかった。
奥野の視線の先では、関学のしたたかさが全開になった。右にはパスターゲットになれる選手としてWR阿部拓朗(4年、池田)とOLの右端にセットしたTE亀井がいた。亀井の7ydほど右側にいた阿部は、前に2歩出たあと、直角に左へ。目の前のDBがついてくる。逆に亀井は右へ。クロスだ。亀井をマンツーマンで守るDBが阿部と衝突して仰向けに倒れる。狙い通りに亀井がフリーになったのを見て、奥野が右腕を振り抜いた。亀井は胸にきたボールを確実に捕ってTD。ゴール前で相手がマンツーマンで守りにくるのを想定して使う「ピック」と呼ばれる戦術がはまり、21-3となった。これで大勢は決した。
高校時代はバスケ、父と同じファイターズへ
亀井はエンドゾーンでガッツポーズを決め、仲間からの祝福を受けた。「僕がパスを捕るプレーは少なくて、あれで今シーズン5本目です。タッチダウンはめちゃくちゃ気持ちいいですね」と、はじけるような笑顔を見せた。TEは主にOLの5人が並ぶ端にセットし、OL並みにパワフルなブロックが求められ、パスも捕る。幅広くさまざまな能力が求められるポジションだ。亀井は現状、ブロッカーとして起用されることが多い。その男をここ一番でパスターゲットにするあたりにも、関学の試合巧者ぶりが光る。
亀井は報徳学園高校(兵庫)でバスケットボールの選手だった。パワーフォワードで、高3のときはインターハイと国体に出た。父の浩平さんはかつて関学ファイターズでOL。父とともに関学と立命の試合を観戦した。「バスケと似てるところもあるし、やってみたい」と思い、アメフト転向を決めた。関学へはスポーツ推薦で入った。身長183cmと大きかったこともあり、入学前からTEをやろうと決めていた。チームの方針として、まずWRとしてキャッチの技術を磨き、1回生の夏に念願のTEになった。
OLになってすぐ先発出場、やられて泣いた
3回生になったこの春にTEのスターターを勝ち取った。98番をつけて春のシーズンの全5試合に出場し、4回のパスキャッチで27yd。TEとしての手応えをつかみかけていたが、秋の初戦の1週間前にチーム事情からOLへコンバート。67番をつけ、いきなり初戦の同志社大戦に左タックルのスターターとして出た。そこから龍谷大戦、京大戦、神戸大戦と続けて出た。「TEとは当たり方が違って難しかったです。練習量がモノを言うポジションだと思いました」。67番が相手のパスラッシュを食い止められないシーンを何度も見た。とくにOLとしての出場が最後となった神戸大戦。17-15と接戦になったのはOLが踏ん張りきれず、オフェンスがドライブできなかったからだ。「完全に自分のせいで負けそうになりました。コテンパンにされて、めちゃくちゃつらかったです」。試合後、亀井は頭が真っ白になり、涙を流した。
TEとしても、まだまだ未熟な部分は多い。西日本代表決定戦でも右にセットすべきところを左についてしまった。「準備しきれてませんでした」と反省した。
関学は大村アシスタントヘッドコーチを始め、数々の名TEを生んできた。いいTEがいると、オフェンスの幅が一気に広がる。発展途上の亀井だが、関学のTEを担う魅力は常に感じている。「キャッチはできるし、ランブロックもできるし、オフェンスのほとんどすべてのプレーに絡んでいけます。関学のTEはラインナップの中でも主導権を持ってるし、試合を左右するポジションなので面白いです」
おととしも昨年も、甲子園ボウルのときは防具もつけていなかった。選手として初めて、あの聖地に立つ。「TEでチームを勝たせたいです」。亀井は言いきった。OLに放り込まれた苦悩の日々が、あの夜の涙が、すべて亀井の糧になっている。まだ半人前のTEかもしれない。それなら覚悟を決め、半人前のありったけを早稲田にぶつけるだけだ。