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京都大学OL妹尾哲「意地見せる」 スーパーな後輩・泉岳斗と臨む最後のリーグ戦

高校で1年、大学で2年。妹尾(62番)と泉(中央奥)のコンビが最後を迎える(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月26、27日に最終節の3試合がある。2勝4敗の京都大学ギャングスターズは27日、1勝5敗の甲南大学レッドギャングと対戦する。勝つか引き分ければ6位以上が決まり、2年連続の入れ替え戦出場を回避できる。京大のOL(オフェンスライン)の真ん中で奮闘するC(センター)の妹尾哲(せのお・てつ、4年、都立西)は「京大の意地を見せたいです」。もともと強い目力がさらに強まった気がした。

中学時代は卓球部

前節の神戸大学戦。31-24とリードした試合残り4秒でボールが回ってきた。あとはボールを保持し、時間を使うだけだ。QBの泉岳斗(3年、都立西)が「スナップどうする?」と妹尾に尋ねる。「(ショット)ガンでいこう」と応じた。股間を通してQBに手渡しする「エクスチェンジ」より、股間から投げ渡す「ショットガン」の方が、よりミスが少ないと考えた。しっかり泉にボールを送り、泉がスッと左ひざを地面に着いて試合終了。妹尾はすぐ泉のところへ歩み寄り、握手した。

これまでの1勝はリーグ2戦目以降を棄権した同志社大学に対する不戦勝だったから、これが実質的なシーズン初勝利。「勝つのは難しい。やっと勝てた」。副将でオフェンスリーダーでもある妹尾が、少しだけ表情を崩した。

妹尾が右手でつかんだボールから、京大オフェンスのすべてが始まる

身長174cm、体重113kgの堂々たるOL体形。いま言ってもほとんど信じてもらえないが、中学時代は卓球部だった。当時の体重は70kg。杉並区宮前4丁目にある都立西高校に進学し、アメフトを始めた。チームの主将になった3年生の春、とんでもないポテンシャルを秘めた新入生が入って来た。それがアメリカ帰りの泉岳斗だった。

京都大学の泉岳斗 本場仕込みのオールラウンダー「早く日本で一番のQBに」

「熱量がすごい」と1浪して京大農学部へ

妹尾は高3秋の都大会準々決勝、日大鶴ケ丘戦が忘れられない。第3クオーター(Q)までは14-0とリードしていた。第4Qに入ってディフェンスが崩され、21-21で試合終了。準決勝進出校を決めるため、タイブレーク方式の延長戦に入った。先行の日大鶴ケ丘がTDとキック成功で7点。後攻の都立西は1年生QB泉のTDパスで6点を返し、一気に勝ちを狙って2点コンバージョンへ。ここでも泉のパスにかけたが、決まらずに敗退。関東大会進出はならず、妹尾の高校アメフトは終わった。

ずっと京大アメフト部の勧誘を受けていた妹尾は練習に参加して、その気迫や盛り上がり方に驚かされたという。「練習は高校とは違う規模感があって、試合では応援してくれる人の熱量がすごいと感じました」。京大を目指すことにした。1浪して、特色入試で農学部の食料・環境経済学科に合格した。高3のときに103kgあった体重が、浪人生活で80kgにまで減っていた。またフットボール選手に戻るために、食べまくった。1食で3合のごはんは当たり前の世界だった。妹尾は特別に入学早々から上級生と同じ練習に入れた。「歴史のあるチームで、背負ってるものの重さが高校とは違いました。フットボールにかける時間も気持ちもまったく違った」。体重は2年生になるころに96kgまで戻り、いま113kgある。

同じ4年生OLの遠藤優太(79番)とともにブロックへ向かう

いつしか泉から「テツ」と呼ばれるように

もちろん京大は早くから泉の存在に目を付け、勧誘の手を伸ばしていた。妹尾も熱烈に誘っていた。一時は東大進学も考えた泉だったが、最終的には京大の西高に似た自由な校風や、ギャングスターズに妹尾ら西高のOBが何人もいて、「また一緒にやってみたい」という思いから京大受験を決めた。泉が現役で合格したときの思いを妹尾に尋ねると、「ほんとにうれしかったです」と満面の笑みになった。

昨シーズン、2年生になった泉はエースQBに、3年生になった妹尾はセンターで先発出場するようになった。コミュニケーションを取ることが格段に増え、泉は高校時代の2学年上の主将だった妹尾を「テツ」と名前で呼ぶようになった。「アイツはそういうヤツなんで、とくに気にしてないです」と妹尾は笑う。誰よりも泉のスーパープレーの数々を近くで見てきた妹尾は、その才能に一目置いている。「あれだけ体重があるのに足が速くて、肩が強くて、当たりも強い。あそこまでスーパーな選手はなかなかいない」

「自分は強くない。4年のときにスターターになれたら」と思って入学した

ゴール前のランでTDしたあとに、まれに泉が「ホール開いてたよ」とブロックをほめてくれることがある。主将のRB中野晴陽(4年、徳山)とは一緒に苦しい時期も乗り越えてきただけに、中央のランで中野を走らせられたときはうれしいそうだ。センターとしての喜びについて尋ねると、妹尾は「OLなのにボールにさわれる」と言って笑ったあと、「緊張もするんですけど、自分の出したボールが仲間の活躍でエンドゾーンに届くのは、ほんとに気持ちいいです」と話した。これが京都大学ギャングスターズ妹尾哲のOL魂である。

QBの泉は試合のたびに飛びはねてタックルをかわし、時にはタックラーにまっすぐぶち当たってきた。試合の翌朝は尋常でなく体中が痛いそうだ。「でも、それだけ戦えたってことなんで、あんまり嫌じゃないですね」と泉。妹尾について聞くと、「仲いいんです」と笑った。そして、「最後は勝って気持ちよく送り出したいですね」と言った。

オフェンスのハドルから相手ディフェンスに視線を送る

いざリーグ最終戦。妹尾は「たくさんTDをとって、ディフェンスはシャットアウト。京大の意地を見せつけたいです」と語る。泉にスナップを出すのも最後なら、左右2人ずつのOLとともに最前列に立つのも最後だ。泉が入って来たのに、思うような結果は出せなかった。それも含めてギャングでの4years.だ。京都での4年間を胸に、テツは戦う。

OL魂

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