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連載:OL魂

近畿大・湯川翔太 ブラゼルが好きだった五條の野球少年、3強撃破へ「強い気持ちで」

湯川はOLのスターター5人で唯一の4年生だ(すべて撮影・篠原大輔)

球技なのに基本的にはボールには触れない。仲間を走らせ、仲間にパスを投げてもらうために、ひたすらに体を張る。注目されることはほとんどない。そんなOL(オフェンスライン)にスポットライトを当てる連載「OL魂」。近畿大学キンダイビッグブルーの副将で、左タックル(T)の湯川翔太(4年、五條)を紹介します。

初戦負けからの1カ月を思い、涙

湯川は10月15日の甲南大学戦に26-0で勝ったあと、晴れ晴れとした表情をしていた。「3強に勝つためにやってきました。強い気持ちで挑戦したいと思います」。ここまで3勝1敗の近大は関西学院大学(10月30日)、立命館大学(11月13日)、関西大学(11月26日)戦と、3強との戦いを残すのみ。今シーズン開幕前に掲げた目標が「3強入り」だ。リーグ初戦で神戸大学に敗れはしたが、ここから3強を崩すための濃い日々を過ごす。

10月1日に京都大学を31-29で下した試合後、湯川は泣いていた。「やっと1勝できた。あれはうれしすぎました」。初戦で昨年勝った神戸大学に負け、2戦目は相手の同志社大学が棄権(近大の不戦勝)。京大戦まで1カ月が空いたことで、黒星スタートで落ち込んだチームを立て直し、京大に勝てた。副将としてその1カ月を思い起こしての涙だった。

京大戦の試合後、湯川(手前右)は涙をこらえきれなかった

身長185cm、体重119kgの堂々たる体。湯川は紀伊半島中央部にある奈良県五條市で、豊かな自然に囲まれて生まれ育った。小学3年から高校3年まで、ずっと野球に取り組んできた。阪神タイガースのファンで、小学生のころはクレイグ・ブラゼル選手が好きだったというから渋い。

家の近くには野球の名門である智弁学園高校もあったが、「レベルが高すぎる」と県立の五條高校に進んだ。ファーストだったが、守備が苦手。3年の春に18番をもらった以外はベンチに入れず、最後の夏に準々決勝で天理高校に負けたときも、湯川は戦いの舞台に立てなかった。そのころ185cm、105kgあった。

こうやって相手をアオテンしたとき、OLの楽しさを感じるという

「大学ではアメフトやったらどうや?」

あるとき野球部の監督が「大学ではアメフトやったらどうや?」と言った。もともと大学で野球を続けるつもりはなく、新しいスポーツに挑戦してみたいと思っていたので、真剣に考え始めた。YouTubeでNFLや関西学生リーグの映像を見てみると、人と人とが合法的にぶつかり合う姿に魅力を感じた。監督に「やりたいです」と返事をした。近大アメフト部に連絡をとってくれて、トライアウトを受けられるようになった。これに合格し、スポーツ推薦での近大進学が決まった。入部してから、かなり前にも五條高校で野球をやっていた人が近大アメフト部に入ったことがあったと聞いた。

最初からOLに「配属」された。「当たってみたら全然ダメでした。でも野球より自分に向いてるし、性に合ってると思いました。やってて楽しかった」。たまにうまくいくと、周りの人たちはほめてくれた。それも、うれしかった。

反則だが、相手がヘルメットの前のフェイスガードをつかんでしまうことも

2年生の秋からセンター(C)で試合に出るようになった。昨年の秋はTとして3強のうち立命と関大に立ち向かった。「緊張してあんまり覚えてないですけど、ヒット一つでも違う。とくに関大とはフィジカルの差、技術の差をすごく感じました」。その差を頭に置いて、トレーニングと練習を積み重ねてきた。

昨年の近大には強烈なリーダーシップでチームを引っ張った主将がいた。いまオービックシーガルズでプレーしているOLの天野敢太さん(22)だ。湯川は言う。「天野さんを近くで見てきたので、自分もああいう姿を見せていきたいと思いました。ブロックもパスプロもうまかった。すごく尊敬してます」。それで新チームになるとき副将に立候補した。

味方のキックが左のポールに当たって決まり、喜ぶ湯川

自分らしく生きる道を見つけた

湯川はハドルがとけると、左手首につけたリストコーチでプレーを入念に確認する。派手なハドルブレイクはしない。「ああやって確認してるのがカッコいい。アメフトっぽいと思うんですよね」

このプレー確認が「アメフトっぽくてカッコいい」と思っている

ランブロックが好きで、とくにコンビのブロックが一番得意だという。「抜けていってLBをしっかりブロックできたときは、気持ちいいです」。いま現在、アメフトに関して一番うれしかったのは今年の京大戦だ。3強に勝ったら? 「京大のとき以上に泣くっすね」と言って、湯川が笑った。

野球では輝けなかったが、フットボールで自分らしく生きる道を見つけた。いざ3強戦。近大の61番が輝ける喜びを胸に、強い強い相手にぶつかっていく。

3強に3年半のOL人生すべてをぶつける

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