近畿大RB・島田隼輔と清水悠太 一つ階段を上った、中学時代からの仲良しコンビ
10月1日の関西学生アメリカンフットボールの1部リーグは、近畿大学と京都大学の一戦があった。近大がランニングゲームで優位に立ち、京大はターンオーバーと反則が連鎖する悪循環から抜け出せない。近大は若いランナーが思い切りの良い走りを見せて、31-29で競り勝った。
京大戦で接戦を制したキーマンの2人
近大は、清水大和主将(4年、龍谷大平安)の好リターンから、ダウンを更新。清水悠太(2年、近大附)が押し込んで先制した。直後、京大の攻撃は、ファンブルしたボールを近大が押さえてターンオーバーとなり、島田隼輔(2年、近大附)のフィールドゴール(FG)につないだ。京大がタッチダウン(TD)を返し、さらに加点を狙うが、エンドゾーンで泉岳斗(3年、都立西)のパスを近大が奪う。流れは完全に近大だ。島田がインサイドの好ランを連発し、第4ダウンギャンブルから独走してTDを決める。
京大が追う後半。近大が自陣でインターセプトを決め、ロングドライブでTDを追加する。第4クオーター(Q)残り4分、京大がTDパスと2ポイントコンバージョンを決め、24-22と2点差に迫ったが、直後の攻撃で近大の清水が独走TD。1プレーで9点差に戻す。試合時間残り1分30秒で、京大が再びTDを返すが、近大が時間を流して試合終了となった。近大は点差を詰められながらも、一度もリードを許さなかった。
近大勝利のキーマンとなったRBが2人いる。島田と清水悠太の2年生コンビだ。どちらも昨年はけががちで、出場機会はほぼなかったが、この試合での活躍が光った。島田はRBとKを兼任し、TD1本の6点にトライフォーポイント(TFP)4点、FG3点の計13点、清水はTD2本の12点と、得点31点のうち25点を2人で稼いだ。どちらも大学入学後、初めてのTDだった。
「だますなら味方から」
試合後、島田に話を聞かせてほしいと声をかけた。「どういう感じですか? ヘルメットはどうしたらいいでしょうか」。取材慣れしている選手はすぐに分かるものだが、試合前まで若手の無名選手だった島田はピンときていなかった。こういう選手の話を聞き出したいと思った。彼の表情からも、しっかり話が聞けそうだと直感的に感じた。島田に話を聞いていると、清水が別の取材で横を通っていった。終わる頃に声をかけて合流してもらった。普段は仲が良いはずの2人が絶対にしていないであろう、君付けで呼び合うのが面白い。
この日、RBの主力ローテーションに入っていたのは、主将の清水大和、樋口瑞歩(3年、大産大附)、島田の3人。当初清水(悠太)の出番はゴール前の特殊なプレーに限られていたが、第3Q途中に島田の足がつったため、RBの竹澤直人コーチから「お前でいく」と言われた。「去年は、少し出してもらっても全然走れず悔しかったので、出るなら中途半端なことはせずやりきろうと思いました」。腹をくくり、2TDの活躍。しっかりと結果を出した。
印象深いプレーを二つ振り返りたい。まず、第2Qに島田が走ったTDランは第4ダウン2ydのギャンブル。前半ながら難しいシチュエーションだ。島田はハドルで仲間にこう言った。「突っ込みます!」。ボールを受けた島田は、中に突っ込むと見せかけて外側にバウンス。オープンを駆け上がった。33ydのTDラン。「だますなら味方からってやつですね」と島田がほくそ笑みながら振り返る。独走の後に、TFPも自分で蹴った。「あれが一番気持ち良かったです、何よりも一番の気持ちよさです」と満足げに2回言った。
次に、第4Qに清水が走った2本目のTD。京大のTDを、1プレーでチャラにしたプレーだ。自陣5ydでスナップされたボールを清水が受けたのは、0yd地点。ランを警戒して上がる京大守備に対してOLのブロックがきれいに決まり、右に流れた清水は一線を抜けると独走状態に。「SFが右に離れていたので、これは行けると。点差も縮まってて残り時間も少なくて厳しい試合だったので、絶対走り切らなあかんと思いました。ボールは絶対確保しなきゃと、抜けてから持ち直しました」。スピードには自信がないという清水だが、捕まらずにちょうど100ydを駆け抜けた。「すぐに仲間が集まってきてくれてうれしかったです。チームとしてやってきたなと思いました」と、興奮を抑えながら、感慨深げに話す。
中学時代はサッカー部とバレー部
2人は高校からのチームメートだ。Iフォーメーションで島田が前のフルバック、清水が後ろのテールバックを務めてきた。
先に近大附属中でサッカー部だった島田が、1学年先輩で高校アメフト部に入った大西聡太郎(現・関西大学)に誘われて、アメフトを始めた。「小さいときからヤンチャで暴れてたので、ガツガツ当たるアメフトは自分にとって最高。ルールの中で正当にやりあえる。1対1の勝負で勝ったときが気持ちよくて、すっかりはまっちゃいました」。同級生で仲が良く、よく一緒に帰宅していたバレー部の清水をアメフト部に誘った。当時から5年目が経ち、島田は清水の走る道を開け、清水は島田の後ろを走ってきた。
島田について清水は、「普段は『コイツなにしてんねやろ?』ってとこもあるんですが、アメフトはやり切る。絶対に走る穴を開けてくれる。信頼してます」と誇らしそうに話す。対して島田は、「清水はアサインメント理解がすごい。守備をしっかり見られるのと、横の動きが速いので、安心して後ろを任せられます」と言う。
今年から、QBだった主将の清水大和がRBにコンバートされた。主将からは最後までやり切ること、縦上がりの意識について常々言われてきた。2人は清水自身の取り組みにも刺激を受け、このシーズン中で成長できたと話す。そして、そのことが結果につながったと口をそろえる。話を聞く2人の表情は決して浮つかず、目線がしっかりしていた。リーグ後半戦に向け、京大戦で一つ階段を上った近大の若いRBの躍動に注目したい。