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特集:第77回甲子園ボウル

桜美林大と早稲田大で双子が分かれ対戦 兄の近田力はエースQB、妹の南歩は映像制作

一見双子とは分からないが、ヤンチャな兄と控えめな妹だったそう(すべて撮影・北川直樹)

9月24日にあったアメリカンフットボールの関東学生TOP8、早稲田大学と桜美林大学の試合。それぞれのチームに双子が分かれて戦った。男兄弟ではなく、兄妹。桜美林側は兄でQBの近田力(こんた・りき、2年、佼成学園)が、早稲田側は妹でマーケティングチームに所属する近田南歩(なほ、2年、駒場学園)が居た。2人は、どのようにアメフトとともに歩んできたのか。

六つ上の長男の影響でフラッグフットボールへ

横浜市青葉区で生まれ育った近田兄妹。幼少時代の仲について南歩に聞くと、「仲はよかったです! 力がやりたい放題で、私はどちらかというと我慢してるタイプでしたね」と笑う。2人は物心がつく頃から、アメフトに触れていた。幼稚園年長の頃、地元あざみ野のクラブで、フラッグフットボールを始めた。きっかけは2人の六つ年上で、現在は富士通フロンティアーズでプレーする長男、優貴さんの存在だ。

優貴さんは小学4年生の頃、学校で配られたフラッグフットボール体験会の手紙をもらって、帰ってきた。そこには「参加したらボールをプレゼント」と書かれていた。長男はそこでフットボールをはじめ、中学からは富士通のフラッグフットボールチームに入った。高校は京都へ渡り、関西の強豪・立命館宇治を経て、立命館大学に進学した。

近田家の長男・優貴さんは現在、富士通のDBとして活躍している
熱き男よ、やり返せ 立命DB近田

力と南歩は先をゆく兄を追って、幼稚園年長からフラッグフットボールを始めた。小学生のうちはあざみ野クラブに通い、中学からは富士通のクラブへ。2人は中学のバスケ部と並行し、力はジュニア・フロンティアーズ、南歩は女子チームのマロンティアーズでプレーを続けた。

クリスマスボウルは最後に劇的勝利

力は、クリスマスボウル常連の佼成学園へ進学。南歩は「もうプレーヤーはやりきった。性格的に裏方で支えるほうが好きだから、アメフト部のマネージャーがしたい」と考えた。東京の強豪校は男子校が多いため、共学で強豪校の位置づけだった駒場学園に進んだ。

2人が高校2年の頃、新型コロナウイルスが流行し始めた影響で、高3秋の関東大会準決勝まで、直接対戦する機会はなかった。同じ家で暮らしながら、対戦することをどう思うのか。南歩によると「私はちょっと気にしちゃう部分もありましたが、力は全然気にするタイプじゃないので。いたって普通でした。周囲の人には色々言われましたが」。試合は35-28で、佼成学園が勝った。

力が出場した全国決勝のクリスマスボウルは、家族で見に行った。力がラストプレーで投げ込んだヘイルメリーパスが、TEの北川大智(現・早稲田大学2年)の手に収まり、劇的な勝利を収めた。「あのときは感動しましたね」と南歩は振り返る。

2020年のクリスマスボウル、力はラストプレーで思い切り投げ込んだ
ラストプレーで劇的TD 佼成学園が関西学院を下し、クリスマスボウル2年ぶり4度目V

力は「小林(孝至)監督のすすめもあって決めました」と、TOP8昇格後、上位に食い込み始めていた桜美林大へ進学。一方の南歩は「アメフトは高校でやりきったから」と、小さい頃から好きだった映像や情報を専攻するための大学へ進んだ。

2年に上がる頃、父の稔さんがプライベートで仲の良い早稲田大の高岡勝監督と話しているときに、南歩の近況や専攻について話をした。このとき、高岡監督から「マーケティングチームが足りていないから手伝ってほしい」と言われ、2年から早稲田大ビッグベアーズのマーケティングスタッフとして加わることになった。

ハイライト映像やビジュアル制作で貢献

南歩が担当しているのは、チームのマーケティングで使う映像素材の撮影や編集だ。試合のハイライト映像の制作、試合までのカウントダウンに使うビジュアルの作成、受験生応援企画や新歓用の素材など多岐にわたる。ビッグベアーズでは、早稲田大在籍の学生だけではなく、卒業生や他大学の学生もチームに所属して取り組んでいるという。

「小さいころから写真が好きで、私にとってはドンピシャの仕事。サイドラインにいるといろんな方が来ているし、SNSを見ててもすごいと思うことが多いです。自分もそういうことをやって、質を上げていきたい」。これまでとはまた違った形でアメフトに携わることにやりがいを感じている。

「小さい頃から写真や映像が好きだったんです」。大学では映像の勉強をしている

力の活躍に、チームの浮沈がかかる

この日は、駒場学園時代の同期が桜美林側に2人いて、コンディション不良だった力も途中から試合に出場した。南歩は、同期と対戦すること、活躍を見ることが純粋にうれしいと話す。

アメフトの面白さについて聞くと、少し考えてこう返ってきた。「アメフトが身近にありすぎて、改めて考えると難しいですね……。これまで、高校含め仲間たちが頑張ってきた姿を見てきたから、全力で応援したい。けがも他のスポーツよりも多いので、自分ができることでサポートできれば」。アメフト歴15年の言葉には、独特の重みがある。

桜美林大で活躍する駒場学園の同期、大見昌也(左)と春日一樹(右)と

力は次節から、本格的にゲームに戻る予定だ。昨年ダブルエースで試合に出ていた水越直が米国へ留学。自分のQBとしての活躍に、チームの浮沈がかかっている。「直さんが留学して、オフェンスはQBの自分次第と強く思うようになりました。昨シーズンは自分が不調なら直さんがいるという安心感がありましたが、今年からは背負うものが多くなったような感覚です。このチームは圧倒的な強みがないので、QBのコンディション次第でゲームが傾くと思っています」

得意のパスを徹底して磨くつもりでいる。オフェンスコーディネーターの望月俊コーチ(早稲田大から富士通)からこう言われた。「コービー(キャメロン、富士通に14〜18年在籍)は、skelly(パスプレーに特化した練習)ではカバーリードが正確で、ほぼ全てのパスを通していた」と。カバレッジリードに長(た)けたポケットパサーとして、桜美林のオフェンスをQBから引っ張っていくと覚悟を決めている。

アメフトで育ち、アメフトに生きる近田兄妹。力と南歩は、それぞれの道で最善を尽くす。

急きょフィールドへ。パスを2回投げて1回成功し、9yd獲得
桜美林大学QB水越直、退学し本場アメリカへ 「自分を一番成長させるチャレンジ」

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