熱き男よ、やり返せ 立命DB近田
勇ましい顔つきは、いつもと変わらない。ただ、目に力がなかった。そう感じた。関学に完敗した直後、立命の副将でDB(ディフェンスバック)の近田優貴(こんた、4年、立命館宇治)はまっすぐ前を見ていた。
速さがあだに
この日、関学というチームの怖さを、フットボールの怖さを誰より実感したのが彼だろう。
立命館宇治高でRBやWRで活躍した近田は大学に入ってDBに転向した。身長169cmの小さな体を徹底的に鍛え、大学ラストイヤーの今年から立命ディフェンスの最後尾を任されるようになった。プレーを読む力と反応のスピードに優れ、秋のリーグ戦序盤は相手のランに対してすばやく反応し、激しいタックルを繰り返してきた。
そして迎えたリーグ最終戦。近田の速さは、あだとなった。
まずは第1クオーター(Q)9分すぎ、関学RB山口祐介(4年、横浜栄)の52yd独走タッチダウン(TD)だ。ディフェンスから見て右サイドにいた近田は、プレー直前に関学のWRが右から左へ横切るモーションに反応しすぎた。左へ5歩もステップ。関学のQBがRB山口にボールを手渡す。中央付近を抜けた山口は、もともと近田がいた位置を突っ切る。慌てて戻る近田。必死で飛び込み、山口の腰に右手をぶつけたが、まったく勢いを止められない。一気にエンドゾーンまで駆け込まれてしまった。もし近田がもとの場所にとどまっていれば少なくとも山口をスローダウンさせ、一発TDにはならなかったはずだ。山口は「第一線を抜けた瞬間、『もらった』と思いました」と話している。
第2Q5分すぎ、関学QB奥野耕世(2年、関西学院)からWR阿部拓朗(3年、池田)への19ydのTDパス。阿部はエンドゾーン内で完全なフリーとなり、楽勝でボールを捕った。最後尾を守るはずの近田がランプレーのフェイクに引っかかったのが原因だった。
さらに第4Q2分すぎ、奥野からWR小田快人(4年、近江)への44ydのTDパスもそう。小田はディフェンスから見て左のサイドライン際を縦に走っただけ。近田の守るべきゾーンでパスが決まった。近田は奥を守るべきだったが、奥野が浅いゾーンへ走った選手に投げるふりをしたのに反応してしまった。奥野は投げる気のないWRに向け、クッと左肩を向けた。いわゆる「どフリー」になった小田は、やすやすとTDまでいけた。
立命ナンバーワンのパッション
立命が初めて関西を制した1994年以降、関学はスピードとパワーにあふれる立命ディフェンスをどう攻略するかを突き詰めてきた。一つの答えが、彼らの「速すぎる」動きを利用すること。近田は典型的な立命ディフェンスの選手。今回も関学の策がはまった。
立命は11月25日に甲子園ボウルの西日本代表決定4回戦で名城大(東海)と戦う。勝てば甲子園出場をかけて関学との再戦だ。近田は名城大戦の準備をしつつ、「リベンジKG」へ心を燃やしていることだろう。
今年の立命は全員が熱い思いをぶつけ合うチームにしようと、「PASSION(熱情)」をスローガンにした。リーグ最終戦前の記者会見で、私は立命主将のOL(オフェンスライン)安東純一(4年、立命館宇治)に尋ねた。「いちばんパッションが出てると感じるのは誰ですか」と。安東は「近田ですね」と言った。「アイツがプレーしてるのをサイドラインから見てると、『こっちも体温上がるわ』っていうぐらいメラメラしてます」と。
関学との再戦が実現したならば、「熱き男」近田がどうやり返すのか、見てみたい。