アメフト

けがに泣いた3年間、元甲子園球児・関学WR小田の開眼

待望のリーグ戦初タッチダウンを決めた関学WR小田

関学の83番、元気印のWR小田快人(4年、近江)が唇を噛んだ。試合後の整列で頬を膨らませ、浮かない表情。11月4日の第6戦は、19-19で関大戦としては70年ぶりの引き分け。2年ぶりの関西制覇、甲子園ボウル出場へ厳しい現実を突きつけられた。「勝たないといけない試合だった」。この日ばかりは、小田の声も小さかった。

その1時間半前、彼は歓喜の雄たけびをあげていた。0-9と関大を追う第2クオーター(Q)3分すぎ、QB奥野耕世(2年、関西学院)からのロングパスをキャッチ。エンドゾーンを駆け抜け、大きくガッツポーズ。65ydのタッチダウン(TD)になった。
今シーズンはリーグ戦第2戦の神戸大戦から出場。第3戦の龍谷大戦からは、スターターとして出ている。前節までリーグ6位となる計12回のパスキャッチで207ydを稼いでいた。だが、過去3年を含めても、TDはゼロ。これが待望のリーグ戦初TDだった。「捕りたい気持ちが強くて、今までは捕るだけだった。捕った後に走ることを考えたらTDをとれた。初TDですけど、引き分けたので複雑な思いです」と力なく話した。

滋賀の名門近江高で2番センター。4年前、夏の甲子園を沸かせた高校球児だ。関学でアメフトに転向し、身体能力の高さから活躍が期待されたが、けがに悩まされた。肉離れが癖になっていた。昨シーズンは3試合のみの出場。昨年の肉離れは左足だったのが、今年は右足になった。今春はリハビリに取り組み、筋肉をつけるのに専念した。昨年は重症で、「選手を続けられないかも」と、何度もあきらめかけた。だが、聖地への思いは捨て切れなかった。「甲子園で活躍したい」。扱うのが白球から楕円球に変わっても、甲子園への熱い思いは変わらない。今年5月下旬の関関戦で戦列に戻ってきた。

レシーバーの中では、明るいキャラクターだ。「みんな僕を見て、笑ってくれます。後輩からも好かれてますよ(笑い)」。この試合、関学は終始追いかける展開だった。どんな劣勢の場面でも、小田は笑顔で前を向き続けた。「試合は楽しみを見つけてやってます。一人でも前を向いてやりたいと思った」。チームトップ、10回のキャッチで144yd。試合残り5秒で追いついた攻撃シリーズでも、4度のパスキャッチを記録した。「最後はほんとに死に物狂いでした」。4回生の意地でもあり、一つの覚悟の表れだった。

タッチダウンのあと、仲間に祝福される小田(83番)

松井理己との「Wエース」に

同じレシーバーの仲間で負けたくない男がいる。1年のとき、鳥内秀晃監督に「関学史上最高のレシーバーになれる」と言わしめた松井理己(りき、4年、市西宮)だ。その松井もけがに泣き、前節の京大戦で、昨年の甲子園ボウル以来の出場を果たした。戻ってきた松井に対し、小田は「あいつだけには負けたくない」と闘志を燃やす。関学のエースWRといえば松井。小田はこの春、「松井とWエースになる」と誓った。この試合、松井もフィールドにいるのに、関大のサイドラインから「83あるぞ」という声が聞こえた。「うれしかったですね。やっと警戒される選手になれた」。小田の表情が少し緩んだ。そして「理己(松井)が帰ってくるまで、僕が1人で背負ってきた。ここからは2人でチームを勝たせていく」。
関学史上最強のWエースに、という決意表明だ。

苦境に立たされた。今節を終えて、関学は5勝1分の2位。全勝の立命大との直接対決まで2週間を切った。関学が勝つと、逆転優勝。立命大に負けると、甲子園ボウル出場を懸けたトーナメント出場も危うくなる。「絶対に勝たないといけない。チャレンジャーとして全力でぶつかるだけ。絶対に甲子園まで行く」。目の色を変え、万博で誓った。誰もが下を向きたくなる危機的状況。それでも下を向いていられない。明るく、前を向いてエンジの集団に立ち向かう。

11月18日、立命大との直接対決に向けて前を向く小田(83番)

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