アメフト 明大のWR九里遼太、気分はリバウンド
明治が中央を圧倒し、3勝1敗で優勝争いに踏みとどまった。ディフェンスが六つのターンオーバーを起こせば、オフェンスはエースQB(クオーターバック)西本晟(じょう、2年、箕面自由学園)が25回のパスを19回成功させ、222ydを稼いで3タッチダウン。チームが一体になっての完勝だった。どちらに流れがいくか分からなかった序盤、西本の絶好調を引き出すキャッチを見せたのが、#5 WR(ワイドレシーバー)の九里遼太(くのり、3年、明大明治)だった。
チームトップの17キャッチ
この日最初の攻撃シリーズ。西本が短いパスを決め、自らのランも交えてゴール前28ydまで来た。第3ダウン残り8yd。パスだ。西本はまず左のWRを見てから、右に体を向けた。その右サイドで、九里が中央のDB(ディフェンスバック)をタテに抜きつつあった。西本が右腕を振り抜く。DBより体一つ奥に進んだ九里へピンポイントのパスが飛ぶ。九里は左に体をひねり、上半身をボールに正対させ、両腕を上げた。基本通り、両手の人さし指同士、親指同士をくっつけて受け手をつくり、柔らかくキャッチ。タックルされて倒れ込んだところがエンドゾーンだった。試合開始3分27秒、チームを勢いづける先制タッチダウンになった。
このシーンを九里が振り返る。「あのプレーは僕がファーストターゲットじゃないんですけど、狭いサイドで1対1になることが多いパターンなので、ジョウ(西本)がしっかり見てくれるんです。しっかり捕れてよかったです」。西本からWR渡邉圭介(3年、日大三)へのタッチダウンパスで14-0としたあとの第2Q9分すぎにも、九里が9ydのタッチダウンパスを受けた。これで21-0。中央大のオフェンスの出来を考えると、ほぼ試合の行方は決まった。九里は4試合を終え、チームトップの17キャッチとなった。
高校最後のバスケの大会で大逆転負け
身長174cm、体重80kgの彼は、40ydを4秒6で走る俊足の持ち主。WRとして最も自信を持つのが、球際でのDBとの空中戦だ。ここで明大明治高時代まで青春をかけたバスケの経験が生きてくる。「バスケではポイントガードだったんですけど、リバウンドがめちゃくちゃ得意だったんです。ボールが空中にあるときに飛び込んで、センターを越えて僕が捕ってました。ジャンプするタイミングと、ジャンプ力には自信があります。アメフトで競り合いになったときは、いつもリバウンドを奪いにいってたときのイメージでいってます」。バスケだとリバウンドを捕っただけではどうにもならないが、アメフトだと捕っただけで大仕事だ。こんなにおいしい話はない。
そのバスケだが、九里は高3の最後の試合に大きな後悔がある。インターハイの予選だった。明大明治は強豪校ではなかったが、そのゲームは一時20点のリードがあった。なのにひっくり返されて負けた。九里はキャプテンとして責任を背負い込んだ。実際に絶不調で、いつもなら決まっているシュートがほとんど入らなかった。泣いた。ここで終わりたくない、と思った。
明大進学にあたって、何か別の競技をやろうかと思っていた。そんなとき、高校のバスケ部の先輩に強く言われた。「お前は体もがっちりしてるし、足が速いし、アメフトやれよ。グリフィンズって、本気で日本一目指してて、すげえかっこいいチームなんだぜ」。それで、アメフトに転向することにした。
いつも自分に「調子に乗っちゃダメ」
アメフトを始めるにあたって思ったのが、「タッチダウンをとりたい」ということ。とにかく目立ちたかった。だけどQBやRBは不器用な自分には無理だと考えて、WRで目立つことにした。だけど、未経験者には分からないことばかりで苦労した。「パスコースの意図とか、プレーのタイミングとか、最初は全然分からなくて……」。WR同士がクロスするパスパターンがある。ホワイトボードにそれが図示されただけで、経験者なら狙いまで理解してどっちのWRが先に出るか、どっちが遅らせて出るかが分かる。でも九里はとにかく図示されている通りに突っ込んで、味方とぶつかった。練習後のミーティングでは毎回のように怒られた。そのたび、一つずつ覚えていった。
今年の春、専修大戦で何度もキャッチし、自信がついた。「でも、『調子に乗っちゃダメだ』って自分に言い聞かせました。どうしてもそうなっちゃうキャラなんで」。ミスをしなくなり、この秋から常時試合に出られるようになった。それでも、おごることはない。パスコースへ走っていくときも、ランで相手をブロックするときも全力。そうして4試合で17回のキャッチ、三つのタッチダウンを積み重ねてきた。
3人の同学年のレシーバーに刺激を受ける毎日だ。「(渡邉)圭介はフェイントのかけ方とか視野の広さがすごい。トップスピードのまま90度にカット切るんですよ。あれはすごい。誰を目指してるかって言ったら、圭介を目指してます。明松(かがり、大雅、横浜栄)はハドルブレイクのときに、ものすごい声を出す。ああいうことができるのって、すごいと思うんですよ。『よし、いこう』って気持ちになるんで。坂本(準樹、横浜緑が丘)は僕と同じ初心者で入ったんですけど、頭がいいんです。僕より先にいろんなことが分かって、いっぱい教えてもらいました」。私がこう書いたように、本当に一気に、うれしそうに仲間を語った。
唯一無敗の早稲田に負けているため、不利には違いないが、明治にもリーグ優勝の芽はある。残り2試合をどう戦い抜くか、九里に聞いた。「僕の強みはロングパスのキャッチなんで、一発タッチダウンをとっていきたいです。一発で決めればモメンタム(流れ)を持ってこられるから、チームに一番貢献できます。でも、タッチダウンしても浮かれず、不安定でなく、いつもいい結果を残せるようにしたいです。今年は4年生の先輩がアメフトじゃない部分の土台をしっかりつくってくれました。甲子園ボウルへ行くチャンスだと思ってます。」。またもや、一気にこれだけしゃべった。
アメフトをしていても、彼の胸には常に、高校最後のバスケの試合がある。あの無念を上書きできるその日まで、九里は全身全霊のプレーを貫く。