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アメフト 慶應、意地のビッグリターン

慶應のWR佐藤はビッグプレーメーカーだ

関東大学リーグ1部TOP8第4節

10月14日@富士通スタジアム川崎
慶應義塾大(1勝3敗) 18-21 法政大(2勝1敗)

前節に2敗目を喫し、慶應は優勝争いから脱落した。せめてチームのホームカミングデーでもあるこの日、法政に一矢報いたい。だが第4Qに入ってすぐ、慶應はリードを13点差に広げられた。

その直後のキックオフ。大きく蹴られたボールを、慶應のリターナーに入った#2 WRの佐藤凱輝(よしき、3年、慶應義塾)が右奥でキャッチ。サインは左へのリターンだ。佐藤は斜め左へと駆け出す。そのとき、佐藤は見た。法政の選手たちがリターンサイドに気づいて左へ流れ、中央にスペースができた。

スタジアムの空気が一変

佐藤は当初の左リターンをやめ、中央を駆け上がった。静まりかえっていた慶應サイドのスタンドから大きな歓声がわく。佐藤は加速しながら、次の展開を見すえた。「かわせる」。自分から見て法政の一番右を守る選手を鋭いステップで外側へとかわす。右のサイドライン際を駆け上がり、ゴール前12ydまで87ydのビッグリターンだ。スタジアムの雰囲気が一変した。

ここまで散々詰めを欠いてきた慶應オフェンスでも、12ydならもっていける。最後はRB薮田大登(ひろと、4年、慶應義塾)が4ydを持ち込んでタッチダウン。6点差にした。しかも次の法政の攻撃シリーズで、慶應のDB萩原巧巳(4年、慶應義塾湘南藤沢)が法政のパスをインターセプト。フィールド中央付近で攻守交代となった。慶應サイドはもう、お祭り騒ぎだ。

ただ、いかんせん現在の慶應オフェンスにとって50ydは果てしなく遠い。タッチダウンまでいけば逆転だったが、キッカー廣田祐(4年、慶應義塾志木)が50ydのロングフィールドゴールを決め、3点差にするのがやっとだった。あとは法政にラン攻撃で時間を消費され、慶應は3敗目を喫した。

87ydのビッグリターンから始まったオフェンスで6点差に

あのリターンを振り返り、佐藤は言った。「今日はリターンに入るはずじゃなかったんですけど、けが人の関係で出番が回ってきたんです。タッチダウンを狙いにいきました。やってやる、って思っていきました。ボールを持ったら、ブロックしてくれる仲間を信じて前へ前へ走っただけです」。今年になって、急に足が速くなったのだという。「第2成長期って言うのかどうか知りませんけど、走ってて感覚が全然違う。『走ってるな』って感じがあるんです。それでチームでも認められてきて、日本代表にも選ばれたんです」

現実受け入れ、目の前の一戦に全力

慶應からは佐藤を含めた4人が、今年6月に中国であった大学世界選手権の代表に選ばれた。「だからほかのチームともトップレベルの層は負けてないと思います。だけど僕らは人数が多い分、レベルの差に幅がありすぎる。どれだけ底上げできるかが課題でした。それでも今年はほんとに日本一を狙ってました。でも、甘くなかったですね」。彼はそう言って、顔をしかめた。

第3節までの得点は37、うち9点が好キッカー廣田のフィールドゴールだった。この日もタッチダウンは一つだけ。低迷を招いているのはオフェンスの得点力のなさにほかならない。佐藤がまた、苦々しい顔になって言った。「僕も捕れるボールを落としたし、今日もその課題が顕著に出てしまいました」。彼は口にしなかったが、そもそもは秋のリーグ戦を前にエースQB候補がチームを離れたのが大きい。

「やってやる」その想いで前へ前へと走った

リーグ戦は残り2試合。どう戦うのかと佐藤に尋ねた。「4年生にはほんとにお世話になってきました。もう最善の形ってのはないから、セカンドベストかサードベストかもしれないんですけど、少しでもいい形で送り出したいです。そのために一戦一戦、全力でやります。現実は受け入れるしかないので」。佐藤の言葉にうなずかされた。これも大学スポーツの一側面だ。

この日の法政戦は、あのビッグリターンがなければ、面白い試合にすらなっていなかった。そんなパフォーマンスができる男は、何かを持っている。あと2試合、佐藤凱輝が燃やす本気を楽しみにしたい。

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