関学大・海﨑琢主将「収穫はゼロに近い」5年ぶり交流戦で日大に勝利も、改善点を強調
アメリカンフットボールの春季交流戦、関西学院大学ファイターズと日本大学フェニックスの試合が4月23日、神戸市王子スタジアムであった。ながらく春の定期戦として実施されてきたこの試合は、2018年5月6日の対戦時に起こった「悪質タックル問題」ののちに中断されていた。
両校は2020年の甲子園ボウルで対戦した。しかしその後も春の定期戦は再開されず、昨年の年末から両チームの首脳陣や学校関係者が話し合いを重ねて実現に至ったという。両チームはともにホームジャージーである青と赤のユニフォームを着用し、多くの観客が見守る中ではつらつとプレー。14-10で関学が接戦を制し、2023年シーズンの初陣を飾った。
様々な制約を受けた中、ようやく一歩前進
「こんな日がくるとは夢のよう」。長年フットボールにゆかりのある、日大選手の保護者の言葉だ。
あれから今年で5年が経ち、当時を知る学生は昨春を最後に全員が卒業した。学生は入れ替わり、在学生にとっては身をもって知らない話となった。
それでもこの試合の実現に対する感慨は深く、試合後には両チームの選手と保護者、関係者がグラウンドで交流のひとときを過ごした。青と赤はフットボールファンにとって特別なのはもちろん、両校の関係者にとっても思い入れが深いもの。多くの感情がその場に詰まっていた。
この数年は新型コロナウイルスなど、様々な制約を受けた中、ようやく一歩前に進める。そんな思いを抱かずにはいられない。これは多くの人にも共通する気持ちではないだろうか。
関学の大村和輝監督は「日大さんは選手も良くてフィジカルも強く、とても強いチームでした。OB含めてずっと交流もあったので、こういう関係はできるだけ続けていきたい。非常に良い勉強をさせてもらっています」。今季、関西大学から母校の日大に戻った武田真一ヘッドコーチは、「大変な調整が色々あったと思うんですが、こうやってすごい盛り上げていただいて、本当に感謝しています。関学さんの気持ちにこたえるためにも、甲子園に戻ってきたいと思います」と話した。
ランを中心に攻撃を組み立て
関学はQBに、昨季ルーキーながら先発も務めた星野秀太(2年、足立学園)を起用した。試合後に大村監督が「WRがけが人だらけだったので、80年代のフットボールをした」と言ったように、WRのエース格である衣笠吉彦(4年、関西学院)、鈴木崇与(たかとも、4年、箕面自由学園)らが欠場する中、ランを中心に試合を進めた。
第1クオーター(Q)5分に関学のRB住田先(ひろ、3年、近畿大学附属福岡)が1ydを飛び込み先制。日大は同8分に吉田匠汰(3年、埼玉栄)のFGで3点を返し、関学が7-3で前半を折り返した。
第3Q終盤、後半から交代出場した日大QB金澤檀(3年、駒場学園)が、WR西山裕次郎(4年、横浜立野)へのタッチダウン(TD)パスを決めて逆転。第4Qは互いに押し合いとなったが、ランプレーで優位にたった関学が、11分過ぎにRB伊丹翔栄(3年、追手門学院)のTDランで14-10に。関学が逆転を狙う日大のロングパスをカットして逃げ切った。
関学は日大の102ydに比べて3倍近い269ydをランで獲得。昨年の課題でもあったRB陣は、強気に当たりにいくシーンが目立った。「ちょこちょこせんと、かましてこいと。その方が守備は嫌なんでね。今日はそれがよくできてました。OLの助けにもなっていたと思います」。大村監督は、昨年よりもトレーニングをしっかり積めたという、冬の手応えを口にしていた。
主将になるため、昨年9月から心構え
「収穫は、ほぼゼロに近い」
今季、関学で主将を務めるLB海﨑琢(4年、箕面自由学園)は厳しい口調で試合を振り返った。「初戦ではあるが小さなミス、コミュニケーションの食い違いがありすぎた。勝ちはしたけど、改善しないといけないことがたくさんあります」。スラスラとよどみなく出てくる言葉に、強い向上心と決意がにじむ。
海﨑は昨年9月に大村監督から「(つぎの主将は)お前しかおれへんやろ」と言われ、ずっと準備してきたという。「下級生の頃から試合に出させてもらっていて、リーダーシップは自分なりにとってきていました。迷いはなかったです」
大村監督は、海﨑のことをこう評する。「いい意味で現代っ子。こちらから何も言わなくても、マイペースで自分に厳しくしっかりやれるんです。客観的にチームも見られますし、彼が引っ張るのがいいかなと思いました」
昨秋の大一番となった関大戦では、序盤でけがをして離脱。悔しい思いも味わった。一方、フィールドから離れることでチームを俯瞰(ふかん)的に見ることができ、課題も見つけられた。主将としてこの貴重な経験を生かし、プレーヤーだけではなくチームの裏方ともしっかりと連携をとりながら、チームづくりをしていきたいと考えている。
ただ、主将となったからといって自分の取り組み方を大きく変えるつもりはない。「フットボールを楽しむ」。これまで一番大事にしてきたことを、主将として体現する。海﨑はこうしてチームを引っ張ろうしている。
「自分は言葉で引きつけるタイプではないので、プレーでみせて背中でチームをけん引していけたらと思っています。副将の前島、衣笠、浅浦に頼りつつ、リーダーシップを発揮していきたいです」。一人で抱え込まず、仲間と手分けして前に進むのが理想の姿だ。
「ドミネート」掲げ、狙う甲子園ボウル6連覇
主将として、常勝軍団ゆえの課題も自覚している。「関学は勝ちに慣れすぎてる部分があると思います。これまで勝ってきた関西リーグのライバル、立命や関大の気持ちをしっかりと理解して、自分たちが苦しい立場になったときにどれだけフットボールを厳しく追求できるか。もっともっと貪欲(どんよく)に勝利を突き詰めたいと思っています」
今年のファイターズが掲げるテーマは「ドミネート」。対戦相手を圧倒し、圧勝するという意味が込められている。準備にこだわり、ファイターズらしさである「想定外をなくすフットボール」をやり切る。その上で甲子園ボウル6連覇を目指す。