関西大学RB小野原啓太 春の関学戦で輝いた元ハードラー、最後の関学戦でもう一花を
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月25、26日に最終節の4試合がある。昨年2位の関西大学カイザーズは第5節の立命館大学戦に敗れ、5勝1敗。26日の最終戦ですでに60度目の優勝を決めている関西学院大学に勝てば同率優勝で、全日本大学選手権進出の可能性が残る。第6節の京都大学戦ではカイザーズ第3のRB、小野原啓太(4年、摂津)が流れを引き寄せる走りを見せた。
京大戦で流れをつかむロングゲイン
関大の選手たちはみな、11月11日の関立戦を現地観戦した。関学が勝ったため、関大は甲子園ボウルを目指せる立場に踏みとどまれた。翌12日の京大戦は0-10とリードを許したが、追いついてハーフタイムに入った。大事な後半の立ち上がり、関大はエースRB阪下航哉(3年、関大一)のナイスリターンで自陣41ydからのオフェンス。
第1ダウンは阪下が持って11ydのゲイン。敵陣に入ると、QB須田啓太(3年、関大一)がRBの位置から広い左サイドへ張り出した小野原へスイングのパス。捕った小野原が左オープンへ向かうと、主将のWR横山智明(4年、関大一)とWR井川直紀(4年、関大一)、1年生TEの桃木大治郎(関大一)がそろってナイスブロック。小野原はスピードを上げて駆け抜けた。ゴール前12ydへと進むロングゲインで、流れは関大に。締めくくりも小野原だった。ゴール前1ydから、左のパワープレー。右からプルアウトしたOL芦川真央(3年、大阪桐蔭)の背中についていってTD(タッチダウン)。17-10と勝ち越した。
このあとはディフェンス陣が踏ん張り、2番手RB山㟢紀之(2年、箕面)の50yd独走TDなどで得点を重ねた。小野原も粘り強いランで着実にゲインし、34-10の快勝を支えた。
小野原に後半序盤のシーンについて聞くと、「前半にあのパスを落としてたんで、『次はないやろな』と思ってました」と苦笑いで言った。第2クオーターに右サイドへの同じプレーで落球していた。だから再び同じプレーがコールされた瞬間は「めちゃくちゃ緊張しました」と小野原。QB須田が前回の反省から捕ってから走りやすいところへ丁寧に投げてくれたこともあり、無事にキャッチ。「ボールをもらった瞬間、これはいけるなと思いました」。ミスを取り返す36ydのゲイン。サイドラインへ戻ると、磯和雅敏監督が満面の笑みで迎えてくれた。「あのプレーで首の皮一枚つながりました」。アメフト未経験での入部から最終学年で試合出場の立場をつかんだ小野原の言葉だけに、重みがある。
中学の同級生に誘われ、大学でアメフトの道へ
大阪府立摂津高校の出身だ。「摂津高校出身でアメフト界で有名な人知ってる?」と小野原に尋ねると、笑いながら「鳥内さんです」と返した。そう、関学前監督の鳥内秀晃さんは摂津高時代にサッカー部で全国高校選手権に出場している。小野原は中学から陸上競技に取り組み、高校では110mハードルを専門にしていた。ただ目標としていたインターハイの出場は遠く、近畿大会のリレーの補欠には入っていたが、走らずに終わった。「何もせずに引退してしまいました」
関大への進学が決まり、当初は何のスポーツもやらないつもりだった。そんなある日、中学の同級生で府立池田高のアメフト部だった金子健人から誘われた。行ってみて面白くなかったらすぐやめようと思っていたが、RBの練習を見て、やってみて、「これやったら自分の強みを生かせる」と感じてアメフトを始めることにした。
強豪のカイザーズで未経験からのし上がるのは簡単ではない。小野原は今年の春、ようやくチャンスを手にした。関学戦でパスを捕って31ydのゲインでゴール前へ。3-14から追い上げるTDが決まったあとの2点コンバージョンでもパスを受け、エンドゾーンへ駆け込んだ。17-14での逆転勝利をしっかり支えた小野原は、それ以降試合出場が増えていった。
関学戦へ「すべてのプレーで最後までやりきる」
春の関学戦でチャンスをもらい、生かした小野原はいま、最後の関学戦に備えている。「僕らが負けた立命に完勝した関学は強い。死ぬ気で準備しないと勝てない。すべてのプレーで全員が最後までやりきらないと話にならない。僕自身はセカンドエフォートが持ち味だと思ってるので、そこで勝負します」
小野原にアメフトを勧めてくれた金子は入学当初、一緒にRBとして練習していたが、けがでアナライジングスタッフに回った。「アイツが誘ってくれなかったらアメフトをやることもなかったし、こうやって関学と試合をする経験もできなかった」。小野原は4years.の最後に来て、金子への感謝の気持ちをより強くしている。
ハードラー時代に60kgだった体重は80kgまで増えた。もうハードルをポンポンと跳ぶことはできないかもしれないが、関学のディフェンスにぶち当たることはできる。同率優勝をかけた大一番で、第三の男が渋く輝く。自分を晴れ舞台に導いてくれた仲間の分まで。