オフェンスが「アニマルリッツ」化した立命館大学、9年ぶりの甲子園ボウル進出
アメリカンフットボールの全日本大学選手権準決勝は12月1日、大阪・ヤンマースタジアム長居であり、立命館大学パンサーズ(関西1部1位)が早稲田大学ビッグベアーズ(関東1部TOP8 2位)を52-27で下し、2015年以来9年ぶり10回目の甲子園ボウル(12月15日、兵庫・阪神甲子園球場)出場を決めた。関西学院大学の甲子園7連覇を阻んだ法政大学オレンジとの頂上決戦に臨む。1990年代、2000年代と強さを誇ったころ、奔放に暴れまくる立命のディフェンス陣は「アニマルリッツ」と称された。2024年は「アニマルリッツ」化したオフェンスを看板に、甲子園に乗り込む。
早稲田戦で全開となったOL陣
フットボールはオフェンスライン(OL)だ。この日の立命館オフェンスを見ていて、改めて強く思った。ファーストシリーズこそパント隊形からのスペシャルプレーに頼ったが、そこからは全開。森本恵翔(4年、初芝橋本)、坂井星河(3年、追手門学院)、粟原亮(4年、追手門学院)、木坂太一(4年、大産大附)、宮川正義(2年、立命館宇治)の5人が早稲田のDL(ディフェンスライン)とLB(ラインバッカー)を押しのけ、ときにはDB(ディフェンスバック)にまで襲いかかった。
RB(ランニングバック)の山嵜大央キャプテン(4年、大産大附)と蓑部雄望(2年、佼成学園)の前に、何度も花道が開けた。そして二人はタックルされてからも足を止めずに粘った。とくに蓑部は当たる直前に低い姿勢になってから加速。止まっているはずの地点から毎回3ydは前に出ていた。その気迫にうならされた。
前半終了間際にはQB(クオーターバック)の竹田剛(3年、大産大附)がパスの構えから大きく空いた右サイドへスクランブル。「え、こんなに走れんの」と思いながら緩いインカットを切り、37ydを走りきるTD。立命は前半だけでランの獲得距離が260yd。パスは93yd。全5シリーズをタッチダウン(TD)につなげ、35-13で試合を折り返した。竹田は昨年まで苦手にしていたクイックスローからのパスも決めた。早稲田はリーグ戦の1試合最多失点が16、選手権初戦の関西大学戦で28失点したが、ディフェンスには自信を持っていた。それが、15分クオーターになったとはいえ、立命に前半だけで35点を奪われた。
後半最初の早稲田のオフェンスで立命DB橋本龍人(3年、大産大附)がインターセプト。キッカーの横井晃生(3年、桐蔭学園)が27ydのフィールドゴールを蹴り込み、38-13。完全に決まった。控えメンバーを送り込みつつ、さらに二つのTDを追加。早稲田もQB八木義仁(4年、早大学院)からWR入江優佑(4年、関西大倉)への24ydTDパス、エースRB安藤慶太郎(3年、早大学院)の60yd独走TDで追い上げたが、2年ぶりの甲子園ボウル出場はならなかった。
笛が鳴り終わるまで押し続ける意識が浸透
立命OLのスターター5人の平均サイズは身長187cm、体重123kg。日本の学生フットボールもここまできた。彼らは大きくて強いのはもちろん、速い。とくに看板となるランプレーの「アウトサイドゾーン」に出たときの5人の動きは迫力十分だ。5人がガサッと同じ方向にステップを踏み、ボコボコボコボコとブロックを決めていく。山嵜は「相手はあのプレーが来ると分かってても止められないでしょうね」と話す。
また、プレー終了の笛が鳴り終わるまで押し続ける「フィニッシュ」の意識が浸透しているから、プラスアルファのゲインも見込める。早稲田戦では森本が相手を押し続けたままエンドゾーンを出てしまい、看板にぶつかって終わったシーンがあった。「不必要な乱暴行為」の反則を取られた森本は「春の法政戦でもやってしまったんですけど、(プレーに)入りこんでて。相手には申し訳ないことをしたので、すぐ謝りました」と苦笑いで言った。さすがにこのプレーはやりすぎだったが、地の果てまで相手を押しきる思いを持ってプレーするOLがどれだけ頼もしいことか。森本は「正直、僕は甲子園ボウルでもう一度関学とやりたかったんで、できないのは悔しいというか変な気持ちなんですけど、目の前はもう法政大学なんで、しっかり準備して、関学さんの分も甲子園で暴れたいと思います」と話している。
オフェンスに90点はあげてもいい
立命館大学・高橋健太郎監督の話
「9年ぶりに甲子園へ行かせてもらえることを、本当にうれしく思っています。学生たちみんなが甲子園ボウルで勝って日本一を目指そうと頑張ってきた成果だと思ってますので、僕は本当に彼らの頑張りで甲子園ボウルへ連れて行ってもらえると考えています。オフェンスに関しては100点をあげても、いや100点はあかんな(笑)、90点はあげてもいいなと思います。リーグ戦で関大に負けて少し沈んだときもあったんですけど、いろんな経験がいまの彼らを築いてるんだと思います。僕らにも関西の意地がある。甲子園で関東対決ってのは絶対に避けたいと思っていたので、この試合に何が何でも勝とうと臨みました。ただ関大さんを破った早稲田さんでしたし、次は関学さんを倒した法政さんなんですけど、僕たちは関西学生リーグでもまれていまがあるので、彼らの思いも背負って、いい試合を甲子園でやって、僕らが勝つことで西高東低を続けたいと思います」
立命館大学RB山嵜大央キャプテンの話
「観客席を見たときに満員で、たくさんの方々に応援されてるっていうところで涙があふれ出ました。幸せなことだと思って。ファンの方々、応援してくれる方々のためにも、絶対に次も勝ちたいと思ってます。ライン戦で圧倒できれば無事に勝てるとみんなに言ってきました。ファーストシリーズでギャンブルしたんですけど、それ以外はOLが圧倒してくれた。僕らは走るだけでした。広い道が開いてましたんで。感謝してます。蓑部は弟子というよりライバルですよ。去年は弟子みたいな感じやったんですけど、今年はチームを引っ張ってくれてる存在なんで。あいつは朝から晩まで練習してるし、家に帰ってもずっとアメフト見てるし、もうフットボールしかないんです(笑)。蓑部に比べたら僕なんて普通の人間っすね。甲子園ボウルは勝てればそれでいいです。とくにランで勝ちたいというのもありません。ただ、ウチのOLは強いです。自慢のOLですね」
ウチのディフェンスが52点取られるとは
早稲田QB八木義仁の話
「相手のオフェンスが強いので点の取り合いになるとは思ってたんですけど、ウチのディフェンスが52点取られるところまで強いとは思わなかったです。法政戦で負けてからは自分がポケットパサーだってことを強く意識して、OLを信頼してポケットにとどまったら、すごくレシーバーも見えるようになったので、負けてよかったってことはないと思うんですけど、負けからすごく学べた試合で、いまならあの試合に負けたからこそ成長できたと思えます。(関西のアメフトファンに)早稲田は強いと思わせたかったです」