立命館大WR有馬快音 23年ぶり開催の春の関学戦で2TD「球際の強さは負けない」
アメリカンフットボールの春のシーズンが各地で終盤を迎えている。本番の秋のシーズンへ向け、各チームが交流戦や定期戦で新戦力を試してきた。6月9日には甲子園ボウル6連覇中の関西学院大学ファイターズと立命館大学パンサーズのライバル対決が、春としては23年ぶりに実現した。2002年以降はどちらともなく春の対戦を避けてきたが、今年はパンサーズの練習拠点があるびわこ・くさつキャンパス(BKC、滋賀県草津市)が開設30年を迎えた記念試合として立命館サイドからオファーし、実現した。春とは思えないほど完成度の高いオフェンスのぶつかり合いとなり、最終盤にパンサーズが追いついて24-24の引き分け。BKCでのホームゲームに詰めかけた学生やOB・OGらを沸かせた一人が、WR(ワイドレシーバー)の有馬快音(かいと、2年、滝川)だった。
2キャッチ2タッチダウンの「必殺仕事人」
この日、有馬は2キャッチ34ydで2タッチダウン(TD)。まさにパンサーズの「必殺仕事人」だった。まずは3-14の第2クオーター(Q)4分すぎ。ゴール前25ydからの第1ダウン。ボールはハッシュ左で、立命は4人のWRを入れ、狭い左サイドには仙石大(3年、立命館宇治)を、広い右には外から木下亮介(3年、箕面自由学園)、有馬、エースの大野光貴(4年、立命館守山)と3人を配置した。
プレーが始まると有馬はまっすぐ10ydほど走り、少しだけ左へコースを取りつつ縦へ加速。マークにきた関学DB(ディフェンスバック)酒井麻陽(3年、佼成学園)を抜いた。そこへQB(クオーターバック)竹田剛(3年、大産大附)から100点のパスが飛んできた。有馬は走りながら頭上に出した両手で柔らかくキャッチ。追いすがる酒井に倒されたが、そこはもうエンドゾーンだった。王者関学から奪ったTD。有馬は立ち上がると体をぶつけ合って仲間たちと喜び合い、右腕を突き上げて叫びながらサイドラインへ走っていった。
もう一回のTDは最終盤。8点を追い、試合残り2分36秒から始まった立命館のオフェンスは大野へのミドルパス成功や仙石のスーパーキャッチでゴール前10ydへ。ランで1ydゲイン、仙石へのパスが失敗、大野へのパスも失敗で、立命館は第4ダウン残り9ydと追い込まれた。
タイムアウトを取って一息入れ、もちろんギャンブルだ。有馬が前半にTDした際と同じ隊形にセット。パスしかないのは関学も百も承知。縦に走った有馬が内側へ切り込んだ瞬間、竹田が右腕を振り抜く。エンドゾーンでフリーになった有馬は進行方向とは逆に飛んできたボールに対し、器用に両手を伸ばしてキャッチ。TDで2点差だ。喜ぶ間もなく2点コンバージョンに出ると、竹田が右のナンバーワンから鋭角に内側へ入ってきた木下へ低いパスを投げ込み、捕った木下がエンドゾーンに倒れ込んだ。同点だ。残り1分を切っての劇的な展開に、立命館サイドはお祭り騒ぎ。最後はディフェンスが踏ん張り、このまま終わった。
課題のブロックに力を入れ、今春から1軍に
関学はエースQBの星野秀太(3年、足立学園)やディフェンスの軸となるLB(ラインバッカー)の東田隆太郎(3年、関西学院)を欠いていた。一方で立命館もOL(オフェンスライン)のスターター2人が欠場した中での関立戦だった。いずれにせよ、ホームゲームとして大きな後押しを受けた立命館がこの春成長したQB竹田のパスで追いついたのは、2015年以来の甲子園ボウル出場を目指す秋のシーズンへ向けて小さくない意味がありそうだ。
有馬は試合後、「オフェンスもディフェンスもまだまだなんで、今日出た課題をなくして、秋には関学に勝って日本一を取ろうと思ってます」と振り返った。最後のTDパスについては「(竹田)剛さんとはプライベートでも遊んだりして仲がいいんで、よくキャッチボールもさせてもらってて、そういうのが実を結んだんだと思います。応援がすごくて、もう最高でした。勝つしかないと思ってやってました」と力を込めて語った。この日の二つのキャッチはともに素晴らしいハンドキャッチだった。「試合になったらめっちゃ集中力が高まるし、もし相手につかれてても絶対にボールは離さないという気持ちがあります。球際の強さでは誰にも負けないつもりです」
ルーキーだった昨年は春の京都大学戦でTDパスを受け、東京大学戦ではキックオフリターンTDを決めた。ただ秋になると、ブロックが苦手だったために出番が減った。リーグ4戦目の甲南大学戦では最初のシリーズで竹田からのミドルパスを受け、35ydほど走ってゴール前へ迫った。これが大学生として秋の公式戦初キャッチ。ルーキーイヤーは2キャッチ57ydで終わった。関西大学戦や関学戦で戦力になれず、悔しい思いをした。課題のブロックにも力を入れて、この春は1軍のレシーバーとして試合に出てきた。
高校時代はあの溝口駿斗と「ホットライン」
中学時代は野球部だったが、3年の夏に引退したあとは友だちのお兄さんに誘われてタッチフットで遊んでいた。「レシーバーをやらせてもらって、いっぱいキャッチできて楽しかった」。進学した滝川高(神戸市)で野球を続ける気にはなれず、別のスポーツを考えたときにアメフトだった。QBとして日々練習していると、夏になってソフトボール部を引退した3年生が練習に加わるようになった。「爆発力がすごかった。1歩目からどんどん加速していくから、大学でアメフトやったらデカくなると思いました」と有馬。その3年生こそが、いま関大4年生のWR溝口駿斗だ。
溝口はアメフト部の練習試合にも出ていた。ダブルムーブのパターンを走ってフリーになり、有馬からのTDパスを受けたこともあったそうだ。「関大の須田啓太より先に溝口とホットラインを組んでたんやね!」と私が勢い込んで言うと、有馬は爆笑して「実はそうですね」と返した。
滝川高は選手十数人と小所帯で、ほぼ全員が攻守両面で試合に出た。有馬はQBとDBで出ていて、試合が始まるとハーフタイムまでベンチに戻れなかった。同じ兵庫県の強豪である関西学院や啓明学院との試合には、いい思い出がない。「みんなハアハア言いながらやってて、関学と啓明にはボコボコにされました。コールドゲームになったこともありました」。その悔しさの中で、「もっと上のレベルで戦いたい」との思いを強くしていた。パンサーズのトライアウトを受けて、立命館大への進学が決まった。
この春は1軍のレシーバーに食らいつく日々を過ごした。「大野さんは速くてセンスもすごい。仙石さんは切り返しが速くて、(木下)亮介さんはキャッチがうまいし体幹がすごい。もっと追いついていって、秋はもっと出られるようにしたいです」。パンターの練習もしていて、関学戦では1回蹴って41ydの陣地挽回(ばんかい)につなげた。
大野も仙石も木下もいわば高校時代からのフットボールエリート。たたき上げの85番がそこに割って入り、秋も「関学キラー」となれるだろうか。