アメフト

立命館大・大谷昂希 理想の一撃に近づくタックル、副将が誓う「アニマルリッツ」復活

立命館大のLB大谷昂希(44番)のフットボール歴は15年目に入った(撮影・篠原大輔)

第74回を迎えた「長浜ひょうたんボウル」が5月12日、滋賀・平和堂HATOスタジアムであり、立命館大学パンサーズが昨年の甲子園ボウルに出た法政大学オレンジを34-19で下した。序盤に立命館のLB(ラインバッカー)が相手RB(ランニングバック)に見舞った鋭い当たりに目を奪われた。そのタックラーはパンサーズの副キャプテン、大谷昂希(こうき、4年、大産大附)だった。

2013年秋の関学戦を思い起こさせた一発

法政のこの日2度目のオフェンスシリーズだった。法政陣25ydからの第3ダウン残り6yd、ボールは左ハッシュ。オレンジは左トスでRB小松桜河(3年、日大三)を走らせた。ボックスの中央付近にいた立命LB大谷は最短距離で小松に迫り、縦に上がろうとする瞬間にフルスピードで低く突き刺さった。会場を「おおーっ」と沸かせるタックルだった。ノーゲイン。立命館のサイドラインからは「オオタニさーん」という声があがった。

試合後の大谷に「いいタックルでしたね」と話しかけると、「気持ちよかったです。自分としても気持ちが上がるというか、スイッチ入りましたね。大学に入ってからでは一番のインパクトでした」と早口で返した。そして「リアクションですけど、スカウティングでちょっと読めてたのもありました。(ディフェンス)エンドが下がるサインやったんで、そっちを(ブロックに)いってくれて、僕がフリーでいけたと思います。足を止めずにいけたのがよかったです」と解説してくれた。

大谷が法政大学戦の序盤に決めたタックル(撮影・篠原大輔)

大谷のタックルを見た瞬間、私はかつて立命のLBが見せたスーパータックルを思い起こしていた。2013年秋シーズンの関西学院大学戦(0-0で引き分け)。タックラーは太田恵介(当時4年、北大津)だった。今回と同じ、ディフェンスから見て右のオープンプレー。モーションしたレシーバーがボールを持ち、オープンを上がろうとする。逆サイドの内スロットの位置から走り込んできた選手が太田をブロックにくる。ほかに2人のリードブロッカーもいる密集に、太田は地をはう低さで飛び込んでいった。低すぎて速すぎて、関学はブロックできない。そのままボールキャリアーに突き刺さった。タックルされた関学WR木戸崇斗(当時3年、関西学院)は、何が起こったのか分からないという感じだった。

あの太田のタックルに比べれば、大谷のケースはブロッカーがおらず、秋の大一番でもない。それでも最近、立命ディフェンスの目の覚めるようなプレーを見ていなかったからか、太田と大谷がともに44番のLBで副キャプテンという共通点があるからか、私は強く心を打たれた。それを大谷に伝えると「太田さんのタックルはLB界で有名で、僕も何回も(映像を)見て、あの気持ちの強さを理想にしてきました」と話した。

大産大附高ではキャプテン

大谷はアメフトを始めて、今年で15年目になる。小2のとき京都リトルベアーズに入った。小中学校のころはQB(クオーターバック)だった。私立中に通っていたが、高校はアメフトの強豪校に進みたいと大産大附を選んだ。同期にいまパンサーズのキャプテンでエースRBの山嵜大央(だいち)がいた。高校でLBになった大谷は、高3になるとキャプテンを務めた。秋は久々に関西大会の決勝へ進んだ。大産にとって9年ぶりのクリスマスボウル出場まであと1勝。しかし大黒柱の山嵜が負傷欠場し、関西学院(兵庫)に敗れた。「やっぱりめちゃくちゃ悔しかったですね。でも1、2回戦負けが続いてた中で、あの代で作った文化があるからこそ最近勝てているという実感があります。僕らの代が起点になった自信はあります」。大谷はそう振り返った。

大産大高3年の秋はあと一歩でクリスマスボウルに届かなかった(撮影・北川直樹)

山嵜らとともに進学した立命館大で、大谷は3年生の春からスターターとなった。身長175cm、体重84kg。フットボールセンスのよさは立命館でも群を抜き、ハードなプレーもできる。昨秋は高校からずっと一緒にLBでやってきた1学年上の藤本凱風(かいぜ、現・オービック)が関学戦を前に大けが。後を託された大谷も悪い流れを変えるプレーができず、関学に完敗。3校同率優勝となったが、抽選で甲子園ボウルへの道は消えた。

新チーム発足にあたって、新4年生のミーティングで誰がキャプテンにふさわしいか投票をした。単独トップの票を集めたのが大谷だった。しかし大谷にはこんな思いがあった。「大産ではキャプテンをやらせてもらいましたけど、パンサーズというチームだと僕よりダイチがキャプテンになって、僕ら何人かがフォローする形がいいと思ってました」。何度も話し合って、最終的には大谷が思い描いた形に落ち着いた。

キャプテンの山嵜は「アメフトを楽しんで日本一になる」という目標を掲げている。大谷は自分の役割をこう語る。「ダイチの掲げたものに対して僕たちもフォローしてアプローチして。楽しいといってもふざける楽しさじゃなくて、勝負に勝っていく楽しさ、いいプレーをしたときの楽しさを一人ひとりが感じられるような環境をつくっていきたいです」

キャプテンの山嵜大央(22番)とは一緒に戦って7年目になる(撮影・篠原大輔)

高校・大学の先輩は「みんなから愛される、日本一マメな男」

今年1月に就任したOBの高橋健太郎監督については「すごい明るい人で、新しい文化をつくりあげて勝とうという姿勢があって、その動きが早い。地域のお祭りに参加して初めて、支えてもらってる、応援してもらってるというのを実感できて、よかったです」と話した。

前出の藤本凱風に、高校からの1学年後輩にあたる大谷について語ってもらった。
「大谷が高2になったときから一緒に試合に出るようになって、最初は下手くそやったんですけど、みるみるうちに成長していったのをよく覚えてます。大学に入ってきたときには、『俺が見てない1年で何があってん』ってくらいに成長してました。フットボールのセンスは本当にピカイチやと思います。下に大谷がいたから僕自身も負けられへんと思って頑張れたことも多々あります」

「大谷のいいとこは、ほんまに日本一マメな男なんですよ。練習着の用意一つでも、予備で何着も持ってて、誰かが忘れ物しても大谷のを借りて大丈夫やったみたいな構図を何百回と見てきました(笑)。そんなマメな人間やから、周りに人がいつも集まってるイメージがあります。同期はもちろん先輩、後輩、選手もスタッフもみんなから愛されてます」

昨秋の関西学院大学戦の試合前、大谷らLB陣が負傷欠場の藤本凱風(背中)と言葉を交わす(撮影・北川直樹)

そして藤本は大谷へエールを送る。

「LBで副キャプテンと去年の僕とまったく同じ立場になったんですけど、大谷と僕とではプレースタイルも違うし、リーダーシップ(性格)も全然違います。だから去年のやり方にとらわれずに自分のスタイルを貫いてほしいと思います! 人数も多いし、パンサーズディフェンスは変なヤツばっかりです(笑)。でも情熱あふれるヤツらばかりだと思うので、全員を巻き込んで、たくさん苦しんで最後に笑ってほしい! ケガだけはすんなよぉーーー」

2015年以来の甲子園ボウル出場、勝利のために

パンサーズは2015年以来、甲子園ボウルから遠ざかる。あの場所へ戻るために、そこで勝つために、高橋新監督は1990年代、そして自身が学生だった2000年代序盤に「アニマルリッツ」と呼ばれた獰猛(どうもう)な戦いぶりをチームに取り戻そうとしている。大谷は言う。「僕たちは勝ち方を知らない。健太郎さんは実際に続けて勝ってた時代にいたので、あの人の言う『アニマルリッツ』についていこうとしてますし、僕らも個人技で圧倒するパンサーズに憧れていたので、今年はそこを理想として頑張っていきます」

11年前の関学戦で太田が見せたスーパータックルは勇気に満ちていた。秋の大一番で、あの域に達した大谷のプレーが見たい。

仲間からの厚い信頼にプレーで応えたい(撮影・篠原大輔)

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