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特集:駆け抜けた4years.2024

立命館大QB庭山大空 エースを奪われ、かつての問題児が学んだ下からのリーダーシップ

最後のシーズン、立命館大のQB庭山大空はヘッドセットを付け、出場に備えた(すべて撮影・北川直樹)

2023年の関西学生アメリカンフットボールリーグ1部は関西学院大学、立命館大学、関西大学の3校同率優勝(6勝1敗)で幕を閉じ、キャプテンによる抽選で関学が全日本大学選手権へ進んだ。2015年以来の甲子園ボウル出場を目指していた立命館は第5節に38-27で関大に勝ったが、続く関学戦は10-31の完敗を喫した。高校で日本一を経験し、3年生の秋シーズンにエースQBの座をつかんだ庭山大空(にわやま・おおぞら、4年、立命館宇治)は、最後のシーズンを前に控えに回った。かつて問題児で知られた男は自分を抑え、エースQBとなった竹田剛(ごう、2年、大産大附)を支えきった。

【特集】駆け抜けた4years.2024

思い出の地で迎えたリーグ最終戦

リーグ最終戦の京都大学戦。会場の万博記念競技場は4年前、庭山が立命館宇治高校のエースQBとして関西学院高等部との激戦を制し、クリスマスボウル進出を決めたフィールドだ。あの試合の先制タッチダウン(TD)は高校でも大学でも主将を務めたTE(タイトエンド)山下憂へのパスだった。この日、アップをしながら庭山と山下は「思い出深いな」と話していた。

庭山はそれまでの6試合と同じようにサイドラインでヘッドセットを付け、スタンド上方のスポッター席とやりとりしていた。7-35で迎えた第2クオーター(Q)終盤、庭山がフィールドへ。スタンドからは「がんばれ大空!」の声が飛ぶ。第4Q最初のプレーは自陣48ydからの第3ダウン7yd、ハッシュ左。庭山はパスの構えから得意のスクランブル。真ん中を抜けると、2人のタックルをかわして右オープンに出た。最後はインカットし、京大のタックラーに思いっきり突っ込んだ。35ydのゲイン。庭山ならではのやんちゃな走りだった。

思いきりのいい走りが庭山の持ち味だ

山下へのTDパスは京大のナイスカットに阻まれたが、次のプレーでエンドゾーン右へ走り込んだTE大島秀太(2年、立命館守山)へリードボールを投げ、大島がダイビングキャッチで応えた。庭山は「自分らしさをフィールドに残して、いままで支えてくれた親に恩返しできたらと思ってました。らしさは出たかな」と言って笑った。

エース落ちを告げられ「最初は受け入れられなかった」

3年の秋シーズンではエースQBを任されたが、関大、関学に敗れて3位。今年こそ、の思いで迎えた大学ラストイヤーだった。しかし7月に入ってすぐ、オフェンスコーディネーター(OC)1年目の長谷川昌泳コーチ(2023年度限りで退任)から「エースは剛でいく」と告げられた。肩が強くてランもいい4年生QBの宇野瑛祐(立命館守山)も同席していた。長谷川さんはこの決断について、関学戦前の記者会見でこう語っている。

3年秋の関学戦、青い壁を打ち破れなかった

「2月の時点で3人を前にして、私がOC初年度を迎えるにあたっていろんな話をしました。春のシーズンは力のある大学さんと試合をさせてもらいました。その中で基本的には3人を均等に起用しました。その方針と、内容を見ていくよということは2月の時点で伝えていました」

「その結果、成長度合いで言うとですね、やはりシーズンを通してみなさんも見ていただいていると思うんですけども、剛の成長はめざましくてですね。高校生の時分、彼の本職はDBだったんですね。それで3年生になって(大産大附高監督の)山嵜(隆夫)先生もずっと悩んでいらっしゃったんですけども、『剛しかいないだろう』ということでQBをやり始めて。たぶんQBとしては高校では10試合ぐらいしか経験してないと思うんです。その中で大学1年を迎えて、なかなかチャンスもなくて伸びきれなかったところで、今年の春を見たときの成長曲線が、4年生の2人を大きく凌駕(りょうが)していたと私は感じましたので。完成度という意味ではまだまだ足りないと思いますけど、彼に託そうという判断をしました」

「ほかの2人、大空と宇野も春の結果はよかったんですよね。だから競争力の高さを彼らが担保してくれた。そこにちゃんと乗っかってきてくれた竹田という形なので、何も竹田1人で伸びたわけではなくて、あの2人がいたからこそいまの彼があるんだなということは、彼も重々承知してますし、私も確信しています」

庭山がエース落ちを告げられたころを、こう振り返る。「最初は到底受け入れられませんでした。判断を下した人への憤りがなかったといえば、うそになります。しばらくは気持ちを切り替えられなかった。でも、このまま自分が腐ってたら、日本一になるという目標に対してどうなのかと。4回生として情けないし、チームにもよくない。毎日の練習から剛のレベルアップをどうサポートできるかに徹すると決めました。ただ、自分が試合に出ることをあきらめたわけじゃなかったです」

3年秋の関大戦、追い上げのTDランを決めたが、5点差で敗れた

後輩に伝えた「この景色をよう覚えときや」

宇野とともに竹田を支える日々が始まった。小学生でフットボールを始めたときから蓄積してきたQBとしての知識を授け、一緒に次の対戦相手の映像を見てはアドバイスをした。試合中も、初めてオフェンスを率いる竹田が気持ちよくプレーできるように声をかけ、落ち着かせた。竹田はシーズン中にこう言っていた。「庭山さんも宇野さんも、僕が高校のときからプレーを見てきたすごい人です。僕が逆の立場だったら、絶対あの人たちみたいに2回生のために親身になれない。ほんまに感謝してますし、だから僕はあの2人のためにもチームを勝たせないとダメなんです」

4年秋のリーグ最終戦、フィールドに入るとき、同期のQB宇野(左)が背中を押してくれた

最初のヤマである関大戦は乗り越えたが、関学戦は序盤にミスが重なって敗れた。その試合後、竹田は泣きながら誰もいなくなったフィールドを見つめていた。寄り添っていた庭山はずっと黙って竹田が時折発する声に耳を傾けていた。そして最後に「この景色をよう覚えときや」と言った。

リーグ最終戦の試合後、まだ全日本大学選手権進出の可能性は残ってはいたが、庭山が私の求めに応じてこの一年を振り返ってくれた。「濃い一年を過ごせました。いままでずっとチームスポーツをやってきたのに『結局、個人競技と何が違うん?』と思ってた自分がいました。やっと分かりました。チームスポーツで学ぶべきことが、この一年にギュッと凝縮されてた。下から支えるリーダーシップは自分に欠けてた部分だったから勉強になりましたし、自分の幅が広がったと思います。いろんな人と出会い、いろんなことがあり、対立もあった。これをどうプラスに持っていくか。それが今後の人生の課題かなと思ってます」

竹田に伝えたいことについては、こう語った。「フットボールは結局QB次第と言われるけど、どれだけ多くの人に支えられて自分がプレーできてるかを思ってほしい。フィールド上だけでもほかの10人が自分を支えてくれる。だからこそエースQBの一つの行動が、チームに大きな影響を及ぼす。生きづらいと思う。でも自分を追いつめることが成長につながる。大一番でいつも通りプレーするためには、練習から自分にプレッシャーをかけないといけない。だから毎日苦しいと思う。ほとんどが苦しくても、剛には最後に輝いてもらいたいです。

2023年秋シーズンを戦い抜いた立命館のQBたち(左から竹田、宇野、庭山)

置かれた場所で咲ききった

人は変われる。実は庭山は関学育ち。小学生のときにファイターズが運営する上ケ原ブルーナイツで競技を始め、関学中学部に進んでタッチフットボール部に入った。中3になるとき、新チーム立ち上げに向けた話し合いでチームメイトと衝突した。当時を振り返り、庭山は「いまの自分がその場にいたら、『何やコイツは』って思うぐらい問題児でした」と話す。庭山は部を去り、クラブチームの大阪ベンガルズへ。そして立命館宇治高に進んだ。紆余曲折(うよきょくせつ)があって自分の未熟さを知り、彼は変わった。

入学前に思い描いた4年間ではなかった。それでも、庭山大空は置かれた場所で咲ききった。

学生最後の試合となった京大戦で、庭山は大空を見上げた

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