立命館大・長谷川昌泳OC 高校時代からの「打倒関学」へ、信頼する後輩たちと一緒に
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月11日に大一番を迎える。昨年3位の立命館大学パンサーズと前人未到の甲子園ボウル6連覇を狙う関西学院大学ファイターズの5戦全勝対決だ。勝者はまずリーグ優勝を決める。8度の大学日本一を誇る立命館も2015年を最後に甲子園ボウルから遠ざかる。関西学院という青い壁にはね返され続けてきたからだ。今年2月、攻撃面の最高責任者にあたり、プレーを決めるオフェンスコーディネーター(OC)に、パンサーズの黄金時代を築いた一人、OBの長谷川昌泳さん(しょうえい、40)が就いた。後輩たちとともに関学を破り、8年ぶりの甲子園ボウル出場へ大きな一歩を踏み出せるか。
長谷川コーチは大阪産業大学附属高校から立命大へ進み、WRとして活躍。在籍した2001~04年度に甲子園ボウル3連覇、ライスボウル2連覇を経験した。松下電工(当時)へ進み、NFLヨーロッパ(当時)でもプレー。日本代表として出場した2011年の世界選手権でのけががきっかけで、30歳で現役を退いた。13~17年度は日本大学フェニックスでコーチ。17年には日大のOCとして甲子園ボウルで関学を破った。19年にXリーグのオービックでコーチを務め、20年から母校で指導にあたっている。立命のOCとして初めて関学戦を迎える長谷川コーチが7日の記者会見で口にした言葉が非常に印象的だったので、ここに文字で残しておきたい。これを読んでいただければ、関学戦に臨む立命館サイドの思いが最もよく伝わる気がする。
過去3年で実感した関学の「分厚い壁」
――関学との大一番を前にしたオフェンスの状況を教えてください。
私は2020年に立命館大学に復帰しまして、過去3年すごい分厚い壁にはね返され続けていて。もっとさかのぼること高校生の時分から勝手にライバルと思い、「打倒関学」でずっとやってきたんですが、「こんなに分厚い壁だったんだな」というのを、この3年間実感してます。その3年分の思い全部を背負ってやりたいと、今年2月に2023年のオフェンスが始動しました。学生同士で高め合うコミュニケーションが夏ごろから見え始めました。ああでもない、こうでもないというプレーに対する厳しい要求事項ですよね。そんな成長を見ていて、(関学と)いい試合ができるんじゃないかというところまで高まってきていると思います。
――関学ディフェンスの強さをどんなところに感じていらっしゃいますか。
今年もそうですけど、下級生から出てるメンバーがたくさんいます。そこが強みなんだなあと。うーん、言葉がどうかですけど、公平なと言いますか、競争力があるというかですね。毎年若いメンバーが入れ代わり立ち代わり出てくるということは、競争力が高いんだろうなと。上級生だからどうというのがないんだと思います。そこの分厚い壁を打破するには、私どもも当然、チーム内の競争力を高めていかないといけないというのがありましたので。学生たちが刺激し合って、そこを上回れるような競争力を身につけてくれているんじゃないかと思います。自チームでの競争力の高さというものが、試合当日のフィールドで出ると思ってます。
――10月29日の関西大学戦では何がよくて、どんな課題が残りましたか。
学生たちがよく準備してくれたなと思います。私はどちらかというとあまり色を塗らずにコミュニケーションを取り始めるんですが、すごいいい色づけをしてくれて形になった。成果が出たと思ってます。ただですね、1対1のところでいうと、関西学院さんは審判の笛から笛まで、スタートからフィニッシュまで自己の役割に最大限徹してきますので、そこでの意志の強さもそうですし、どんな状況であっても自分の役割を完遂するという徹底力ですね、そういったところに関しては関大さん相手でも少し甘いところが見えました。
どんなシステムをとろうが、11対11という構図は変わらないんです。でも感覚的に言うと、関学さんは一人ひとりが1じゃなく1.1やってくる。そうすると11人で12.1ですか。その総合力を上回るだけ一人ひとりが役割を徹底して、そこに関学に対しての彼らなりの思いを乗せてくれると、単純な11対11ではないと思ってます。
――関大戦のあと、RBの山嵜大央君(3年、大産大附)が「立命のオフェンスが学生最強だと証明できた」と話していました。
私はウチの選手に対して抜群の信頼を置いてます。力を出し切ってさえくれれば彼らが勝ち取りたいものは勝ち取れると信じています。
まばたきするように、息するように戦術を考える毎日
――OCとして臨む関学戦というのは重いですか。
重いです。すごく重いです。
――一日中、プレーについて考えていらっしゃるんですか。
まあ、まばたきするように、息するように。はい。
――ご自身の学生時代は関学に3勝2敗でした。
上級生にも同期にも下級生にも(いい選手たちに)恵まれましたので、ほんとにいい環境でやらせてもらえたので、そういう戦績になったと思ってます。
――世界選手権でのけががなければ、まだまだ選手を続けていましたか。いずれは指導者にという思いはあったんですか。
やってたと思います。学生時分にすべて計画を立てた通りにやってますけれども、やっぱりなかなかその通りにはいかず、35歳(で引退)だったものが30でとか、(指導者で)優勝してる回数がちょっと少ないですし。そんなに甘いもんじゃないなと思ってます。
――指導者として学生たちに伝えたいのはどんなことですか。
学生たちが自分たちで高め合えるような環境にチームを持っていってくれてるんですよね。自発的に目的を持って成し遂げるために執念を持ってやった結果、どういった成果が出るのかをしっかりかみしめてほしいと思いますし、結果がよくても悪くても、そういった取り組みをやってると(仲間と)向き合えると思いますし、向き合ったときにある意味学年やポジションによって変わるのかもしれないですけど、その思いを持ったときの自分と、成果が出たときの自分のギャップというか成長度合いを感じてほしいと思います。今年は学生たちを見てて、成長度合いが大きいんじゃないかと思ってます。
今年2月、3人のQBに伝えたこと
――いま竹田剛君(2年、大産大附)がエースQBで、去年のエースだった庭山大空君(4年、立命館宇治)と宇野瑛祐君(4年、立命館守山)がバックアップに回っています。この決断について教えてください。
時期でいいますと、夏です。2月の時点で3人を前にして、私がOC初年度を迎えるにあたっていろんな話をしました。春のシーズンは力のある大学さんと試合をさせてもらいました。その中で基本的には3人を均等に起用しました。その方針と、内容を見ていくよということは2月の時点で伝えていました。
その結果、成長度合いで言うとですね、やはりシーズンを通してみなさんも見ていただいていると思うんですけども、剛の成長はめざましくてですね。高校生の時分、彼の本職はDBだったんですね。それで3年生になって、(大産大附高監督の)山嵜(隆夫)先生もずっと悩んでいらっしゃったんですけども、「剛しかいないだろう」ということでQBをやり始めて。たぶんQBとしては高校では10試合ぐらいしか経験してないと思うんです。その中で大学1年を迎えて、なかなかチャンスもなくて伸びきれなかったところで、今年の春を見たときの成長曲線が、4年生の2人を大きく凌駕(りょうが)していたと私は感じましたので。完成度という意味ではまだまだ足りないと思いますけど、彼に託そうという判断をしました。
ほかの2人、大空と宇野も春の結果はよかったんですよね。だから競争力の高さを彼らが担保してくれた。そこにちゃんと乗っかってきてくれた竹田という形なので、何も竹田1人で伸びたわけではなくて、あの2人がいたからこそいまの彼があるんだなということは、彼も重々承知してますし、私も確信しています。
日大のOCとして関学に勝利「あそこまで達成感を感じたことない」
――山嵜大央君が「オフにも昌泳さんに会いに行ってしまう」と。それほど長谷川さんのことを慕っているようですが、彼はどんな選手ですか。
純粋ですよね。アメリカンフットボールに対して、それから自分のアスリートとして目指す方向に対してすごく純粋に取り組む子だなと思ってます。
――彼は今年体重を減らして体が自由に使えるようになったと。だいぶ違いますか。
トレーニングもたまに一緒にしたりしてたんですけども、まずは体を大きくしようかと春まではやってました。でもそこからシェイプアップして動きがスムーズになったというのは、彼が意図してやってたことなので、そういうところが彼の納得感を高めて、プレーに対して貪欲(どんよく)に取り組めているのかなと。要は自分がほんとに狙いを定めてやったことが成果につながったので、すごくいい成功体験で、彼にとっては体作りが大きなきっかけだったと思います。
――もしかしたらあまり触れたくないことかもしれません。長谷川さんは(日大時代に甲子園ボウルで)指導者として一度関学に勝ってます。あのときの思い出はどんなものですか。
関西学院に勝って、あそこまで達成感を感じたことはなかったかもしれません。現役のときよりも達成感はあったのかもしれないです。それを思い起こすような充実した期間を過ごしているなというふうに、いま私は感じています。
最後の質問を受けたとき、長谷川コーチはしばらく沈黙してから、かみしめるように言葉を紡いだ。ほかの問いに対しても、上滑りするような言葉は一つもなかった。高校時代から始まった「打倒関学」という青春は、40歳のいまも続いている。信頼する後輩たちと、関学に挑む。