アメフト

立命館大学LB藤本凱風 パンサーズの力と個人技で、関学のきれいなプレーをつぶす

クオーター間に移動するときもガイゼ(中央)は先輩とコミュニケーション(撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は、11月27日の最終戦で6戦全勝の関西学院大学と5勝1敗の立命館大学がぶつかる。すでに59度目の優勝を決めている関学が勝つか引き分ければ、単独優勝で全日本大学選手権準決勝へ進む。関学が負け、6勝1敗で関西大学も含めた3校が並べば3校同率優勝で、主将による抽選で選手権進出校を決める。

「失うものは何もない。思いきりやるだけ」

立命は10月30日に関大に敗れ、一時は自力優勝の芽が消えたが、関大が関学に負けたことで「関立戦」に勝てば優勝できることになった。パンサーズの元気印、LBの藤本凱風(がいぜ、3年、大産大附)は「一度死んだシーズンにこうやって奇跡的に帰ってきたんで、失うものは何もない。思いきりやるだけ。めちゃくちゃにしたろかなと思ってます」と言って、不敵な笑みを浮かべた。

身長176cm、体重89kg。ヒットが強く、思いきりのいいプレーが魅力だ。大きな相手OLにくっつかれて苦戦している姿も見るが、何とかして出てきて、ボールに絡もうとする。関大戦では、相手のQB須田啓太(2年、関大一)がランに出てタックルをかわした直後、藤本が体をぶつけ、ファンブルさせた。「関学戦でもああいうターンオーバー、起こしたいっすねえ」と、また笑う。

関学戦でも相手のボールを奪いにいく(撮影・篠原大輔)

小学生のころ病院に行くたび、名前を正しく呼んでもらえなかった。そこで「自分の名前はちょっと珍しいんやろな」と気づいたという。「凱」の一字は「かちどき」とも読み、「戦いに勝って叫ぶ声」という意味がある。ぴったりだ。いま、ガイゼは27日の万博記念競技場でその声を上げるため、今シーズン2度目の大一番に備えている。

高校入学前からパンサーズにあこがれ

小学校から大学まで、2年前のパンサーズの主将だった立川(たつかわ)玄明(現・パナソニック)と同じ道を歩んできた。中学までは野球。学校の部に入っていた中学時代、体育の先生に大産大附属高校アメフト部出身の人がいて、「立川に似てるタイプや」と、高校からアメフトを始めるよう勧められた。先にアメフトへ転向した立川の活躍ぶりも聞いていたので、やってみることにした。

新型コロナウイルス感染が広まるまでは、大産大附高は春休みに立命館大で合宿をしていた。入学前のガイゼも参加させてもらった。「あんなにデカい人がたくさんいるのを見たことがなかった。デカい人たちがビシッとしてる感じがカッコよくて、『これがアメフトなんか』と思いました。パンサーズという集団にエネルギーを感じて、『僕も立命でフットボールがしたい』と思いました」。本格的にアメフトを始める前にもう、パンサーズに心を奪われた。

早めにサイドラインに下がった甲南大戦。「一矢報いてくるぞ!」と叫んだ(撮影・北川直樹)

高校に入るとすぐにLBになり、それからLB一筋。最初は右も左も分からずに苦労したが、高2の春シーズンが終わったころ、フットボールを楽しいと感じられるようになった。先輩たちが引退し、山嵜隆夫監督からキャプテンに任命されたあとにすぐ、ガイゼは大けがを負ってしまった。絶望的な気持ちになっていると、山嵜監督はこう言ってくれた。「フットボールのかみさんは、絶対に見てるからな。どっかで見てるから。こういうときこそ、日ごろの行いをきっちりしなさい」。この言葉はずっとガイゼの心に残り、フットボールの神様への信仰心もあつい。

高3の秋は、大阪府大会の予選リーグで追手門学院に負け、決勝トーナメントへ進めなかった。そのときロングパスでガイゼたちからTDを奪ったのが、いま関学のエースQBである鎌田陽大(3年)だった。「鎌田にやられたシーンが脳裏に焼き付いてます」。ガイゼは苦笑いで振り返る。

「アニマルリッツ」を体現してみせる

大学では2年生から頭角を現し、関学との甲子園ボウル西日本代表決定戦にスターターで出た。その年の秋シーズン前、当時のキャプテンである平浩希(現・エレコム神戸)は4years.からの書面インタビューに対し、「期待する下級生」の欄にこう書いている。

2回生LBの藤本凱風です。LBとして、力強く且(か)つガッツ溢(あふ)れるプレーができるところが魅力だと考えますが、特に私が藤本に対し期待しているところは常に元気よくプレーし、それを他者に広げられる所です。時には辛い練習や厳しい状況もありますが、そんな時こそ元気よく、リーダーシップを発揮できる人物です。まだ2回生ですが、私自身、彼に助けられることもあり、感謝しています。
立命館大・平浩希「『今年は弱い』見返す」 関西1部主将インタビュー

先輩のLB飯田さんのように、すべての視線を集めるようなプレーを狙う(撮影・北川直樹)

キャプテンにここまで言わせる2年生はなかなかいない。どんなときでも前向きなハートが、ガイゼのフットボールの核にある。

理想のLBは大学1年のときの4年生だった飯田哲平さんだ。飯田は2020年の関西学生リーグで優秀守備選手賞を受けた。「タックルにいくときの嗅覚(きゅうかく)がすごくて、1プレーで会場のすべてを根こそぎ持っていくというか、スタンドのみんなが飯田さんを見ちゃうようなプレーをしてた。あこがれてますね」

さあ関学戦。やすやすと7年連続の甲子園ボウル出場に歩を進めさせる訳にはいかない。「アサイメントの図では表せないようなフットボールをするのが『アニマルリッツ』だし、立命館のディフェンスだと思ってます。今年はDLが暴れて、僕も暴れて、あとは隣のツボさん(主将のLB坪倉拓未)に何とかしてもらいます」。ガイゼはエンジン全開のトーンでまくし立てる。もう止まらない。

「フットボールを1試合やったら、やられるプレーも必ず何プレーかはある。やられたときに、どんだけハードタックルや強いヒットで相手の心を折れるか。そこを意識して1年間やってきました。やられたときでも自分の姿勢は曲げずに、強いヒットを打ち続けることによって、レシーバーも嫌がるはずなんです。1試合を通じて、そういうプレッシャーをかけていきたいと思います」

パスを通されても、追いかけてぶち当たる(撮影・北川直樹)

「アメフトのプロリーグを作りたい」

初めて呼ばれた関立戦前の合同取材。そろそろ終わりというときに、ガイゼは「最後に一ついいですか?」と言って、また口を開いた。

「僕は将来、夢があって、アメフトのプロリーグを作りたいなあと思って。そのために関立戦でフットボール人気を爆発させたいなと思ってるんですよ。関学のアサイメントとか、ブロックのコンビネーションとか、すごいきれいなフットボールって、アメフトに詳しい人が見たら『すごいなあ』『完成度高いなあ』と思うはずなんです。でも初めて見た人には、なかなか伝わらない。パンサーズの個人技、一人ひとりのハードタックル、ハードヒット、すごいキャッチ、すごいランが、初めて見た人を感動させると思って1年間やってきたんで、そういう試合にしたいなと思ってます。そして将来、ご協力お願いします」

ガイゼ、ナイス。

誰が見てもすごいプレーを関学にぶつける(撮影・篠原大輔)

in Additionあわせて読みたい