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関大・須田啓太、立命館・庭山大空、関学・鎌田陽大 関西学生3強QBの現在地

立命戦の試合序盤、関西大QB須田の気迫がほとばしった(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は10月30日に全勝対決があり、関西大学カイザーズが26-21で立命館大学パンサーズを下した。7年連続の甲子園ボウル出場を狙う関西学院大学ファイターズは同じ日、近畿大学に40-17で勝ち、全勝を守った。11月13日の関関戦の勝者がまずリーグ優勝を決める。この3強のオフェンスを率いるエースQBに4年生はいない。しかし、彼らのプレーは勝敗に直結する。3人は4年生に負けないぐらいフットボールにのめり込み、シーズン終盤を迎えている。

立命戦後、須田は「悔しい」と言った

立命を下した試合後、報道陣の前に現れた関大のQB須田啓太(2年、関大一)に笑顔はなかった。「僕自身は48点ぐらいです。最初にタッチダウン(TD)いけたのはよかった。そのあとはディフェンスに助けられたし、オフェンスのほかのメンツのおかげです。僕は何もできてません。勝ったのはもちろんうれしいですけど、自分のプレーはめちゃくちゃ悔しい。次は自分の力でチームを勝利に導けるように心も鍛えて、一回り二回り大きくなって関学戦に臨みたいです」。一気にそう話した。

須田が立命戦で唯一自分をほめた先制TD(撮影・篠原大輔)

須田が口にした先制TDに、彼のこの一年の思いが込められていた。

昨年の甲子園ボウル西日本代表決定準決勝で立命と対戦。1年生QBの須田はいきなりインターセプトされて、地に足が着かないまま1点差で負けた。その1年前、高校最後の試合も1点差で負けていたこともあって、「また1点差か」と須田は大泣きした。

そして1年後。最初のオフェンスで関大は相手ゴール前6ydに迫った。第4ダウン残り4yd。関大はタイムアウトをとり、ギャンブルに出た。須田が中央付近へのラン。OLのブロックで道が開いた。突っ込む須田。相手DL水谷蓮(4年、高槻)に体をつかまれたが、須田は足を止めない。水谷の巨体を引きずり、最後は体をねじるようにしてエンドゾーンに倒れ込んだ。意地と気迫に満ちた先制TD。今日の須田は違うと思わされたが、直後に暗転した。

次のシリーズ、自陣でスクランブルに出てファンブルロスト。左からタックルに来たLB坪倉拓未(4年、立命館宇治)の当たりを受けた瞬間、右からLB藤本凱風(がいぜ、3年、大産大附)が突き刺さってきた。須田はボールを落とした。「右から来たのは見えてませんでした」と須田。ゴール前37ydでボールを渡すピンチとなったが、ここはディフェンスが踏ん張ってゼロで切り抜けてくれた。

その後は鋭いランはなく、パスの精度も上がらなかった。ただ、彼が「相棒」と呼ぶ同学年のWR溝口駿斗(滝川)が相手に競り勝ち、捕って走って123ydの前進。この日チームのオフェンス総獲得距離241ydの半分以上だ。2人はサウナ仲間でもある。「須田君の調子が悪くても、溝口君が整えてくれた?」と質問すると、「はい」。そのときだけ、いつもの笑みが広がった。「次こそ」の思いを胸に、昨秋10-20で負けた関学に挑む。

須田はこのとき、OLの先輩2人の涙にもらい泣きしたそうだ(ここからすべて撮影・北川直樹)

初のビッグゲーム、庭山のはまった罠

3人の中で最初に負けを経験したのが、立命のQB庭山大空(3年、立命館宇治)だった。庭山は今シーズンからエースQBの座をつかんだ。高2のクリスマスボウルで佼成学園(東京)を相手に大逆転負けを経験。翌年は佼成に借りを返して高校日本一になった。小3から積み重ねてきた豊富な試合経験から「こうなったら負ける、というのは肌感覚で分かる。負けないフットボールを展開していきたい」と話していたが、関大戦はうまくいかなかった。

第2クオーター(Q)終盤、パント隊形からのスペシャルプレーを絡めてゴール前へ。残り6yd、庭山が持って左オープンをまくり、TD。14-20と追い上げてハーフタイム。後半最初のシリーズは自陣13ydから。3度のパスを決め、3度のランでゴール前6ydへ。最後は庭山が昨年のクリスマスボウルで大活躍したWR仙石大(1年、立命館宇治)に鋭いパスを決めてTD。21-20と、この日初めてリードを奪った。

前半残り2分を切り、立命QB庭山が左オープンを駆けてTD

第4Q、試合残り5分19秒からのオフェンスは、自陣5ydから始まった。「自分としてはタッチバックのつもりで見てました。心がざわついたのは事実です」。庭山がそう言った直前のパントは、この日関大が蹴った最初のパントだった。

パンター金森陽太朗(2年、南山)が滞空時間のあるパントを中央へ蹴り、右からDB吉山成幸(4年、池田)が、左からDB野々村拓真(4年、関大一)が、リターナーに入った立命WR伊佐真輝(4年、立命館宇治)へ向かって走っていった。捕らずにタッチバックを狙う選択肢もあったが、伊佐は捕って少しでもリターンしようとした。しかし、両大外から出た吉山と野々村のパントカバーが素晴らしかった。最短距離で伊佐へ向かい、まず吉山が飛び込む。これは伊佐にかわされたが、すぐに野々村が低いタックルを決めた。

タッチバックによる自陣20ydからでなく、5ydからのオフェンスとなり、「心がざわついた」という庭山。最初のランで2ydロスした際、RB平松的(いくは、4年、立命館宇治)の足がつった。もともと第4Q序盤にRB山嵜大央(2年、大産大附)が負傷退場(その後復帰)した時点で、庭山は「自分が何とかしないと」との思いを強くしていたという。さらに平松が負傷。第2ダウンのパスを失敗し、庭山の心は追い詰められていた。「何かに託すというのではなくて、自分でどうにかしないといけないという頭に切り替わってしまった」と庭山。そして第3ダウン残り12yd。右へ逃げながら投げたパスが、関大DB金山将龍(4年、関大一)に奪われた。そこからの関大オフェンスに逆転TDをとられ、立命は負けた。

「スカウティングの段階で、あのゾーンは開くというのがある程度見えてました。でも相手のブリッツも入れどころを考えてきて、逃げざるを得ない、流れざるを得ない状況が作られてました。確かにゾーンは開いたんですけど、自分が右へ流れたことによって、もうちょっと引いてるはずのセーフティー(金山)が上がってきてるのが見えずに投げてしまった。いつも通りの自信があれば、あそこは投げずに走ってフレッシュ(攻撃権の更新)ができたでしょうし、本来はそうあるべきでした。試合を通じて、ブリッツを入れさせない状況にしていくべきだったんですけど、相手にしたら『ブリッツ入れたら止まる』という絵にしてしまっていたので……。あのシリーズは自滅かなと思います」。庭山は試合後、痛恨のインターセプトに至った心の動きを、こう語ってくれた。

関学戦までの1カ月、最高の準備をするしかない

立命は11月13日の近大戦を経て、27日に関学とリーグ最終戦を戦う。関関戦で関大が勝てば、関大のリーグ優勝と全日本大学選手権準決勝への進出が決まる。庭山は複雑な心の内を話した。「日本一という目標に対して、関大戦の自分の出来はふがいないものだったと、心底重く受け止めています。他力本願になってしまいますけど、関学さんを信じて、一方で僕らは関学さんを上回る取り組みを1カ月やる。関学戦はいつもの自分で戦いたい。シンプルに考えて、自分自身の売りをもっと出していきたいです」

関学QB鎌田は2週間で変われるのか

7年連続の甲子園ボウル出場を狙う関学。QB鎌田陽大(はると、3年、追手門学院)はエースとなった昨シーズン、2人の強力な4年生RBに助けられながら成長し、大学日本一にたどり着いた。背負うものが大きくなったエース2年目のシーズン、大村和輝監督の表現を借りれば、「ピリッとしない」。

エースQBとしての真価が問われている関学の鎌田

関大と立命が熱戦を繰り広げた直後のフィールドで、近大と戦った。関学のオフェンスが非常に大事にしているファーストシリーズ。ゴール前12ydまで進んだが、鎌田がエンドゾーンへ投げたパスが、インターセプトされた。その後は得点を重ね、後半は1年生QB星野秀太(足立学園)の活躍もあって快勝したが、やはり最初から主導権を握れなかったことが、コーチ陣としては気がかりだ。大村監督は「入りの部分がうまくいかないと、立て直しに時間がかかってしまう。レシーバー側のミスもあったけど、鎌田はまだまだ腹が据わってない感じですね」と語った。

QBとして一回は通る道ですか? と大村監督に尋ねると「まあそうですね。去年うまくいってるから、『うまくやりたい』と思ってしまってる。そうじゃなくて、負けを受け入れる覚悟をしておく。『やってアカンかったらしゃあない』と腹を決めていかないと」。関学というチームは、そうやってギリギリの戦いに臨み、勝ちきってきた。

今シーズン初戦の甲南大戦で、ルーキーの星野をフル出場させた。2戦目の京大戦は鎌田が先発したが、20-7とまだどうなるか分からない時点で星野にスイッチ。その試合後、大村監督は「鎌田あかんから代えて、とコーチに言いました。練習から甘いから、波がある。鎌田が去年から試合に出てるアドバンテージは、もうないです。いいことですよ。チームにとっては」と話していた。そして第5節の近大戦を終えても、鎌田に関して合格点を与えるようなコメントは出てこない。

鎌田は近大戦後、「守りに入ってた部分がありました。パスを決めないといけないというのは、去年より格段に増えた。少なからずプレッシャーはあるけど、そんなこと言ってたら勝てない。うまく向き合っていくしかないです」と話した。まだ吹っ切れて立ち向かえる状況ではないと、自分でも分かっている。

関大戦までに、負けを受け入れる境地にたどり着けるか

4年生の糸川幹人(箕面自由学園)、梅津一馬(佼成学園)、河原林佑太(関西学院)に3年生の鈴木崇与(たかとも、箕面自由学園)、衣笠吉彦(関西学院)と、レシーバー陣は充実している。この5人について大村監督は「どこへ出しても勝負できる」と表現する。あとは鎌田が彼らへ投げ込むだけだ。

この2週間で変われると思いますか、と鎌田に尋ねた。「自信はあります」と返ってきた。

秋が深まる。誰が笑い、誰が泣くことになるのだろうか。

※記事公開後の11月8日午後7時ごろに、表現の一部を修正しました。

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